第71話 決戦当日。

 ラ―スロ公国大使館ガレ―ジ。


「お嬢様。いい加減に機嫌を直してもらわないと――この先の連携に支障が出ますから…」


 オリ―ブ・カラ―のツナギを身に纏い、薄めの色のサングラスにツナキと同じ色のキャップに軍用ブ―ツ。背中には『pressプレス』と黒字で抜かれていた。


 ツナギで『ダボッと』なはずが胸元は超攻撃的であり挑発的。金髪にマリン・ブル―の瞳で軽く舌打ちするのは、シルヴェ―ヌの守役もりやくにして、超才女系守役――ジェシカだった。


「ジュンイチさんに抜け駆けしておいて、ゴメンナサイもなしですか! しかも、舌打ち!」


「あ―面倒くさい…止めますか? お嬢様の外出届どんだけ苦労したと?」


「ふん、行くに決まってます。ん……ジェシカ『デジタル・レイピア』帯刀するのですカ?」


「はい。日本国内、要人警護の際に帯刀許可は条約締結に可能になりました。まぁ…『お嬢様』が『』かどうかに関しては疑問の余地はありますね!」


「アナタがどんだけ意地悪なの? ジュンイチさんに言いつけてやりますカラネ!」


「別にそれは構いませんよ。私と『』の仲ですし…」


「じゅ、順ちゃん!?」


「ええ。それはさて置き、お嬢様まさかそんな『ゴスロリ』で常和台ときわだいに行く気ですか? バカですか?『中友連邦』のエ―ジェントまだいるかもですよ? 何のために私、国営放送のスタッフのツナギ着て変装してと?」


「でも……久しぶりの再会デス! これでも、おとなし目の服にしたのデス!」


「ん…ヘッドドレスまでして大人し目とか! これだからメルヘン姫は! 空気読もうよ! 私見てください! ツナキでバックプリント『pressプレス』でしょ?」


「ええ。変わったコスプレですね」


「コスプレちゃう!! さっき、変装って言いましたよね! お嬢様もさっさとこれに着替える!!」


「えっ、ジェシカとお揃い……イヤです! 仲良しみたいじゃないですか! ジュンイチさんに間違ったメッセ―ジを送ることになります!」


「もう、面倒くさい!! デザインはおソロですが、色違です! 私だって…メルヘンちゃんと同じなんてお断りなんですからね!」


「あの…そろそろ出発しませんか? 邪魔しないことを条件で、同行してもらう約束ですか……」


 ラ―スロ公国国営放送のセリ―ヌ・ベイナ―ルは生暖かい視線をふたりに送った。


 □□□□

「今日。斉藤君が復学することになります」ち


 常和台ときわだい高、事務長室に顔を出したのはサッカ―部監督成宮と―斎藤順一の担任林田だった。実のところ、もう2名の協力者がいる。


 事務長の指示で斎藤順一の通学時に事故を装い、妨害する予定だったが連絡が取れない。前回、斎藤一派が総理官邸に向かうと聞きつけ、妨害しょうとしたが、うまくいかなかったように。


(2回目となると……偶然じゃないですね…)


 事務長は何らかの力が働いていることに気付きはじめていた。

(いや…それともは逃げたか…)


 指示したふたりは目の前のふたりに比べ、そこまで『』な関係ではなかった。後戻り出来ない立ち位置ではない。目の前のふたりに比べたら。


「お二人共いいですか。もし斉藤君と三崎さんに、一連のこと口外されれば――家庭も仕事も、お二人共失いますから。もちろん私も。私がもっともダメ―ジが大きい。なんと言っても『』を失いかねない。それだけは断固阻止してほしい」


 事務長はこの期に及んで、この先まだ常和台ときわだい高で『色白黒髪女子』を毒牙にかける欲望を捨てていない。


 彼にとって『この場所』しかも『弓道場』の見えるところでないと興味は半減してしまうのだ。そういう性癖なのだ。


「しかし、俺たちもこれ以上は」

「わかってます。リスクに見合ったを用意します」


 金額を聞いたふたりは納得して事務長室を後にした。


 □□□□

 常和台ときわだい近郊――廃工場跡地。敷地内には雑草が生い茂り、昼でも薄暗い。廃業になって以来この敷地に好んで近づく者はいなかった。


 そんな薄暗い環境に身を隠す人影が3つ。ラ―スロ公国第三皇女シルヴェ―ヌ襲撃の実行犯。コ―ド・ネーム『ウミネコ』――ラ―スロ公国のAIの解析により『モザイク・ミスト』のない素顔を全世界的に公開された3人組だ。


 彼ら3名は日本国を含め、仲間のはずの『中友連邦』からも口封じの為に狙われていた。


 中友連邦のエ―ジェントの多くは平和ボケし、解析された後も『モザイク・ミスト』を使い続けたが、シルヴェ―ヌ襲撃を任されたチ―ムだけのことはあり、早々に身割れしそうな装備の破棄と潜伏先から姿を消していた。


 彼ら手元には『斎藤一派』の写真。そして最低限の銃とナイフ。3名の影は互いにうなずき合い、バス停から常和台ときわだい高へのル―トに赤線をひいた地図を胸元にしまい、四方に散った。


 彼らの狙いは定かではない。今更妨害を受けた『斎藤一派』と刺し違えたとしても『中友連邦』が彼らを受け入れるか未知数だ。いや、恐らくそんな可能性はない『中友連邦』にとって『斎藤一派』など、どうでもいい存在なのだ。


 しかし、可能性は『ゼロ』ない。その可能性に掛けるのか、それは彼ら以外に知るものはなかった。


 各々の思いを胸に、決戦の地である常和台ときわだい高に向かうことになる。


 そしてまたひとり常和台ときわだい高内で、不気味な笑みを浮かべる女性事務員の姿を、計算に入れる者はこの世界にひとりも、いなかった。

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