第2話 お礼参り
岩場の窪地に悪趣味な改造バイクとバギーが集結する。
輸送トラック襲撃に失敗し頭を失った
「もうこの辺でいいだろう!!」
モヒカンにVの字に尖ったサングラスをした男が声を張り上げ指示を出す。
どうやら彼が頭無き今のゼット団を率いるナンバーツーに当たる人物なのだろう。
「ズィー、何なんですかいあの趣味の悪い赤ずくめの男は……」
「そう言えば聞いた事がある、最近売り出し中の凄腕の送り屋が現れたってな、まさかあいつがそうなのか……」
ズィーと呼ばれたV字グラサンの男は見かけに寄らず情報通の様であった。
お頭が巨体の脳筋暴力馬鹿であったため以前からゼット団を裏で切り盛りしていたのは実質このズィーだったと言っても過言では無かった。
「で、どうします?」
「決まっているだろう、お礼参りをさせてもらう、このまま逃げたとあってはお頭が浮かばれないし奴らが黙っていない、どの道俺たちに明日は無いのさ」
ゴクリ……。
ゼット団の取り巻きたちが一斉に固唾を飲む。
「そう辛気臭い顔をするな野郎ども、今の状況なら策を練ればあの赤い男に一泡吹かせられる、いいかよく聞け……」
ズィーは団員を集め何やら指示を出し始めた。
「………」
ウルフが帽子を取り胸に当て俯きながら一人黙とうをする。
足元の地面には二つの盛り上がりがありその内の一つは極端に大きい。
そして鉄骨が不格好だが十字に組まれ各々の盛り上がりの側に付き合ってられていた。
これはゼット団の頭とその頭に殴り殺された男の墓標であった。
「あんなならず者でも丁重に葬るかい」
ウルフの傍らに初老の男ゴードンがやって来た。
「死んでしまった者は皆平等なのさ、善も悪も無い」
「ウルフのあんちゃんは優しいんだな」
「そんなんじゃないよ、本当に優しいなら相手の命を奪ったりしないだろう」
「
お互いに苦笑いをする。
ウルフはスポーツキャップを目深に被りなおし墓に背を向け歩き出す。
すかさずゴードンも後を追う。
「このままここに居たんじゃ
「また奴らが来るってのかい!? 頭が潰されたってのに!?」
「来るね間違いなく、体勢を立て直し次第すぐにでも、奴らも生活と命が懸かっているからな」
冷静なウルフに対してゴードンは困惑の表情を浮かべる。
「そいつは難しいねぇ、運転できる奴が大怪我しちまったし女子供も脅えきっている、それに何よりトラックの右後輪の車輪がシャフトから破損して走行不能なんだよ」
ウルフが遠巻きに人が集まっている所を見ると、その運転できる奴ことサムという青年は頭から顔に掛けて包帯でグルグル巻きになっており、衣服を丸めて作った枕と毛布に横たわっていた。
女性たちも抱き合いながらすすり泣いている者、茫然として虚空を眺めている者と到底すぐに旅立つことは出来なそうだった。
「替えのパーツは?」
「流石にここまでの故障は想定していなかったんでね、物資不足もあってスペアタイヤくらいしかないよ」
「そうか、丁度良かった」
ウルフがそう言うか言わずかのタイミングで、風切り音をさせながらフェンリルが到着した。
座席にはキャットが乗っている。
「もう、どちらかと言うと私は頭脳労働担当なんですけどーーー、こんなジャンク屋みたいなことさせないでよね」
ジト目で厭味ったらしく愚痴をこぼすキャット。
『きゃっとハ作業中ズットソノ事バカリ愚痴ッテマシタヨ』
「フェンリル、余計な事は言わなくていいの」
キャットはフェンリルのカウルをポン、と軽くはたく。
「済まんな、俺は墓づくりとここの警備があったからここを動けなかったんだよ……で、収穫はあったか?」
「どうよ!! 見て頂戴!!」
キャットが自身満々に両手を広げて見せる。
フェンリルの後部座席から伸びたワイヤーの先には車やバギーのパーツとみられる鉄くずがいくつもぶら下がっていた。
キャットはウルフの指示でこの周辺に転がる車両などの残骸から目ぼしいパーツをかき集めて来たのだった。
「ウルフのあんちゃん、こいつはまさか?」
「そう、このスクラップを使ってあんたらのトラックを修理する」
「何と!!」
ゴードンが目を丸くする。
「だが、合うパーツがあるかね? 」
「無いなら作るまで、フェンリル」
『ハイ』
ウルフの呼びかけに応じフェンリルのフロントカウルがガコンという音と共に徐々に開いていく。
すると中には先端にサンダー、ドリル、溶接機などの工具が付いた細い腕、マニュピレーターハンドが複数本設置されていた。
「今から交換用パーツを作成する、キャット頼む」
「お任せーーー!! これこそあたしの腕の見せ所よ!!」
右腕を折り曲げ二の腕を左手で掴みガッツポーズをとるキャット。
「メカニック担当のくせにジャンク品拾ってくるのは渋るよなお前」
「だって重たい物持つの嫌なんだもん」
アヒルの様に口を尖らすキャットを見て首を竦めるウルフ。
「あんなんだけど腕は確かだから安心していいぜ爺さん」
「そうか……」
「あんなのとは失礼しちゃうわね!! フンだ!!」
「さて、俺は俺でやれることをやるか」
そっぽを向くキャットをそのままにしウルフが動き出す。
「どうするんだい?」
「そろそろかなと思ってね」
キュウン!! キュウン!! キュウン!!
『うるふ、6時ノ方向カラコチラニ近付ク熱源アリ』
フェンリルがけたたましい警告音と共にアラートを発した。
『3時ノ方向カラモ接近、9時カラモ接近』
「なるほどね、俺たちを包囲しようって魂胆か……数に物を言わせる、悪くない」
ウルフはスポーツキャップのつばの部分を手で押さえた。
やれやれと思う時があるとウルフは決まってその仕草をする、彼の癖であった。
「おい聞こえるか送り屋!!」
正面、所謂12時の方向から現れたバギーから拡声器で話しかけてくる人物があった。
モヒカンV字グラサンのズィーだ。
「お前らは俺たちゼット団が完全に包囲した!! 大人しく物資と女を置いていけば他の者の命は保証しよう!!」
「勝手な事を言いおって……!!」
ゴードンの握り締めた拳がわなわなと震えている。
「キャット、部品の完成までどれくらいかかる?」
「えーーーと、15分、いえ10分って所かしら」
そう言いながらもキャットの作業の手は動いている。
「そうか……爺さん、すぐにみんなにトラックの荷台に乗る様に言ってくれ」
「それはいいが、っておい!?」
ゴードンの返事を聞かぬうちにウルフはぐっと腰を落とし跳躍を開始した。
「もう一度言う!! 物資と女を……ってうわぁっ!!」
二度目の勧告をしようとしたズィーのバギーの上にウルフが飛び降りて来た。
「お前いつの間に!!」
「悪いな、俺も仕事なんでね」
足をボンネットに向かって強く叩きつけバギーのエンジンを踏み抜く。
そして爆発、ズィーと運転していた団員が吹き飛ばされる。
「野郎!! 無茶苦茶だ!!」
ゴロゴロと砂地を転がるズィー。
もうもうと立ち昇る炎と煙の中、人影が浮かび上がりゆっくりとこちらへ歩み寄って来る、ウルフはジャンバーと帽子こそ煤で汚れていたが全くの無傷であった。
ウルフの目は又しても青白く輝いている。
「ヒィ!! 化け物!!」
団員は悲鳴を上げながら早々に逃げ出した。
「おい待て!! つっ……」
ズィーはすぐにでも自分に危害が及ぶと思い身構えたがいつまで経ってもその気配はない。
「ぎゃあああっ!!」
「うわぁあ!!」
あちらこちらから団員の悲鳴が聞こえてくる。
どうやらウルフは人間には目もくれずバギーやバイクだけを素手の拳や蹴りで破壊して周っている様だ。
大凡人間の仕業とは思えない。
(何故だ? お頭の時みたいに俺たちを皆殺しにするんじゃないのか?)
ズィーがそんな事を考えているとマシンを粗方破壊し終わったのかウルフは再びズィーの所に戻ってきた。
「お前が今のゼット団の頭か?」
「ひっ!!」
今度こそやられる、そう思った時だった。
「今日はもうお互い終いにしないか?
「なっ……」
ウルフが指さす方向には二つの墓標があった。
来た時は全く気付かなかったものだ。
周囲から乗り物を失ったゼット団員たちが墓標目がけてフラフラと集まりだす。
そして墓標に正対して列になり続々と膝を付き始めたではないか。
「お前ら……」
その様子を眺めていたズィーもその列に加わる。
「親分……」
涙に暮れるゼット団の団員達。
突発的に、粗末ではあるが葬儀が執り行われた。
理不尽な暴力を振るう事もあったがその強さに団員の皆は心酔していたのだ。
(
ズィーの親分を殺された怒りが消えた訳では無いが、どこかウルフに対して仁義のような感情を抱くのであった。
「ウルフ、トラックの修理終わったわよ」
「分かった」
ウルフは暫し葬儀を見守っていたがキャットからの連絡を受けその場から素早く立ち去る。
彼の足は速く、すぐにトラックの元に辿り着き運転席のドアを開け中に乗り込む。
「トラックは俺が運転する」
ウルフの運転でトラックが動き出す。
「そいつは助かるが、あいつらはあのままにして大丈夫なのかい?」
「足は全て潰した、暫くは追って来れないよ」
「相変わらず甘いよねウルフは」
トラック外、並走するフェンリルの座席からキャットが呟く。
『ソレデコソうるふナノデスヨ』
「うるさい」
フェンリルに一喝し照れ隠しなのかウルフはスポーツキャップを目深に被った。
トラックは警戒に走り傍らにはフェンリルが走る。
目的地のジギル市まではあと僅かだ。
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