第10話 ハリー殿下が王宮内を案内してくれます

「食事も終わったし、早速王宮内を案内しよう。さあ、行こうか」


「はい」


差し出されたハリー殿下の手を握り、2人で歩き出す。まず最初に向かったのは、それぞれの部屋だ。陛下や王妃様、王太子殿下、ハリー殿下、さらに私の部屋。もちろん、陛下たち王族の部屋は、中を見る事はなくスルーしていく。


私の部屋がある場所って、まさか王族たちが住んでいる一角になったのね…通常客人は、客間に案内されるのが普通だ。でも、私は王族と同じ一角。このあり得ない待遇に、いかに私が期待されてこの地に連れてこられたのか、嫌と言うほど思い知った。


よかったわ、ハリー殿下にうまく魔力提供が出来て!改めてそう感じた。


次に向かったのは、無数に並ぶ客間、居間、いくつかある食堂だ。食堂だけで、ざっと見たところ5部屋あった。さらに厨房はとても広く、多くの人が働いていた。


へ~、あんな風に料理をしているのね。あの道具は何かしら?つい見入ってしまう。


「随分興味深そうに見ているけれど、カトリーナ嬢は厨房に来るのは初めてかい?」


「はい、私は自国では行動を制限されておりましたので。特に母が亡くなってからは、自室と魔力を解放するための訓練場くらいしか行きませんでした」


私が他の場所に行くと、皆嫌そうな顔をする。そのため、普段はほとんど自室で過ごし、魔力を放出するときのみ訓練場を訪れていたのだ。


「そうだったんだね…君は自国で、随分と虐げられていたんだね」


なぜかとても悲しそうな顔をしたハリー殿下。


「でも食事もきちんと与えられておりましたし、それなりに教養も身につけさせていただきましたので。それに定期的に、パーティにも参加しておりましたし」


そこまで酷い生活をさせられていた訳ではないので、必死に否定した。


「そうか…それならいいんだが…」


なぜかハリー殿下が黙り込んでしまった。いけないわ、話題を変えないと!


「さあ、厨房も見せていただきましたし、そろそろ参りましょう」


「そうだね、ここは男が多いから、美しいカトリーナ嬢が長居する場所ではないな…」


何やら訳の分からない事を、ブツブツ言っている。



気を取り直して次に向かったのは、王の間と呼ばれる場所だ。王位や王太子の座に就くときなど、重要な儀式を行う時に使われる場所らしい。こんな場所に、私の様な者が来てもいいのかしら?


そう思ったが、きっと一生入る事が出来ない場所なので、有難く拝見させていただいた。


「さあ、次は外に行こうか」


ハリー殿下に連れられ、外に向かう。まず向かったのは、夜会などを行うホールだ。大小合わせて、3つものホールがある。さすが大国ね。うちの国には、王宮内にホールは1つしかなかった。


さらに訓練場、飛行船が離着陸するための飛行場、使用人たちの住居として使われている建屋、そして王宮魔術師たちが研究している塔も紹介された。


「我が国は魔力大国だからね。王宮魔術師の研究のために、塔が完備されているんだよ」


そう説明してくれるハリー殿下。はい、先ほど訪問したばかりなので、知っております!と言いたいところをぐっと堪え


「まあ、そうなのですね」


と、当たり障りのない返答をしておいた。そして最後に向かったのが、中庭だ。ここには美しい花々が植えられていた。さらに奥には、野菜や果物たちも育てられている。


「まあ、野菜がこんなにもたくさん!こっちは果物ですね」


目を輝かせる私に


「味見してみるかい?」


そう声を掛けてくれたハリー殿下。


「いいのですか?嬉しいです」


早速近くに控えていた使用人が、近くにあったミニトマトを手渡してくれた。すかさず口に放り込む。


「甘くておいしいですわ。まるでフルーツみたい」


「それはよかった、こっちのキュウリも食べてみるといい」


立派に実ったキュウリを手渡してくれた。これもみずみずしくて美味しいわ。


「さあ、少し疲れたね。あっちで少し休憩しよう」


野菜や果物畑を後にし、美しい花々が咲いている中庭に戻ってきた。さすがに歩き疲れたわね。


メイドが入れてくれたお茶を飲んでいると、果物が運ばれてきた。


「まあ、これは桃ですか?」


「そうだよ、さっきの果物畑でとれた桃だ。さあ、食べて」


食べやすい大きさに切ってもらってある桃を1口。


「あぁ、何て美味しいのかしら。こんな贅沢な暮らしをしていたら、私は太ってしまいそうですわ」


「ただ好きな物を食べる事が贅沢か…カトリーナ嬢、君が望むなら、いつでも好きな物を好きなだけ食べてもいいんだよ。そうだ、君が好きな果物や野菜、好きな花を教えてもらえるかい?」


「そうですね。野菜なら特にレタスやキャベツなどの葉物が、果物はイチゴ、お花はラベンダーが好きですわ」


ラベンダーは、お母様が好きなお花なんだけれどね。でもラベンダーの香りをかぐと、亡くなったお母様の事を思い出して、温かい気持ちになれる。だから、私もいつの間にか好きになった。


「そうか、それじゃあ、早速それらの畑を作らせよう」


「えっ!そこまでしていただかなくても…」


「いいや、君は俺にとって、大切な人だ!これくらいはさせてくれ!」


そう言って、私の手を握ったハリー殿下。そうか、私は殿下の大切な魔力提供者。きっと優しく義理堅いハリー殿下の事だから、何かお礼がしたいのだろう。


でも、今の生活を送らせていただいている時点で、私にとってはものすごく有難い。それでも、せっかく殿下がそこまでおっしゃられているのだから、遠慮なく甘えよう。


「わかりましたわ。殿下、私に気を使っていただき、ありがとうございます」


「よかった。あとさ、俺の事は殿下ではなく、ハリーと名前で呼んでほしい。それから、俺もカトリーナと呼び捨てで呼んでもいいだろうか?」


なぜか急にそんな事を言い出したハリー殿下…じゃなくて、ハリー様。


「わかりましたわ。では、ハリー様と呼ばせていただきますね。私のことも、もちろんカトリーナとお呼びください」


「ありがとう、カトリーナ!そうだ、せっかくだから、今から花が咲いている方の中庭を見て回ろう。あぁ、でもカトリーナはきっと疲れているだろうから」


そう言うと、何を思ったのか私を抱きかかえたのだ。


「あの…ハリー様、何を」


「ずっと歩いていたから疲れただろう?中庭は俺が抱っこして運んであげるよ。さあ、行こう」


そう言って歩き出したのだ。急に抱きかかえられ、パニックになる。でも…

ガッチリとした体から伝わる温もり…その温もりが心地よくて、私の中の渇いた心を少しずつ潤してくれる。


この気持ちは一体何なんだろう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る