第31話 悪口じゃないです! 本音です!

「お嬢様………完膚なきまでに? まごうことなく。いや……実際、どうよ? って思いました! 聞いてて。今から『みんな、頑張ろうぜ!』って時に言葉の表現なんて、どうでもよくないですか? って言うか、ここで順一さまが、お嬢様に合わせるとか!! どんだけだって話です! もしかして…振られないとでも? いや、もしかして歴史上振られた最初のお姫さまとか!! なにこれ、楽しい! 大爆笑です!」


「だって……」


「だってじゃないですよ、!! 考えてみてください。お嬢様って『キャラ』立ってないですよ? 唯一あるのは『片言の日本語』だけ! それに引換え斎藤妹さん!『ヤンデレとツンデレ』合わせ持つ多重人格! しかもブラコン! 三崎さんなんて『エロい』要求跳ねのけてまで『スト―カ―道』極める『明るい自虐女子』しかも黙ってたら美人! お嬢様とは引き出しの数が違うっての!」


 どうしたことか、ジェシカさん。めっちゃ楽しそうに主人であるシルさんをディスり倒してる。しかも笑顔で。溜まりに溜まった不満を吐き出すように笑顔だ。


「この際だから言わせてもらいますけど、順一さまのお気持ち考えたことあります? いえ、確認されたことあります? ないですよね? なんでいきなり平和な日本から、お嬢様の主席護衛官なんて、なってもらえるなんて発想になります? しかも王族とナイト結婚率バカ高いですよね? 順一さまからしたら『むしろ罰ゲ―ムだし!』ですよ? ほら! 都合悪くなったら『ダンマリ』ですよね? しかも目も合わさない!」


 シルさんは地べたにアヒル座りで半泣きになってる。微妙に助けを呼ぶ視線が……


「ほら! 私が言いたいのはそこです! さっき偉そうに言いましたよね?『私の大好きなジュンイチさんじゃないデス!!』って。明らかに啖呵たんかを切った順一さまに助け求めるとか!! 思いません? 思いますよね? 日本の皆さん! じゃあ『?』って。お気付きかと思いますけど『この子』ちょっと、んです。お花畑なんです! メルヘンちゃんなんです。なので助けはいりません!!」


 ジェシカさんは差し出される手を封じた。しかし封じるまでもなく、助け舟は出される様子はない。見捨てたというより、呆気に取られているのだ。


「それからですね、お嬢様『剣の精霊ソード・フェアリ―』についても、なんだかなぁ~なんですよ。お嬢様はノリノリで『が閣議決定してくれまシタ!』とかが、失礼…が。日本の高校生に『閣議決定』ってぶっちゃけどうなの?『あなたとは住んでる世界が違うの』みたく聞こえたの私だけですか? 確かに住んでる世界違いますよ? だってお嬢様の住んでる世界『』ですもの。頭あったか星人しか住めませんもの! ダメ! 腹筋崩壊!」


 どうしたもんか……ここまでになると気にならない方がおかしい。助けなくていい。ジェシカさんはそう言うが、どうなんだろ? 


 試されてるとかだろうか。試す必要もないんだけど……それに試されてるなら尚更なおさら、助けづらい。今の立ち位置的に。


 すると三崎さんが、すっと立ち上がってふたりの元へ。三崎さんは案外『男前』な所がある。いくら何でも目に余ったのだろう。


「あの…ジェシカさん。ちょっといいですか?」


「あっ、三崎さん。なにか」

「その…いくら何でも……少し、どうなのかなって思って――私」

「三崎サン……」


 三崎さんは弓道をしているからなのか、立ち姿がきれいだ。いや美しいの域に達している。


 サラサラの肩より長い黒髪が『黙ってる時の』彼女の清楚さを引き立てる。そんな三崎さんが斜に構えて蔑んだ視線で告げた。


「おふたり共、いい加減にしてもらっていいですか」

「あっ……と」

「スミマセン……」


「そもそも何なんですか? 黙って聞いてれば――いつまでもネチネチと。そういうのってって思うんです、私」

「しつこかったですか、ごめんなさい」


「ごめんなさいじゃないです! わかってます? ホントに。、そういうの。大体ですね、そういうネチネチして陰湿で粘着質なの――!」


 あ……っ。三崎さんが怒ってるの、


「知ってますよね? ! 結構レアなんです、この枠。ネチネチとか、陰湿なの私のなんです! こういうのは、やるから『』の気を引けるわけです!! じゃない人にされたらワケです、事象が! それとですね――さっきからずっとディスてますけど、何故に日本語なんです? ふたりだけでいいハズですよね? 理解するの。私陰湿だから。ジェシカさん。実のところディスってる様に見せかけて――実は庇ってますよね、シルヴェ―ヌさんのこと。こうじゃないですか、狙い?『ここまで言われたら、かわいそう! 斎藤君が助けに入るハズ! そしたら、あら不思議! 前よりふたりはなかよしさん!』違います? 何なんですか? 国家ぐるみで構ってちゃんですか?」


「怖ッ!! そこまで考えてたの!?」

 オレは思わず声が裏返った。三崎さんの洞察力も、なんかすごい。


「そうですよ、斎藤君。ひと良すぎだから……あっ、でも。こんなことわかっちゃう娘。嫌だよね……わかるってことは、思いつくって事だし……いつかズルするかも、だよね?」


「いや…それは…その、オレのこと心配してくれた訳だし、自分から言うのって勇気いるというか、むしろ清々しい?」


「あっ、それわかる! しおりちゃんの人柄って言うか。好感度アガるよね?」

「あっ、マイたん。お前さっきから自分だけ『栞ちゃん』呼びズルくないか?」

「兄さんもすればいいんじゃない? 怒んないわよ、ねぇ? 栞ちゃん?」


「そ、そんな! 下の名前なんて滅相もない! あっ、でも…嫌じゃないですよ? いや…そんな日が来ればうれしいとすら思いますけど……」


「ん? ?」


「ど、ど、どうしましょ! 呼び捨てだ!! 舞美ちゃん!! ごめんなさい!!」

「な、な、なんで謝るかな!?」


「だ、だってです!! 舞美ちゃんを差し置いて呼び捨てだなんて……ほら、所詮しがないスト―カ―ですよ、私!」

「に、兄さん! どうしよ! ぶっちゃけ、栞ちゃん可愛すぎ!!」


 オレはその時リビングの片隅で、ふたりが反省会を開催していることに気付かなかった。

「お嬢様。全部持ってかれましてね……」

「うん……ジェシカ?」

「はい?」

「聞きたいんだケド…ジェシカって実際狙ったの? ジュンイチさんの同情?」


「いえ、素ですよ、素! こんな気持ちよくお嬢様に文句言える機会そうそうないですし。私は満足ですよ? 楽しかったし!」

「そうなんだ…」


 どんよりするシルさんに気付かず、オレは次なる指示を出すことにした。


「でも、お嬢様。もし本当に斎藤兄妹を必要とするなら……ちゃんと筋通さないとです。御本人たちにも、ご家族にも」

「うん、私ちょっと…ダメでシタ。頭冷やしマス…」


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