33 弱点

 最後、俺はツルギの対艦刀を、ビーム刃を出さずに振り下ろした。


 つまるところ峰打ちだ。


 鈍器でぶっ叩かれたマジェスティックは、制御に支障をきたして倒れこんだ。

 そのあと、ぴくりとも動かない。

 あれだけ騒がしかった魔王パイロットも沈黙してる。


「やっぱり、機体と感覚を共有してるっぽいな」


 つぶやく俺に、エスティカが訊いてくる。


「セイヤさま、それはどういうことですか?」


「ああ。ゴブリンⅡは単純なワイヤーコントロールだったわけだけど、ドラグフレームをそんな方法で操縦するのは無理がある。竜になったり人になったりするんだからな」


「はい。そのことは帝国でも不思議に思われてました」


「だろ? だけど、いくつかヒントはあったんだ。まず、ドラグフレームに乗れるのは特殊な竜人ドラゴニュートだけって話があったな。それって要するに、竜の感覚と人の感覚が両方とも必要ってことだよな」


「そうなりますね」


「それから、ついさっきのことだ。マジェスティックにエッジドビームシールドで斬りつけた時、魔王は『めちゃくちゃ痛かった』と言った」


「それは……比喩的な意味ではなく?」


「たしかに、熟練のパイロットになると、機体がダメージを受けた時に反射的に『痛い』って言っちまうことはあるけどな。あの時の魔王が本気で痛がってたことに間違いはない。精神波が尖ってたからな」


「ええと、つまり、ドラグフレームの操縦者は、ドラグフレームと一体化することでドラグフレームを操縦している。その一体化には感覚の共有まで含まれる、と」


「そう。だからこそ繊細な操縦ができるんだろうな」


 実際、マジェスティックは、俺と魔王の掛け合いに合わせて相槌を打つように顎を縦に振っていた。

 魔王が会話のためだけにマジェスティックに顎を振る動作をわざわざさせているとは考えにくい。

 あの「相槌」は意図的なものではなく、魔王の無意識の動作を繊細に反映したものだったんだろう。

 ビームザッパーを回避した時の滑らかな腰の動きなんかも、MAの操縦系では再現が難しい部類の、極めて人間的な動きだった。


「でも、感覚があるってことは、ぶん殴られれば痛いってことだ。操縦のためにドラグフレームの機体と操縦者の身体感覚を対応させてるとしたら、ドラグフレームの頭をぶん殴れば、操縦者は自分の頭をぶん殴られたように感じるはずだ」


 ドラグフレームの構造を知らない以上、どこが弱点なのかはわからなかった。

 だが、機体と一体化してるパイロットの弱点なら察しがつく。

 竜人とはいえ、基本的には人間と似たり寄ったりの身体なんだからな。


「血気盛んな魔王ちゃんにはいいお仕置きになったろ?」


 俺はにやりと笑ってそう言った。





「ぐうううっ。やってくれたのだ!」


 魔王は頭のてっぺんを押さえながら、涙目で俺をにらんでそう言った。


「さすがに、ダメージまでフィードバックされてたりはしないよな?」


「うう……単に痛いだけで、身体にダメージはないのだ。でも、身体が無事な分、一度発生した痛みはなかなか消えてくれないのだ……」


「ああ、怪我をして痛いなら時間が経てば痛みが引くけど、怪我もないのに痛いのは、脳が混乱して長引くってことか」


 俺はポンと手を打って納得した。

 ちなみに、今いるのは最初に通されたのと同じ食堂だ。


「なんでドラグフレームの弱点がわかったのだ?」


「どうやって操縦してるんだろうなって考えたら自然とわかったよ」


「くっ、たいした洞察力なのじゃ」


 と、お子様魔王は悔しそうに呻くのだった。

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