第29話 またもやお姉様に嵌められました
翌日から、部屋で過ごすことになった。こうやって部屋にずっといると、マレッティア王国にいた頃を思い出すわ。と言っても、近くにはルルたちメイドや、護衛騎士も控えているから、1人ぼっちではない。
さらにハリー様も、極力側にいてくれる。ただ世界会議が行われている為、どうしても王族でもあるハリー様は、他の王族の相手をしたり、会議に出席したりで留守にしている事も多い。
今も会議に出席するため、王宮に出ているのだ。
それにしても暇ね。本でも読もうかしら。そう思って本に手を伸ばした時だった。
「この部屋にはお入りできません。どうかお帰り下さい!」
「どうしてよ!私はカトリーナの姉なのよ。妹の元を訪ねて何が悪いのよ!」
「ですから、カトリーナ様との面会は出来ません。どうかお引き取り下さい!」
この声は、セリーヌお姉様ね。どうやら私を訪ねて来たみたいだ。
「ねえ、カトリーナ。あなたに謝りたくて来たの。酷い事をたくさんして、ごめんなさい。ねえ、少しだけお話をしましょう?お願い、ここを開けて」
えっ?あのお姉様が、私に“ごめんなさい”と言ったわ。一体どうなっているの?びっくりして、立ち上がってしまった。もしかしたら、本当に私に謝りたいだけなのかもしれないわ。
でも…
「カトリーナ、お願い。せっかく私たち姉妹が再開できたのですもの。ゆっくりお話しをしましょう」
「わかりましたわ。今開けますね」
急いで部屋のドアを開けると、そこには安どの表情のお姉様の姿が。
「カトリーナ、本当にごめんなさい。私、あの時どうかしていたの。私よりも魔力量が多いあなたに嫉妬していたの。本当にごめんなさい」
そう言って、何度も頭を下げるお姉様。この人、本当にセリーヌお姉様なの?でも、これからはお姉様とも仲良くやっていけるかも…
「わかりましたわ。お姉様。どうか、頭をあげて下さい」
「ありがとう、カトリーナ。そうだ、今日はお天気もいいし、中庭を案内してくれないかしら?」
「ええ、もちろんです」
ずっと私の存在を否定し続けて来たお姉様に認められたことが嬉しくて、そのまま中庭に向かった。どんどん奥まで進んでいくお姉様。かと思えば、元来た道を戻ったりと。一体何をしているのかしら?
「お姉様、一体どうしたのですか?来た道を行ったり来たりして」
「やっと護衛騎士とメイドを撒けた様ね。本当にしつこいんだから」
「えっ…」
周りを見渡すと、護衛騎士やメイドたちの姿はない。そんなはずはない、護衛騎士の中には、王宮魔術師が含まれているはず。お姉様の魔力で私の行方を見失う事はないはずだが。でも、姿がないという事は、本当に私を見失ったのかしら?
一気に不安が襲う。どうしよう…
「あの、お姉様、これは一体どういうことですか?どうして護衛騎士やメイドを撒く必要があるのですか?」
「どうもこうもないわ!どうしてあんたの様な女が、グレッサ王国の第二王子の婚約者になれるのよ!一体どんな手を使ったの?そういえばあんたの母親も、男爵令嬢の分際で、お父様をたぶらかして側妃になったのだったわね。本当に、親子そろって男をたぶらかす天才ね」
「お母様の事を悪く言わないでください。それに、私はハリー様をたぶらかしてはいません。私たちは心から愛し合っているのです」
「何が”愛し合っているのです”よ!マレッティア王国でメイドにすら疎まれていたあんたが、大国の第二王子に本当に愛されるわけがないでしょう!私の方が、ずっとハリー殿下と釣り合っているし、きっと殿下もわたしを選んでくれるわ」
「お姉様はハリー様の、何を知っているの?ハリー様はお姉様を選ばないわ!」
ハリー様はダーク様とは違う!私の事を大切にしてくれているはず。
「おめでたい頭ね。そういえば、お母様に毒殺されたあんたの母親も、そんな感じだったらしいわよ。そうそう、最後まであんたに会いたがっていたらしいわ。あんた、母親の死に目にすら顔を出してあげないなんて、本当に親不孝ね」
「お母様が、私に会いたがっていたの?そんな…」
「まあ、お母様があんたにわざと会えなくしたんだけれどね。あの女が1人寂しく死んでいく姿を見たいって言ってね」
あまりの酷い言い草に、キッとお姉様を睨んだ。いいえ、こんな人、お姉様でも何でもないわ!そもそもこの人は、元々こんな人だった。それなのに私は、信じて付いてきて、本当にバカね…
「さあ、お話しはここまでよ。あんたはここで全てを失うの。あの時みたいにね」
そう言うとニヤリと笑った。すると次の瞬間。
「キャァァァ」
悲鳴と共に、あの女が火に包まれた。この光景は…
「誰か!誰か来て!!」
服が焦げ、髪がチリチリになっている。しまった、また嵌められた。
あの女の叫び声を聞き、メイドと護衛騎士、さらになぜかハリー様を含む王族たちも駆けつけた。
「皆様、聞いて下さい。カトリーナが急に“お姉様なんか消えろ”と言って、私に攻撃をしてきたのです!ハリー殿下、私はカトリーナに急に命を奪われかけたのです!」
ポロポロと涙を流しながら、ハリー様に訴えるこの女。また私は、全てを失うのかしら…
そう思ったら、目の前が真っ暗になった。
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