架空論文

古典的詭弁論概論 期末課題

「バナナに関するいくつかの考察」


1. はじめに

 「バナナはおやつに入るのか」という議論は古典的な命題である。哲学者だけに限らず、社会学者や心理学者もこの課題に取り組んでいる。しかし、現在のところ定説は存在していない。それは問い自体がナンセンスであるから、というヴィトバナゲンシュタインの説もあるが、その後の研究者は「バナナはおやつに入るのか」という議論自体を議論し、そしてその議論も定説はない。その議論を議論する議論も議論協会において議論会議として議論されたが、公的には黙殺された。そもそもバナナとは何であるかという概念自体に疑問を投げかける論者もおり、いわゆる「バナナ問題」に関する議論は混沌とした状態に陥っていて、解決には至っていない。そこで本論では、この「バナナ問題」に関する議論を整理し、いくつかの解答を提示することを目的とし、論を進めていきたい。


2.「バナナ問題」研究史

 「バナナ問題」の歴史は古く、問題の端緒は紀元前に遡る。アレクサンドロス3世の時代である。アレクサンドロス3世がインドに遠征した際にバナナを見たという記述がある。アレクサンドロス3世は最初バナナをいちじくと認識していたようであるが、それは、中東においてバナナがいちじくと呼称されていたからである。書記官エウメネスの書簡には「黄色き珍奇なる果実実に奇怪であり毒あるかと推測し従者に毒見」とあり、当時のヨーロッパ人がいかにバナナについての知識がなかったかを窺い知ることができる。エウメネスは同様の書簡において「黄色き珍奇なる果実是食事か間食か」と書いており、すでにバナナが食事として食べれば良いのか、それともおやつとして食せば良いのか分からないという悩みが記されており、「バナナ問題」の端緒をここに見ることができる。

 その後長らく「バナナ問題」は放置されていたのだが、20世紀に入ると盛んに議論されるようになる。その端緒は不明であるが、ヴィトゲンシュタインは著書『論理哲学論考』の初稿において「バナナについては沈黙せねばならない」という意味深長な言葉を記していたという。しかしこの文言はラッセルの助言により削除されたという。その後ジャック・ラカンは「現象界・バナナ界・想像界」という定義を発表し、バナナは現象界と想像界の間で揺れ動く概念であると定義づけた。科学分野でもオーストラリアの科学者シュレディンガーがいわゆる「シュレディンガーのバナナ」と呼ばれる有名な思考実験を行い、「バナナの状態はそもそも不確定的ないし確率的であり、バナナは重なり合った状態で存在し、それを人間が観測することによってバナナが収斂して結果が定まる」という見解を示した。この科学的な議論は「バナナ量子論」と呼ばれ、さまざまな論文が書かれ、アインシュタインが特殊相対性バナナ理論を発表するまで続いた。特殊相対性バナナ理論では、バナナの価値はおやつではない場合において不変であるとされ、バナナを中心に時空間が歪むとされた。こうして科学的には「バナナ問題」に理論的な見解が示されたわけであるが、バナナがおやつに入るのかどうかという点については見解が示されていない。

 

特殊相対性バナナ理論

おやつ∩おやつ以外=バナナ・・・式①

N=バナナ a=変数 おやつ=D

a N=D の時

バナナの価値(g)









                  バナナの本数(n)

N=バナナ a=変数 おやつ≠D

a N=D の時

      バナナの価値(g)









                   バナナの本数(n)


※つまりバナナがおやつだった場合、バナナの本数とともにその価値は上昇するが、バナナがおやつではなかった場合、バナナの価値は不変である。それはおやつであるということそれ自体に付加価値があるからだと推測される。

※ グラフは国防上の観点から削除されている。


 哲学の分野においてはその後さまざまな議論が交わされ、日本においても西田バナ郎が「絶対矛盾的バナナ同一」という見解を示した。「絶対矛盾的バナナ同一」とは、簡単に言えば「一面において昨日のバナナと今日のバナナは、同じではない。心身ともに異なっているからである。しかし他面において両者は、「バナナ」という一個の固有名で指示される。その意味で両者は同一なのである。……同じではないが同じ存在なのである。その意味で両者は矛盾的存在なのである。……このように、一つのものを多面的に捉えて、一つに表すのが、西田哲学の特徴なのである」(黒崎 2005)ということである。西田はバナナを多面的に捉えながら一つの存在として捉え、矛盾を孕んだ存在であると定義した。この西田の見解は、シュレディンガーの見解と部分的に重なる点がある。まとめると、バナナは観測されるまで不確定な状態であり、観測されると一つの像を結ぶ。一方でその1つのバナナは多面的な要素を含んでおり、しかし一つの存在でもあり矛盾している。以上の結論が得られる。


3.バナナに関する議論の整理

おやつーポテトチップス、チョコレートなど

おやつ以外―おにぎり、机、タモリなど

中間―バナナ

 以上が一般的なおやつに関する見解である。バナナはおやつとおやつ以外の重なり合った部分に存在しており、中間的な存在であると言える。本論では便宜上バナナを「中間存在」と定義する。バナナが中間存在である以上バナナはおやつでもあるし、おやつでないとも言える。そうだとすれば、なぜバナナのみが中間存在として人々の観念に位置しているのか。その問いに答えるためにまず、バナナに類似した存在についてその位置づけを確認したい。バナナは果実である。リンゴも同様だ。しかしリンゴはおやつとして認識されていない。それはなぜか。おやつが甘みを含んだ存在であると定義すれば、リンゴはおやつとなるが、同様にバナナもおやつと定義される。ではなぜリンゴは中間存在ではないのか。それはリンゴが簡便な存在ではないから、ということができるだろう。バナナは弁当に入れるには大きすぎ、皮を簡単に剥いて食べることができ、また持ち運びが便利である。一方リンゴは切れば弁当に入れられるが、そのまま持っていくには重みがあるし、皮の処理という問題が発生する。以上の点からリンゴはおやつと認識されないと結論づけられる。

 おにぎりは持ち運びが便利であるが、おやつと認識されていない。それは甘みがないためと思われる。甘みがないおやつもあるが、一般的におやつは甘味のあるものとして認識されている。以下はその認識を確認するアンケートである。


おやつは甘みがあるか

ある ない 無回答

5% 2% 93%

※回答者数は機密保持の観点より公表は不可となっている。

(国防庁 2004)


 以上のことより、バナナはおやつでもあり、おやつではない、という特殊な存在であるということが確認できた。


4. 今後の展望

 アレキサンドロスはバナナを剥いて食べるものだと言われた時、「そんなバナナ」と言ったという。この言葉は彼の墓碑に刻まれることで人口に膾炙することになる。池田内閣の打ち出した政策に「バナナ倍増計画」という政策があるが、このことからも人々がどれだけバナナに関心を持ち暮らしていたかがわかる。「バナナとは宇宙である」とは私が今作った言葉だが、本当にその通りであると思う。結局バナナの定義や解釈は人それぞれであり、バナナとは西田の言った通り矛盾した概念なのかもしれない。多面的であり捉え所のない飄々としたその様は、この世のあらゆる理から外れた神的な存在なのかもしれない。バナナとは何か、バナナはおやつに入るのかという議論は、小泉内閣の行った「バナナ改革」により一旦幕を下ろすが、近年になりさまざまな分野で議論が交わされるようになった。今後の研究に期待したい。


参考文献

ヴィトバナゲンシュタイン1921『論理バナナ哲学論考』岩風書店

エウメネス 著作年不明 『エウメネス書簡』岩明社

黒崎崎男 2005『黒崎的バナナ議論展開』黒々社

国防庁 2004 『国防上のバナナに関する調査およびその概要』国防庁

世界バナナ協会2004 『バナナ議論―世界はバナナでできているー』電波社

西田バナ郎 1939『絶対矛盾的バナナ同一』凡々社

日本バナナ連盟 2020 『バナナに関するバナナ的見解』混沌社

米河原伝助1950 『びっくり科学実験6 冷凍バナナで人を殴打しよう』

  日本バナナ科学者連合

米河原伝助 1951『びっくり科学実験7 バナナ刑務所ってどんなところ?』

  日本バナナ犯罪者連合


所感

 バナナという果実は実に不思議な果実であると感じた。身近な果実でありながらその背景にはさまざまなドラマが隠されている。バナナの謎という皮を剥けば剥くほどその深淵に入り込み、永遠バナナ回帰をすることになる。ニーチェは「バナナを覗く時バナナもこちらを覗いている」とか「バナナは死んだ」とか色々言っていたが、あながち虚無バナナ主義も間違いではないらしい。バナナを深堀すればするほどバナナについて分からなくなる。理解からむしろ遠ざかっているようにさえ感じる。ソクラテスは「無知バナナ」という至言を残したが、まさしくその通りである。「バナナとバハマって何か似てるよね」と言いながら毒バナナを食べたソクラテスに倣い、私も毒バナナを食べピストルでこめかみを撃とうかと思う(バナナフィッシュ症候群)。では、また。(絶筆)

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