第5話 ハリー殿下と少しだけ仲良くなりました

その日の夜は、しっかり晩御飯を食べ、早めに湯あみを済ませ、布団に入った。本来であれば、魔法で湯あみも済ませてしまうところだが、ルルから


”カトリーナ様の湯あみを行うのは、私の仕事です。ぜひやらせてください”


そう言われたので、申し訳ないと思いつつも、ルルに湯あみを手伝ってもらった。本当にルルはいい人だ。


湯あみを済ませ、布団に潜り込んだ。

とにかく、私は知識がなさすぎる。まずは魔力欠乏症について、詳しく調べないと。その為には、まずは王宮図書館ね。それから朝一番でハリー殿下の元を訪ねて、魔力を供給しないと。


それにしても何の役にも立たない、誰からも必要とされていなかった私が、この国に来て王妃様や王太子殿下、グラス様から期待され、さらにルルに優しくしてもらっている。


それが不思議でたまらない。あの人たちの期待にこたえたい、喜んでもらいたい、いつの間にか、そんな感情が生まれていた。


さあ、明日に備えて早く寝ないと。ゆっくりと瞳を閉じ、眠りについたのであった。



翌日

朝食を食べた後、早速ハリー殿下の元に向かう。


コンコン

「失礼いたします。ハリー殿下。お加減はいかがですか?」


私の登場に、慌てるハリー殿下。見た感じ元気そうだ。きっとまだ魔力が残っているのだろう。


「なんでまだ君がここにいるんだ。君は隣国、マレッティア王国の第7王女だそうじゃないか。とにかく、すぐに国に帰るんだ」


そう言い放ったハリー殿下。国に帰るか…


そっとハリー殿下に近づき、手を握った。昨日ほどではないが、魔力が吸い取られていく。でも、完全に魔力が回復している私には、どうって事はない。それどころか、もっと持って行ってもらってもいいくらいだ。


「止めろ!死にたいのか?」


急いで手を振り払うハリー殿下。


「この程度の魔力でしたら、命を落とすどころか、疲れる事すらありませんわ。ハリー殿下、私は確かにマレッティア王国の第7王女です。でも…私は誰からも必要とされていない人間なのです。国に帰ったところで、疎ましがられるのがオチなので。ですから、どうか帰れなんて言わないでください…」


もうマレッティア王国に、私の居場所なんてない。それどころか、今度こそ殺されるかもしれないのだ。


「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。すまなかった」


そう言うと、少し困った顔をしたハリー殿下。ふとテーブルの上を見ると、朝食が置かれていた。


「まだ朝食がお済ではなかったのですね。申し訳ございません」


慌てて頭を下げた。


「いいや…どうせ食べないつもりだったから…俺が生きていると、皆に迷惑を掛けるから…」


「迷惑?」


「ああ、俺のせいでたくさんの使用人や魔力提供者が、命を落とした。父上の頭を悩ませ、母上を泣かせ、兄上を困らせ、使用人を怯えさせる。俺なんて、生きていない方がいいんだ…」


そう言ったハリー殿下の瞳は、とても悲しそうで、今にも泣きそうな顔をしていた。そんな彼を、無意識に抱きしめる。


「そんな事を言わないでください。あなた様が万が一命を落としたら、陛下や王妃様、王太子殿下、グラス様、さらに使用人たち、たくさんの人が悲しみます。昨日王妃様や王太子殿下、グラス様や使用人と話しをして、いかに皆様があなた様を大切に思っているのか、生きてほしいと望んでいるか肌で感じました。ですから、どうか生きて下さい!皆様の為にも」


私と違い、たくさんの人に必要とされているハリー殿下。きっと彼が命を落とせば、皆悲しむ。だから、生きてほしいのだ。


「皆の為に、生きるか…でも、そのせいで誰かがまた命を落とすのは、耐えられない…」


ハリー殿下が、辛そうに唇を噛みしめている。


「大丈夫ですわ。私がおります。私は無駄に魔力量が多いので、魔力を与え続ける事が出来ます。それに何より、私の魔力が誰かの役にたつという事が嬉しいのです。どうか私を頼っては下さりませんか?」


今まで誰からも必要とされなかった私が、今ハリー殿下の命を繋ぎ留めている。どうか、これからもハリー殿下に魔力を提供する事で、私が生きる意味を、私を必要としてくれているという事実を噛みしめたいのだ。


「わかったよ。それじゃあ、朝食を食べるよ」


「よかったですわ。それでは、私はこれで失礼いたします」


部屋から出ていこうと思ったのだが、なぜか殿下に腕を掴まれた。


「待ってくれ。その…よかったら一緒に食べないかい?」


少し恥ずかしそうにそう言ったハリー殿下。でも、私はさっき朝食を食べたかばりだ。う~ん、まあいいか。


「それでは、ご一緒させていただきますわ」


せっかくなので、向かいのテーブルに座り、一緒に食事を摂る。私の専属メイドのルルが、すぐにスープとパンを準備してくれた。


「君はそれだけでいいのかい?もっと食べないと。俺の肉をあげるよ」


すかさずお肉を私のお皿に乗せようとしている。でも、既に私は朝から美味しいお肉を頂いている。さすがにそんなに食べられない。でも、私を気遣ってくれることが嬉しいのだ。


「ありがとうございます。でも、大丈夫ですわ。殿下が食べて下さい。私はパンとスープで十分です」


何度も言うが、2度目の朝食だ。パンとスープだけでも、正直食べきれるかどうか…


「随分と小食なんだね。わかったよ。それじゃあ、デザートをあげよう。俺はあまり甘いものが好きじゃないからね」


そう言って、デザートのプリンをくれた。こんな風に誰かに気を使われたのは、いつぶりだろう…そう思ったら、瞳から涙が溢れていた。


「どうしたんだい?もしかして、魔力を朝から俺に使ったから、体調が悪くなったのかい?」


私の元に駆け寄ってきてくれたハリー殿下。やっぱりこの人、とても優しいのね。


「ごめんなさい。母が亡くなって以降、王宮内では誰かに優しくされたり、誰かと食事をすることはほとんどなかったので、嬉しくてつい…」


お母様が亡くなってから、王宮での食事はずっと1人だった。広い部屋で、ずっと1人ボッチだったのだ。


「君は…その、王女なのに、随分と寂しい思いをして来たんだね」


そう言って、優しく背中を撫でてくれた。その手の温もりに、再び涙が溢れです。その後、私が落ち着くまでずっと背中をさすり続けてくれたのだった。

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