13 勇者パーティ

 目を逸らしながら前へ進み出た勇者パーティの三人に、ブラムが警戒してレクスを背にかばう。バーレントは厭らしく笑っている。この状況を面白がっているような表情だ。

「どういうつもりですか」

「いえいえ、新しい魔王にもお会いしていただこうと思ったまでですよ」

 ブラムは不快感に顔をしかめる。そんな中、レクスは勇者パーティの三人を観察した。

 どうやら三人は嫌々でついて来たようだ。彼らの表情がそれを物語っている。なにより、三人は丸腰だ。戦う意思はそもそもない。これは、魔族の仇討ちを狙っているということ。つまり、人間に魔族と友好関係を結ぶつもりなはい、ということだ。

「帰りましょう。意味のない視察でした」

 ブラムがきびすを返す。おやおや、とバーレントが笑う。

「人間の国はいかがですかな、魔族の王」

 挑発するように言うバーレントに、レクスは何も言わずに背を向けた。何も言う必要はない。

 馬車に乗り込むと、ブラムが深い溜め息をついた。

「おかしいと思ったのです。キングの戦いでは、人間側から攻撃を受けて始まりました。だと言うのに、いまさら友好関係を築きたいなどと、おかしいとは思っていたのです」

 今度は魔族側から攻撃を仕掛けさせ、自分たちの行動を正当化しようとしている、ということだ。レクスが勇者パーティに激高して攻撃を仕掛けると思っていたのだろう。

「勇者パーティの三人が可哀想でしたね」

 レクスは呟くように言った。勇者パーティの三人は人間の思惑に巻き込まれたに過ぎない。丸腰で魔王の前に立つなどということは、恐怖がないことではなかっただろう。

「もし、したくもない戦いを強いられたのなら、彼らもまた被害者なのかもしれませんね」

「だからと言って、彼らに同情する魔族は多くないでしょう。少なくとも、キングは彼らに討伐されたことになっているのですから」

「……そうですね。国には改めて外交拒否の書面を出しましょう」

「承知いたしました」

 時間の無駄だったと言えばそうだが、人間の本質を見極めるという点では意味があったのかもしれない。人間が魔族に対していまだに敵意を懐いていることはよくわかった。人間に友好関係を築く気がないということ、その必要がないことも判明した。それらは魔族にとって重要な意味があるのかもしれない。そう考えれば、まったくの無駄だったというわけではないだろう。


   *  *  *


「おかえり、私の可愛いレクス」

 執務室に入るなり、キングがレクスを抱き締めた。

「人間に何もされなかったか?」

「特に、何も」

 今回のことはキングには話さなければならない。だが、帰還を喜ぶ立ち話ではなく、きちんと席を設けて説明するべきだ。そう考え、レクスは首を横に振った。

 カルラが丁寧に被衣を脱がせ、レクスはようやくひと息つく。頭が重くて肩が凝った。緊張で体に力が入っていたこともあるだろう。

「お食事のご用意がありますわ」と、カルラ。「どうぞ食堂に」

「ありがとう」


 この日、改めて外交拒否の書面が送られ、人間の国からの返答は途絶えた。

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