第23話 カトリーナを狙うものを調査しよう~ハリー視点~
俺の大切なカトリーナと気持ちが通じ合い、喜びが爆発したと同時に、気になる点がある。それは、あのメイドの服を着た女の存在だ。
あの女は、間違いなくカトリーナを攫いに来た。そもそも、簡単に王宮内に侵入され、あんな大きな穴まで開けられるなんて…
とにかく、緊急で会議を開くため、父上と兄上、さらに急遽呼び戻したグラス、幹部級の貴族、ラクレスを招集した。
「殿下、お久しぶりです。カトリーナ殿が作ってくれている魔石、好評ですよ。そうそう、カトリーナ殿との婚約と、魔力欠乏症完治、誠におめでとうございます」
久しぶりに会ったグラスは、なぜか生き生きしていた。こいつ、案外異国で楽しんでいたんだな。
「ありがとう、グラス。異国を回っているところ、急遽帰国してもらって悪いな。ちょっと問題が発生した」
「ハリー、急に私たちを呼びだしてどうしたんだい?まさか、カトリーナ殿との婚約が決まって、嬉しくて皆に報告したいという、くだらん理由ではないだろうな」
ジト目で父上が俺を睨んでいる。他の貴族や兄上までも、俺を残念なものを見る目で見ている。クソ、確かにカトリーナと気持ちが通じ合った事は嬉しいが、さすがにそんな事で、呼び出したりはしない!
「父上、そんな訳はないでしょう。実は俺が魔力欠乏症が完治し、カトリーナが部屋を出た際、メイドに扮した女に、カトリーナが誘拐されそうになっていたのです。魔術師塔の近くにこっそりと魔力で穴を開け、そこからカトリーナを外に連れ出そうとしていました」
チラリとラクレスの方を見た。お前、魔術師長なのに、魔力で穴を開けられたことにも気が付かなかったのか!と言うメッセージも込めて。
「なんだと!それでその女は!」
「残念ながら、俺の姿を見たら逃げていきました。ただ、“必ずまたお迎えに来ます”とカトリーナに伝えていた為、きっとまたカトリーナを狙ってくるでしょう」
「彼女の魔力量は異常に高い。狙われても、確かに不思議ではないな…」
ポツリと呟いた国王陛下。
「だからといって、我が国の王宮に侵入し、誘拐するなんてそんな事をする国があるでしょうか?万が一その事が公になれば、国際問題に発展します。最悪、戦争になる場合だってあるのです。我が国と戦争をしたがる命知らずの国は、存在しません」
「確かに、グラスの言う通りだ。では、一体誰が…」
皆が頭を抱え込んでしまった。そうだ、言い忘れていた。
「そういえば、カトリーナの話しでは、“私と一緒に帰りましょう”とか“あの方が待っている”とか言っていたそうです。言葉の節から言って、マレッティア王国の何者かが、カトリーナを狙っていると考えるのが普通かと」
「マレッティア王国の誰かだって!考えられないだろう。彼女は冷遇されていたことは、調査結果でも明らかになっているんだ。そもそも、国王自ら申し出があったんだぞ」
確かに父上の言う通りだ。でも…
「イヤ、でもハリーの言う通り、“私と一緒に帰りましょう”と言ったのなら、普通に考えてマレッティア王国に帰るととらえて間違いないはずです。問題は“あの方”が誰かという事ですが。もう一度、カトリーナ殿の周辺を至急調査しましょう」
兄上がすぐに執事に指示を出した。
「王太子殿下、カトリーナ殿を連れ去ろうとした人間は、メイド服を着ていたと先ほどハリー殿下がおっしゃっていました。カトリーナ殿がこの国に来てから、新しく王宮に入った使用人も調べる必要があります」
「そうだな。それから、至急各国に、ハリーとカトリーナ殿が婚約したことを知らせろ!万が一、カトリーナ殿の魔力を狙い、誘拐しようとしたのであれば、さすがにこの国の第二王子のハリーと婚約したとわかれば、手出しはしてこないだろう」
ここら辺の国のトップに立つ、我がグレッサ王国の第二王子と婚約したとなれば、きっともう手出しはしてこないだろう。でも、なぜだろう。不安でたまらないのは…
「ハリー殿下、そのメイドが穴を開けたとおっしゃられていた壁は、どちらですか?早速調査いたしましょう」
ラクレスが俺に話しかけて来た。どうやら俺が、魔術師塔の近くで穴を開けられたと言った事が、気に食わないのだろう。
早速皆で、現場に向かった。
「ここだ」
既に壁は埋まっていた。それに、魔力も感じない。
「なるほど!この辺り一帯に、かなり魔力が残っていますね。ちょっと失礼」
ラクレスが魔力を込めると、一気に壁が動き、外へと繋がった。
「おい、ラクレス。一体何をしたんだ」
「この辺りだけ、魔力で魔力を隠していたのです。それもかなり巧妙に魔力を消していた為、私程の王宮魔術師でないと、気が付かないくらいです」
「それならなぜお前は、この穴の存在に気が付かなかったんだ!そのせいで、カトリーナが危険な目にあったんだぞ」
そうだ、そもそもこいつがしっかり気が付いていれば、カトリーナを危険に晒すことはなかったんだ。
「私は用事がない限り、塔から出ません。きっとかなりの短時間で開けたのでしょう。もし私がこの場所を通っていれば、間違いなく気が付いていますから」
「それなら、王宮に来るときに気が付いたのではないのか?ここを必ず通るはずだろう?」
ジト目でラクレスを睨みつけた。
「そ…それは…そう、急に呼び出されて急いでいたからです。とにかく今後は私自ら、この様に細工されていないか、確認するようにいたしましょう」
やっぱり気が付かなかったのではないか!
「それじゃあ、今後何か異変がないかは、ラクレスに確認してもらおう。それでいいだろう?ハリー」
「はい。若干不安はありますが、まあいいです」
「殿下、それはどういう意味ですか!私は天才魔術師ですよ!」
「落ち着いてくれ、ラクレス。ハリーも、少し言葉を慎め。とにかく、今後も調査を続けよう。それから、カトリーナ殿の警備を強化しよう」
「父上、カトリーナの警備強化は俺に任せて下さい!カトリーナは俺の婚約者なので、俺の手で守ります!!」
何が何でも、カトリーナは俺の手で守ろう。必ず!
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