54 事後処理

 ツルギの最低限の自己修復だけを済ませた俺は、エスティカを連れて魔国の「要塞」へと舞い戻った。


 マギウスの生み出したマギフレームに包囲されているかと思いきや、要塞での戦闘は既に終わっていた。

 要塞はかなり傷んでいたが、レヴィもリリスも健在だと聞き、ほっと胸をなでおろす。


 例の食堂で待ってると、すぐに二人がやってきた。

 レヴィは出発前と変わらず元気だが、リリスは疲労困憊のようだった。

 俺がここを飛び立ってからずっと防戦してたことを思えば、尋常ではない気力と体力だ。

 さすが、魔王なんて呼ばれてるだけのことはある。


「うむ! 際どい場面もあったのじゃが、突如として敵のマギフレームが動かなくなっての。さてはセイヤがやってくれたかと思いながら、敵に降伏を呼びかけてたところじゃ」


 俺が顔を出すなり、レヴィはそう言ってからからと笑った。


「降伏した連中はどうするんだ?」


「マギウスに洗脳されておった連中は罪一等を減じるつもりじゃが、謀叛であることに違いはないからの。死罪とすることはどうあっても免れぬ。すっぱり殺されるだけマシと思ってもらうしかないじゃろう。マギウスに洗脳されておらなかったにもかかわらず進んで謀叛に加わった連中に関しては……まあ、聞かないほうがよいであろう」


「厳しいもんだな……」


 だが、火星の独立戦争でも、火星側・地球側ともに自軍を裏切った者を生かしておくことはなかった。

 そうでなければ軍規が保てないほどに熾烈な戦いばかりだったからな。


「政治は結果責任よ。努力しましたが出来ませんでした、では済まされぬ世界なのじゃ。

 それに、このような場合において、寛大さは甘さと受け取られかねぬ。そうなれば他国から侮られることにもなるであろう。

 もっとも、朕から言いつけるまでもなく、マギウスに洗脳されておった者たちは、事情聴取が終わり次第自刃すると申し出ておる。名誉を守るにはもはやそれしかないからの」


「……セイヤ様。陛下もお辛いのです。各家の当主は優れたパイロットでもあります。魔国としては、できることなら首など切りたくはないのです」


「そりゃそうか」


 ままならないもんだな。悪いのは全部マギウスだってのに。


「魔国は恐るべき人材難に陥るであろう。神聖巫覡帝国の国体を認める、認めないなどと言っておられる場合ではない。むしろ、今攻めてこられたらこっちのほうが困るじゃろう」


「ティアマトと私がいる以上、そのような事態にはさせませんが」


 ため息まじりにぼやくレヴィに、リリスが言った。

 これはエスティカに向かって言ってるんだろうな。


「いえ……こちらも戦後処理が大変で、とてもそんな余力はありません。もしあったところで、今回助けていただいたご恩を踏みにじるような真似は、私の名誉にかけてさせません」


 エスティカが、皇族らしくそう返す。


「とにかく、パイロットを補充せねばならんのじゃ。そういう意味では、セイヤのような人材が魔国にとどまってくれれば助かるのじゃがな」


 と言って期待の目を向けてくるレヴィ。


「悪いが、そりゃ無理だ」


「ならばせめて、精だけでも残していってはくれぬか? 朕やリリスが好みに合わぬというのなら、魔国を巡って気に入った女を好きに選んでくれてもよいのだぞ? 十人でも二十人でもよい」


「種馬になって喜ぶ趣味はねえよ」


 とんでもないことを言い出す魔王に、俺は肩をすくめて首を振る。


「セイヤの故郷である『火星』とやらに、こちらからも使節を送りたいところなのじゃがの。今はそれどころではないのが現実じゃ」


 レヴィはそう言ってため息をつく。


「……ま、エスティカもいるんだ。またこっちに来る機会はあるだろうさ」


「うむ。その折にはまた戦おうではないか。マギウスめのマギフレームと戦いながら閃いたことがたくさんあるのじゃ。今ならもう少しいい勝負ができよう」


「この戦闘狂め」


 俺は苦笑しながら、血気盛んな魔王との別れを済ませるのだった。

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