46 スピリチュアル・サイクロトロン

「マギウス!」


 俺の声を、クシナダが機外に中継する。


『生半可な機体では、おまえたちを相手するには不足かと思ってな。帝都のマギフレームをすべて呑みこみ、このような姿を取ることにした』


「そりゃ、熱烈な歓迎だな」


『相手の戦力がわからぬというのは不便だな。あわよくば最初のビームフィールドで片付くかと思ったが、そう甘くはなかったようだ』


「精神波を感じないから反応が遅れたぜ。おまえが機械だってことを忘れてたよ。だが、精神波をいじくったりできるくせに、精神波を出さないこともできるとは器用なもんだな」


『我に精神波は生産できぬ。だからこそ人間が必要なのだ』


「なんだ、人間を滅ぼすつもりじゃなかったのか?」


『滅ぼしはせぬよ。我に必要なのは大量の精神波だ』


「じゃあ、なんで人間を支配しようとする?」


『支配することは目的ではない。争わせることが目的なのだ。人間から精神波を抽出するのに最も効率のいい方法は戦争だ』


「なるほど。よくわからんが、おまえを放っておいちゃいけねえってことはよくわかった」


 俺の言葉に、マギウスが低い含み笑いを漏らした。


『おまえが元の世界に戻るためにも必要なことなのだぞ?』


「なに?」


『魂の巡る地エスティカ。この大地に眠る秘密を解き放たねば、世界の敷居をまたぐことは不可能だ』


「だから、何を言ってる?」


『この惑星の重力が異常だということは察していよう』


「ああ。惑星のサイズに比べて重力が小さすぎるってことだろ?」


 地球の五倍もの直径があるのに、重力は地球と同じ1Gだ。

 この惑星の核は相当軽い物質でできてるんだろう。

 すっからかんの空洞ってことも考えられる。

 いずれにせよ、太陽系の惑星学者がぶっ飛ぶようなトンデモ惑星にはちがいない。

 まあ、魔法なんてもんがある時点で今さらだが。


『この惑星エスティカの異常な低重力の原因。それは、この星が人工的に造られたからだ。わがマスターたちによってな』


「造られただって? 惑星をひとつ造っちまう種族ってわけか」


『正確には、造ったのは惑星ではない。スピリチュアル・サイクロトロンだ』


「スピ……え?」


『大量の精神波を循環させ、そこから桁外れのエネルギーを抽出するための超大型の精神加速器。それがこの星、エスティカなのだ』


 マギウスのセリフに、俺は一瞬言葉を失う。


「じゃあ、おまえのマスターとやらは、精神波をエネルギーとして取り出すことに成功してたっていうのか」


 火星で精神波の存在が知られるようになったのは、改良人間として造られたパイロットたちの報告が発端だ。

 しかし、それをエネルギーとして利用することはおろか、計器によって観測することすらできていない。

 そのせいで、いまだに改良人間が神経過敏になって錯覚を起こしてるだけだと主張する科学者もいるくらいだ。


『なんの不思議がある? 精神波以外の方法で恒星間ワープ航行を実現する方法はないし、異世界への干渉も行えぬというのに。

 ……ああ、そうか。つまるところ、おまえの元いた世界の文明は、その程度の水準だったということか。ひとつの恒星系から出ることすら叶わず、限られた資源をめぐって醜く争い合う、暗黒の中世。

 ならば、恐るるに足りんな。おまえでは、偉大なる星間魔法文明『マギウス』の端末である我には勝てぬ。策を弄する必要すらない雑魚だったか』


「ちっ。思ってたよりとんでもねえ相手みてえじゃねーか」


 毒づく俺に、クシナダが言った。


『どうします? 逃げますか?』


「ハッタリかもしれないだろ。やれるとこまでやってみよう。考えようによっちゃ希望が出てきたってことだしな」


「セイヤさま。どういうことですか?」


「ん? ああ、要するに、あいつをどうにかしてやっつけて、あいつの機能なり技術なり知識なりをどうにかして奪えれば、火星に帰る算段がつくってことだ」


『『どうにか』が重なってますよ。』


「どうにかしてどうにかするんだからそれでいいんだよ」


『毎度のことながらアバウトな方針ですね。』


「きっちり計画を立てられることならクシナダに任せるさ。俺は不確実な事象に当てずっぽうでそれなりの見通しをつけるために頭を使う」


『それは『頭を使う』と言っていいのでしょうか? 私の用法とは異なるようですが。』


「これまでそれでうまくいってたろ?

 んじゃ、始めるぜ」


 まだ何か言ってるマギウスを無視して、俺はツルギのレールキャノンを発射する。

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