「第2章 救けてしまった責任と義務」(2)

(2)


 澄人は幼い頃から他人の頭にオレンジの栞が挟まっているのが見えていた。最初の頃は、それが何を意味するのか分かっておらず、そういう人が時々いるぐらいの認識だった。その事を正月に会う伯母に話したところ、とても驚かれた。そして、栞の意味を教えてもらった夜、彼は怖くて眠れなかった。


 頭にオレンジの栞が挟まっている人は、近日中に自殺する。


 オレンジの色が濃い程、死期が近い事を表しており、本人に自覚がないとしても必ず自殺する。


 その事をかつて栞が見えていた伯母の話では、それは代々、母方の家系で誰かが発現すると伝えられており、自分を最後に、見えた人物は現れなかったので、もしかして解放されたのではないかと思っていた。


 それがまさか澄人になるとは思っていなかったと言われたのを覚えている。


 どうして見えるのか、その仕組みは誰にも分からない。


 共通している事は見える事。オレンジの栞が出てしまった人を救けてはいけないという事だった。理由を尋ねると、伯母は渋い顔をして、他人がどれだけ救けようとしても救けられない。


 昔、伯母の恋人にオレンジの栞が挟まっており、あらゆる手段で救けようとしたのだが、救けられなかった。


「心の底なんて本人以外には救けられないんだよ」と伯母は遠くを見てそう言った。だから澄人は、オレンジの栞が挟まった人を見つけても決して救けようとはしなかった。


 これまでに発現した人の人生に子供の自分が逆らえる訳がないのも知っていたし、何よりそれを知ってから今日までの間、彼の知っている人物でオレンジの栞が挟まっている人間がいなかったのである。たまに駅のホームや街中で見かけるぐらいで、それはどこか他人事として捉えていた。


 その為、昨日の出来事は初めてであり、伯母からの話を聞いた後でもああするしかなかった。救けられない


 と言われた伯母の言葉の重みがようやく実感出来ている彼は、その重みを感じながら憂鬱なため息を吐いた。

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