ゴミ

 ゴミみたいな小説を書きたいと常々思っている。誰にとっても価値のない、何の意味もない小説。存在してもしなくてもどちらでも構わないような小説。僕には学がなく、教養もなく、才能もなく、とにかく何もないから、誰にも読まれないようなゴミみたいな小説が書きあがることは、半ば必然的なことでもあるのだけれど。

 僕が書きたいゴミ小説を箇条書きにするとこうなる。

・雑な伏線。

・超展開。

・荒唐無稽なストーリー。

・何の魅力もないキャラ。

・意味深だがよくよく読んでみると何の意味もない。

・シンプルにつまらない。

 もっと色々やりたいことはあるが、大体は以上のようなことになる。

 それにしても、世の中意味のあるものが多すぎる。気味が悪い。もっと下らない無価値なものがあってもいいのに。たとえば、僕が書く小説のようなものが、この世に溢れたらいい。秩序もなく、面白味もない世界になりゃあいい。そう思う。

 

・伏線を重んじる風潮が気持ち悪い。伏線がそんなに好きなら現実を見ればいいだろう。

・展開なんて適当でいいんだよ。予想さえできなきゃなんでもいい。

・荒唐無稽なものが好きだ。

・魅力なんてなくてもいい。どうでもいい。

・小説に意味なんてなくてもいいんじゃないか。

・つまらない小説が増えれば、それだけ貶す材料が増えるんでしょ。


 男は紫色のパンケーキを片手に走っていた。今日で二度目だ、競技場を紫色のパンケーキ片手に走るのは。それにしても今日は暑いし寒い。許されるならば、モヒカン頭になりたいものだ。

 そうこうしていると、村長が並走してきた。

「クリスタルスカルのある場所を知りたいと言っていたそうじゃが?」

「どっか行けこの野郎」

「蔦屋にあるという噂を聞いた。一度行ってみたらどうじゃ?」

「どっか行けこの野郎」

 男は紫色のパンケーキを村長の顔めがけて投げ、競技場の外へと走り去った。五月の下旬のことである。

 隕石が落ちてきた。

 男はそれをキャッチしてゴミ箱に捨てた。

「モスキート音で一曲作りたいな」

 二個目の隕石は村長の腰に落ちて、彼の腰痛を治す一方で、彼が長年悩まされていた頭痛を治すことはなかった。

「お前は若いんだからさ、大丈夫だよ」

 これは村長がまだ若い時分に知人に言われた台詞である。村長はこの知人をナイフで切り刻んで殺した。その知人の恋人は焼却炉に放りこんだ。知人の父親は冷凍庫に入れたあと、国道に放り投げたし、母親は轢き殺した。

 昔の話である。

 もう何にも話すことがない。

 男は蔦屋に行って友人の泥棒に黒いストロベリーアイスを奢ってもらい、友人の墓参りに行くことにした。その友人は、切り刻まれて殺されたのだ。葬儀には恋人も、両親すらも来なかった。彼らも殺されたからだ。

 墓の前で男は呟く。

「お前と最後に会ったのは……」

 背後に気配。振り向くと忍者である。

「何だお前は」

「フーテンと言えば多少聞こえはいいかもしれないが、ただ無職なだけじゃねえか」

「うわ」

 手裏剣が飛んでくる。その速度はちょうど秋ごろに見られるトンボが車の上をちょこまかと飛んでいる時に似てなくもない。

「コンビニ行きてええ」

 男が叫ぶと、忍者は死んだ。オールトの雲との関係が指摘される。

 空からはドラゴンである。男はドラゴンを無視して家に帰った。

「東京ってやっぱ、東京だよな」

 夕暮れを背に、男は夕暮れを背にしていた。


「まったくどうしてわざわざつまらない小説を書く必要があるのか、僕には甚だ疑問だね。無意味なものは無意味なんだよ。不要だよ。無価値な人間もそうさ。要らないんだよ。斬り捨てちゃっていいよ。僕? 僕は才能に恵まれ容姿端麗な恋人もいるスーパーマンさ。彼女との交尾は最高だよ。君に貸してあげようか? はははははは。さっさと僕の眼の前から消えてくれないか目障りだ」

 

 草原で缶ビールを開けて、川をぼんやりと眺める。下らない時間だ。この時間を有効活用して何か資格を取った方がいい。何もしていない。それ自体が罪だ。何の生産性もない時間をつくるな。すべてが生産性、効率性のために動くべきだ。人はいつか死ぬのだからすべての行動に意味があるようにしろ。いいか、お前はクズなんだ。人より劣っているんだ。だから、人一倍努力しろ。社会に貢献できないクズになるな。いいか、賢くなれ。賢くないと人に騙される。騙す側になれ。そうすりゃ最高の人生だ。

 うるせえ。

 缶ビールを川に投げる。

 うるせえ、うるせえ、うるせえ。

 どいつもこいつも。

 好き勝手言いやがって。


 僕は無価値な人間だ。でも知るか。とことん生きてやる。


 僕は川に飛び込んで死んだ。


完。(宇宙で一人ぼっちになりたいと思う。そこで永遠に映画を作り続けるのだ)

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