「第6章 期待してるから」
「第6章 期待してるから」(1)
(1)
ホームルームで彩乃が休むと担任から聞いた澄人は、休み時間に彼女にメールを送った。先日の様子ではどこも辛そうには見えなかったが、疲れて熱でも出たのだろうか。
【昨日、あれから体調が悪くなった? 大丈夫?】
携帯電話をブレザーの内ポケットに隠して彩乃にメールを送る。意外にも彼女からはすぐに返信が届いた。
【心配かけてごめん、大丈夫だから】
彩乃からすぐに返信が届いた事に一先ず安堵する。
【それなら良かった。もし寝てたなら起こしてごめん。今日の授業のノートは取っておくから】
【ありがとう、お願い】
彩乃とのメールを返してからこれ以上は迷惑になると、その日はメールを送るのを控えた。彼女がいない学校は澄人にとって、体の一部が消えてしまったような消失を生んだ。
ちょっと前までは、ただのクラスメートだったのにいつの間にか、それ程の関係になっていたのかと空席となっている彼女の席を見て自覚する。
昼休みになり佐川、倉野と机を並べて弁当を食べる。彼らと話す内容は昨日までと何も変わらない。佐川が話を振って、冷静に倉野が突っ込む。それに笑いながら倉野に乗る。
二人は彩乃が休んだ事を澄人に聞いてこない。最近、仲が良いと言っても休んだ=知ってると決めつける事はしなかったようだ。
澄人も彩乃が休んでいる理由を知らないので、質問されても答えられない。
まるで、彩乃と知り会う前まで戻ったように澄人の学校生活は過ぎていった。
帰りの電車内で一人になった澄人は携帯電話を開き、彩乃からのメールが届いていないかチェックする。彩乃からのメールは届いていない。
きっと明日になったら彩乃は登校してくる。マスクでも付けて体を悪そうにして、体育は見学するだろう。そんな事を考えながら澄人は彩乃宛のメールを作成し始める。
しかし、数行書いただけですぐに削除した。変に気を使わせて返信させるよりも今は、体を休めてほしいから。ただ一つ不安があるとすれば、今週末の未練作り。流石に週末まではまだ日がある。それまでには治っているはずだ。
携帯電話をブレザーの内ポケットにしまった澄人は、朝とは逆方向へと進む窓の外の景色を見続けていた。
だが澄人の予想を裏切り、彩乃は明日も明後日も学校を休んだ。
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