04 未知の惑星(2)
「ここは、火星でも地球でもない。どこか別の惑星だ……」
それも、おそらくは太陽系外の。
今の時代に太陽系内に未発見の惑星があるとは思えないからな。
「……何をどうやったらこんな状況になるんだ?」
エンケラドス。土星。核ミサイル。
大きな道具立ては整ってるものの、俺をツルギごと他の星系にぶっ飛ばすような事態なんて想像のしようがない。
そもそも、今の火星・地球人類の技術では、太陽系内の移動ですらかなりの日数を要するのだ。
他の星系――たとえば、太陽系から最も近いアルファ・ケンタウリですら数光年の距離がある。
それだけの距離を、俺が気絶してる間に移動できる方法なんてあるわけがない。
「そんなことができるんなら、戦争なんてしないで他の星系に移住してるって話だ」
実際、何十年か昔に恒星間移民船が地球から太陽系外に向けて飛び立ったと聞いている。
だが、その後の行方は杳として知れない。
光速を超える通信手段も移動手段もないんだから当然だ。
移民船は、船内で世代交代を行いながら、何百年もかけてアルファ・ケンタウリを目指してる。
「そういや、大気組成はどうなんだ?」
さいわい、パイロットスーツは生きていた。
スーツ外部のセンサーが大気を調べ、視界に結果を表示する。
その結果は、
「……できすぎだな」
地球の大気とほぼ同等。俺がヘルメットをとっても問題なく呼吸可能。病原性のウイルスなども今のところ捉まってない。放射能や危険な化学物質なども未検知だ。種類のわからない植物の花粉らしきものは捉まってるが、害はないという分析が出た。
「つーか、ツルギはどうなってんだ? 無事じゃすまねえだろ」
俺は開口部から身を乗り出して周囲の安全を確かめる。
紫の森を構成する樹々は、全高13メートルのツルギより少しだけ背が低い。
森の木々は、俺が見たことのあるどんな植物とも違って見えた。
開口部から下を見ると、同じく紫色のシダみたいなものが茂ってる。
「何をもって『安全』って言うかだが……とりあえず危険な野生動物はいないみたいだな」
俺は開口部から昇降用のワイヤーで降りようとしたが、クシナダがダウンしてるせいか反応しない。
しかたなく、俺は機体を手足で伝って降りていく。
改良人間の身体能力や優れた運動神経をもってすれば、このくらいは危なげなく降りられる。
と、降りてから大事なことに気がついた。
「ほぼ1Gみたいだな」
慣れ親しんだ火星よりは重力が強いが、俺はもともと改良人間用に重力の強化されたコロニーで育っている。
そのコロニーに比べれば重力は弱い。
俺は、再び周囲を確認し、危険がないことを確かめてから、ツルギを見上げる。
「……不思議なほど損傷がないな」
エンケラドスに危険な速度で墜落したはずなのに、機体はほぼ無傷だった。
突入前には損傷してたはずのソーラーセイルすら、折りたたまれた状態で背部にちゃんと付いている。
外から見る限り、武装にもまったく脱落がない。
「それなのにクシナダがダウンしてるのは……そうか、電源か」
メビウスマターは尽きることなくエネルギーを生み出す魔法のような物質だ。
だから、機体の電源は常時入れっぱなしで、電源を切るという発想がない。
「再起動すれば起きるってことだな。っつっても、再起動なんてやったことがねえんだが……ええと、メビウスマターの格納ユニットがあそこだから……」
俺はマニュアルに書かれてたことを記憶の淵から思い出し、ツルギの電源系に再起動をかけた。
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