第3話

 その彼氏、時雨しぐれくんとさくらに紹介されてから時雨くんと藍里も呼ぶ。

 さくらよりも6歳年下で三十四歳、(藍里にとっては10いくつ近く上になる)背は藍里と同じくらいの166センチ。少し童顔で実年齢には見えないが最近の流行は知らないようで、その辺りが三十四歳だなと藍里は感じた。


 なんと時雨がその日から一緒に住むことになったのだ。

 今まで女二人の生活に見知らぬ若い男性。父親とも最近暮らしてないし、神奈川での転校先の学校では男子とも馴染めず、男性とろくに喋ることはしばらくなかった。


 時雨はもともとは名古屋の料亭で働いていて、そこでさくらは出会って一目惚れして付き合うようになったとのことだが、その直後に料亭は経営不振で潰れて住み込みで働いていた時雨が宿なしになってしまったところをさくらが助けたのである。


 もちろん時雨はさくらの部屋で寝起きする。しかししばらく仕事先が見つからず、なおかつさくらが仕事でいない時が多いため料理や家事が得意な時雨が受け持つことになり、お小遣い付きの家政夫として雇われたという形になったのでほぼ家に時雨がある状態。


 つまり藍里はさくらよりも時雨と過ごす時間が多くなるというわけである。

かといいつつも藍里はさくらのことを援助するためにアパート階下にあるファミレスの厨房で働いてた。


 ウエイトレスの可愛い服を着たかったがそれを横目に奥の厨房で夏休み中は皿洗いから始まり、夏休み終わる頃にはメニュー全て食べ尽くし、覚え、盛り付けや仕上げも任せられるようになるが、家事を手伝ったり料理はしたことが無く、あまり上手くいかず……夏休みは与えられた課題をするなどで受験前の高校2年生の夏休みは終わってしまった。


 そんな藍里のそばには時雨は毎日いたし、昼のファミレスの賄い以外は時雨の料理を食べていた。


 見た目も綺麗で、美味しい、そして手際良い彼の料理に藍里はすっかり胃袋を掴まれ、優しく微笑み勉強を教えてくれたり、愚痴を聞いてくれる時雨に心も掴まれていた。



 でもあくまでも時雨はさくらの彼氏である。時間が不変動なさくらの仕事。

夜遅くに仕事して朝早く帰ってきて疲れて帰ってきた時、藍里はまだ寝ていたがドアの音で帰ってきたのはわかっていた。


 少ししたあと、藍里はリビングに行く手前でドアノブを回すのをやめた。


 リビングにさくらと時雨が2人でいる。時雨がさくらに甘えていた。それに応えるようにさくらも甘い声を出す。


 昨晩、藍里と時雨二人でゲームして過ごして笑いあってたあのソファーでさくらと時雨は愛し合ってるのだ。


 そこで藍里は時雨はさくらのものだ、と気付かされる。


 部屋に戻って布団をかぶると心臓がバクバク言ってることに気づく。まだ藍里には男女の深い関係どころか甘い関係を経験したことはない。ドラマや映画、漫画でしか知らない。

 そしてさくらがあんなに父に体を触られて拒絶していたのに今では時雨に体を許し、甘い声を出している、彼女も大人の女であるのかと。そして時雨のあの声も……聞いただけで何か身体の部分が熱くなる。


 1時間経ってからそろそろいいかと藍里はわざとドアを音が鳴るように開けて足音も大きくリビングに向かう。まだ二人一緒だったら……。


「おはよう、藍里ちゃん。朝ご飯できてるよ」

 屈託のない笑顔の時雨くん。ふとリビングのソファーを見る。二人はあそこで……なんぞ思いながらもダイニングの上に置いてあるホットドックとコーンスープとサラダ。


 さくらと混ざり合った後に作ったのか、複雑な気持ちでまずコーンスープを飲む。


「ママは?」

「さくらさんは寝てるよ。今日もお昼まで寝てるらしい」

「そうなんだ。じゃあ起きたら私はいつもの時間に上がるよって言っといて」

「わかった。伝えとく」


 と時雨もホットドッグを齧る。すこし粒マスタードの辛味が舌に来たが、今まで知らなかった時雨の大人の男な部分を知り、藍里は下の中はとても辛味と苦味が混ざる。


「辛かったかな……粒マスタード」

「……うん。でもこれがあるから美味しさ引き立つのかな」

「高二でこの美味しさ知っちゃったな」

 ニカっと笑う時雨。そして何かに気づき、藍里の口元に指を近づけた。

 時雨の右人差し指が藍里の口の端についた粒マスタードを掬い、そのまま自分の口に入れた。


 その仕草に藍里はドキッとした。

「……付いてた」

時雨も藍里のことを見ていた。なんとも言えない空気感が二人の間に流れる。

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