第6話 王宮魔術師を訪ねます
「ありがとうございます。もう大丈夫ですわ。急に泣いたりしてごめんなさい。さあ、食事の続きを行いましょう」
しばらく泣いたら元気になった。早速食事を再開させた。食後は再びハリー殿下の手を握り、魔力を送る。といっても、ほとんど満タンなのだろう。特に魔力を吸い取られる感じはなかった。
そのまま部屋を出ると、早速ルルに頼んで、王宮図書館の場所を教えてもらった。もちろん、調べるのは魔力欠乏症の事だ。名前や症状などは聞いたことがあったが、もっと詳しく知りたいと思ったのだ。
何々、やはり魔力欠乏症になると、相手に触れるとその人から魔力を吸収してしまうとの事。特効薬などはなく、症状が改善するまで魔力を与え続ける必要があるとの事。早い人で半年、人によっては一生魔力を貰い続けなければいけないらしい。
触れただけで相手の魔力を奪い取ってしまう事から、魔力欠乏症になると見捨てられる人も多く、死の病ともいわれているらしい。
触れた人から魔力を吸収するか…
もしかしてその魔力は、人でなくてもいいのかしら?例えば、魔力を貯めておける石とか…
「あれ?カトリーナ殿、こんなところにいらしたのですね。あなた様の魔力、本当に素晴らしいですよ。久しぶりに殿下が剣を振るっていました。それに、なんだか嬉しそうな顔をしていらっしゃいましたし」
話しかけてきたのは、グラス様だ。嬉しそうに私の向かいに座った。
「そうですか。それはよかったですわ」
「それで、何の本を読んでいらっしゃるのですか?」
「これですか?魔力欠乏症について、もっと詳しく調べようと思いまして。それで、色々と調べていたら、魔力欠乏症の人は、無意識に触れた相手から魔力を吸収するのですよね。それなら、昨日グラス様が私の魔力を鎮めるために渡してくれた石を使えば、定期的に魔力を供給できるのではないかと思いまして」
「なるほど。でもあの石は、特殊な機械に入れる事で魔力を取り出すことが出来るのです。ですから、魔力欠乏症の患者に魔力を与える事は厳しいかと…でも、素敵なアイデアですね。それさえあれば、殿下はいつでも魔力を体内に吸収でき、他の人に触れても問題ないという事ですね。一度王宮魔術師に相談してみましょう。そうだ、よろしければカトリーナ殿も一緒に来てください。さあ」
グラス様に手を取られ、速足で王宮図書館を後にする。
興奮気味のグラス様に連れてこられたのは、立派な王宮の隣にあるこれまた立派な塔だ。ここに王宮魔術師の方たちがいるのかしら?
塔の入り口を入り、中に進むと、そこにはマントを付けた魔術師たちが、何やら色々と研究をしていた。
「グラス殿、急にどうされたのですか?そちらの女性は?」
奥から青い髪をした男性が出て来た。この人、グラス様と同じくらいの年齢ね。
「彼女はハリー殿下の魔力提供者の、カトリーナ殿です。カトリーナ殿、彼は王宮魔術長のラクレス殿です」
この人が王宮魔術長なの!こんなに若いのに、嘘でしょう!どう見ても、20歳前後じゃない!
「あなたが魔力提供者でしたか。随分と可愛らしい女性ですね。それにしても、すごい魔力量ですね。今まで会った中で、一番魔力が高い。ぜひ研究させてください!」
なぜか私の手を握り、うっとりとした眼差しで見つめてくるラクレス様。この人、一体何なのかしら?
「ラクレス殿、落ち着いて下さい!やはりカトリーナ殿は、かなり魔力が強い様ですね。とにかく、彼女から離れて下さい」
すかさずラクレス様から私を引き離してくれた。
「今日ここに来たのは、あなたに相談があったからです。この魔力を貯める事が出来る石ですが、魔力欠乏症の患者に使う事は出来ないかという相談を、カトリーナ殿から受けまして」
「この石を魔力欠乏症の患者にですか!確かにそれが出来れば、素晴らしいですね。実は私たちも同じことを考え、何度も研究を重ねて来たのですが、何分魔力提供者があまりいなくて、研究が進んでいないのです」
「それでしたら、私が魔力を提供いたしますわ。私はなぜか、無駄に魔力量が多いうえ、一度消費しても、すぐに作られる様なので…」
マレッティア王国にいるときは、この魔力のせいで嫌な思いもした。でも、この魔力が今は誰かの役になっているのが嬉しくてたまらない。それに何より、私の魔力でもっとたくさんの人の役に立てればと思っている。
「本当ですか?それは有難い。もしよろしければ、カトリーナ殿と魔力を調べさせていただきたいのですが、宜しいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「それでは早速ここに魔力を込めて下さい。それから、血液も取らせていただきますね」
嬉しそうに石を渡してきたラクレス様。注射器で私の血液も採取された。よく石を見ると、昨日グラス様に渡された石と同じね。早速石に魔力を込める。すると、昨日と同じくエメラルドグリーンに変わった。
「エメラルドグリーンだと…なんという魔力量だ。それにこの魔力、ちょっと特殊だな…すまないが今日は帰ってくれるかい?私は今から、この魔力を調べないといけないから。それからカトリーナ殿、明日またここに来てくれるだろうか?早速明日から、人間にも魔力を与えられる石の開発に取り掛かろう。それでは私はこれで」
そう言うと、ものすごい勢いで奥の部屋に向かっていったラクレス様。
「ラクレス殿は研究熱心でして…さあ、私たちもいったん戻りましょう」
グラス様と一緒に、塔を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。