天竺鼠

春雷

ごぼう

メタ

 僕は恋に悩んでいた。公園のベンチに腰掛けて、ため息を吐きながら、夕暮れに染まる街並みをただ眺めていた。

 僕は彼女に声をかけることさえ、まだできていなかった。彼女はサークルの先輩で、おそらく僕の顔は知っていても、名前は知らないだろう。サークルは週一回だから、彼女とは週一回しか会えない。最近は彼女はサークルに顔を出していないから、ほとんど会えていない。

「どうすればいいのだろう」

 僕は声に出してみた。でもどうすればいいのか、良い案は浮かんでこなかった。もう一度、ため息を吐く。

「それにしても、夕暮れは綺麗だなあ」

 僕はぼんやりと呟く。独り言は、僕の癖なのだ。

「変だな」

 その時、僕は何かしらの異変に気が付いた。

「この声、どこから聞こえてくるんだ?」

 僕は、どこかから声が聞こえてきた。何の声だろう。

「いや、今喋っている君だよ。どこから話しているんだ?」

 えーと、僕はその声の主を探そうと必死になった。額から、冷や汗が出た。

「出てないよ。僕の心の声を代弁しているのか?どこから話している?」

 どういうことだろう。僕はそう思う。僕は僕だろう。僕は自分で何を言っているのか、わけがわからなくなっていた。

「なってないよ。君の方こそわけがわからなくなっているんじゃないか?」 

 そんなことはなかった。僕は自分を見つめなおしてみて、自分が正常かどうか、確かめようとした。

「君はいったいどこにいるんだ?どうして僕の心を代弁する?百歩譲って、代弁するのはいい。でもその内容がことごとく間違っているのはどういうわけだ?推測で人の心を語るんじゃないよ」

 僕は怒っていた。

「そりゃ怒るよ」

 いや、僕と君とが別の人格だとしたら、僕はいったい誰になるんだ、と僕は思った。

「知らないよ。君はどこにいるんだ?」

 僕はいったい誰なのだろう。僕はだんだん悲しくなってきた。

「もう、付きまとわないでくれ」

 待ってくれ。三人称にすれば、いいんじゃないか。一人称だから、ややこしくなるわけで。

「僕のことをあれこれ勝手に言われるのは嫌だよ。他を当たってくれないか」

 彼はすげなく言った。実は彼は・・・

「もう黙っていてくれ。僕は帰るよ」

 彼は帰った。夕暮れに染まる背中が、やけに寂しそうに見えた。


 僕はいったい誰なのだろう。

 僕は呟いた。

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