5年後の公爵家
ハリー様と一緒に、公爵領に移り住んで早5年。すっかり公爵夫人にも慣れた。ハリー様は公爵として、またお義兄様の右腕として、王都と領地を頻繁に往復している。往復2時間とはいえ、とても大変そうだ。
ハリー様には、王宮に泊まっていらしては?と、以前提案したのだが、“カトリーナがいないと、俺は眠れないからね。君が一緒の時以外は、泊まるつもりはないよ”そう言っていた。
本当にハリー様は、私の事を誰よりも大切にしてくれている。5年経った今も、それは変わらない。
今日も朝から飛行船に乗り、王都へ向かうハリー様を見送った。そして午前中は公爵夫人として、色々な書類に目を通す。通常公爵でもあるハリー様が行っているが、いつも忙しそうにしているハリー様の手助けがしたくて、私も書類仕事を手伝っているのだ。
昼食後、今度は色々な招待状に目を通す。公爵家ともなると、招待状もたくさん届く。1つ1つ目を通し、重要度の高い物から予定を立てていくのも私の仕事。
全ての招待状を確認した後は、お気に入りのラベンダー畑を眺めながら、紅茶を頂く。あぁ、この時間、幸せでたまらないわ。
「ははうえ~」
「まま~」
この声は。
声の方を振り向くと、子供たちが私の方に向かって走って来る姿が目に入る。最初に私の腕に飛び込んできたのは、息子のカルディー。銀色の髪に青い瞳をした4歳のやんちゃな男の子。遅れてやってきたケリーは、金色の髪に緑色の瞳をした2歳の女の子だ。
2人とも私とハリー様の大切な宝物。そしてカルディーもケリーも、私とハリー様の魔力をしっかり受け継いでおり、既にラクレス様が何かと2人に近づこうと必死だ。もちろんハリー様が全力で止めているが…
ただ、カルディーもケリーも、魔力に興味がある様で、王宮にある魔術塔に行くと、いつも嬉しそうに色々な実験に参加している。それがまた気に入らないハリー様。最近では、よほど用事がないとき以外、王宮に行く事もなくなった。
「ははうえ、きょうはグラスとけんのれんしゅうをしたよ」
「まあ、上手に出来た?」
「うん。ちちうえよりじょうずって、ほめてもらった」
嬉しそうに報告するカルディー。ケリーも私の膝をめがけて、一生懸命上ろうとしている。この子達が産まれて、初めて何が何でも守りたい、そう思える存在が出来た。きっと亡くなったお母様も、今の私と同じ気持ちで私に接してくれていたのだろう。
私もお母様の様に、この子たちにたくさんの愛情を注いであげたい。そう思っている。
「それからね、ほら、これみて」
見せてくれたのは魔石だ。カルディーが握っている魔石は、桃色に変化していた。
「これはカルディーが魔力を込めたの?この前黄色だったのに。また魔力量が増えたのね」
まだ4歳なのに、この魔力量の異常な増え方…このままいくと、私を超えるかもしれないわ。ラクレス様が知ったら、両手を上げて喜ぶわね…
「まま、これ」
ケリーも黄色に変化した魔石を見せてくれた。
「まあ、ケリーも黄色まで行ったの?これはすごいわ」
「ははふえ、ぼくたちすごい?ぼくもははうえみたいに、すごいまりょくをつかえるようになる?」
目を輝かせて聞いてくるカルディー。
「そうね、もしかしたら私より、カルディーやケリーの方が、魔力量が多くなるかもしれないわね」
「ほんとう?ヤッター」
両手を上げて喜ぶカルディー。ケリーも兄の真似をして両手を上げている。2人とも、本当に可愛いわ。
その時だった。
「3人で随分と楽しそうに話をしているね。何の話をしているんだい?」
この声は!
「ちちうえ」
「ぱぱ」
後ろを振り向くと、ハリー様の姿が。すかさずハリー様に抱き着くカルディーとケリー。2人を軽々と抱きかかえ、そのまま抱きしめるハリー様。
「ちちうえ、みてください。ませきがももいろになりました」
「きいろ~」
嬉しそうに魔石を見せる2人。でも、なぜか複雑そうな顔のハリー様。あら?一体どうしたのかしら?
「4歳にして桃色だなんて、カルディー様はやっぱり天才だ!ケリー様も2歳で黄色だなんて!素晴らしい」
この声は…
「おい、ラクレス。俺の可愛い子供たちに近づくな」
それはそれは嬉しそうにこちらにやって来るラクレス様。そんなラクレス様から2人を庇う様にして、ハリー様は子供たちをギューッと抱きしめている。
「ラクレス様、お久しぶりです。今日はどうされたのですか?王宮魔術師のあなた様が公爵領にいらっしゃるなんて」
「カトリーナ夫人。お久しぶりです。公爵に何度お願いしても、あなた達3人を王宮に連れてきてくださらないので、私から会いに来たのです。それにしても、この歳でこの魔力!あぁ、本当に素晴らしい方々だ」
ラクレス様がうっとりとこちらを見つめている。
「ラクレス、一目見たのだからもういいだろう。さっさと帰れ!」
「何をおっしゃっているのですか、公爵は!こんなにも素晴らしい魔力の持ち主がいらっしゃるのに、ホイホイと帰る訳がないでしょう。最低でも1週間は滞在させていただきますから」
「ふざけるな!子供たちには指一本触れさせないからな」
いつもの様に喧嘩を始めた2人。何年たっても、この2人は変わらないわね。
「ラクレス、しばらくここにいるの?それなら、ぼくのまりょくをしらべて」
「あたちも」
ハリー様の腕を抜け出て、嬉しそうにラクレス様に近づく2人。これは…
「さすがカルディー様とケリー様だ。早速魔力の研究をさせていただきましょう」
さっさと2人を連れて屋敷の中に入って行こうとするラクレス様。
「おい、待て。勝手な事をするな」
ハリー様も急いで3人を追いかけて、屋敷に入って行った。そんな4人の後ろ姿を見ていたら、なんだか笑いがこみ上げて来た。
本当に、平和ね…
お母様、私は今、この何でもない毎日が、幸せでたまりません。どうかこれからも、こんな平和な日々が続きますように…
ちなみに、ラクレス様はその後2週間滞在したところで、我慢の限界を迎えたハリー様によって、王都に追い返されたのであった。
~あとがき~
明日から、IFストーリー投稿予定です。
全6話の予定です。
よろしくお願いしますm(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。