第113話 10月23日
次の日曜日。私は
4人掛けのテーブル席。隣には、緊張に
私達は、残る二人の到着を待っていた。
しばらくすると
「忙しいなか、ごめんね
「別に。ところで
つっけんどんに言うと、
「もうちょっと待って。
「
途端、
彼女は店員の女性にアイスカフェオレを注文したが、オーダーした品が運ばれてくるより先に
小さく会釈した
アイスカフェオレが運ばれてくると、今度は
「それで
緊張に迸る鼓動を「ゴホンッ」と空咳で誤魔化せば、私は真剣な眼差しで三人を見遣った。
「みんな、今日は忙しい中集まってくれて、本当にありがとう。まずは今回の件で迷惑をかけたことを、謝らせてください」
精一杯に頭を下げ、私は「ごめん…!」と
垂れ下げた頭の向こうから、鼻腔を抜けるような溜め息が漏れ聞こえる。
「別に、私は謝ってほしくなんかないわ」
「私も同意見です」
冷たく研がれたような声。それらが私の耳を刺し、
「わかってる………もう僕は逃げない。だから今、ここでハッキリ言うよ」
ゆっくりと頭を上げた私は、眉を
「僕は、
――苦笑いも愛想笑いも無く、ただ思うままを声に表した。
「僕は彼女を愛してる。彼女と、結婚したい」
瞬間、
狭いテーブル席に緊張が走る。私は体を震わせながら、尚も続けた。
「だけど皆にも話したように、
でも僕は、
言うが早いか、私は勢いよく頭を下げた。テーブルに置かれた飲み物も揺れて
「……
手招きするみたく
言われるまま私は立ち上がると、彼女もまた椅子を引いた。
すると、その直後。
――バチイィッ!!
――べシンッ!!
右頬に
強烈な二つの張り手に脳が揺れる。足をもつらせる私は、無様に床を転がった。
薄汚れた床に
「馬鹿も休みやすみ言いなさい! 三股四股かけるような優柔不断な真似をしておいて、フッた途端に『協力しろ』だなんて、どういう了見!?」
「股がけしていた訳ではないと思いますが、確かに唐突が過ぎますね」
「ま……待ってください! 事務長、本当にすごく悩んでたんです! せめて、お話だけでも聞いてあげてください!」
狼狽えるお嬢ちゃんに対し、
「言われなくても、ちゃんと話は聞くわ。そうでもなければ、わざわざ呼び出しに応じないわよ。
でもその前に一発殴っておかないと、私の気が済まないのよ!」
「暴力など医師の本懐に反しますが、区切りは必要ですからね」
そう言って二人は椅子に座り直すと、両手両足を組み威圧的な態度を示した。
「いいわよ、御話しなさい」
「は、はい…」
クラクラと
※※※
「――という構想を考えています…」
3人が見つめる中で、私は頭の中に描いている絵図を説明した。
途中で異論も唱えず、三人は静かに耳を傾けてくれた……いや、『呆れてモノも言えない』といった雰囲気なのか。
「ずいぶんと突拍子の無い話ね…」
「ええ。確かに不可能な話ではありませんが……少々強引ですね」
「……ごめん。急にこんなことを言われて、二人が戸惑うのも怒るのも分かる。だけど、お願いだ! どうか力を貸してほしい!」
テーブルに額を擦り付け、私は再度頭を下げた。
「わ、わたしからも、お願いします!」
そう言ってお嬢ちゃんは、同じように深く頭を下げてくれた。
「わたし……今まで事務長には何度も助けてもらいました。仕事もそうですけど、ウェディングイベントの時もそうです。わたしが困ってたら、事務長はいつも笑って手を伸ばしてくれました。だから今度は、わたしが事務長を助けたいんですっ!
お願いしますっ! どうか事務長に、力を貸してあげてください…っ!」
熱を孕んだかのような、お嬢ちゃんの叫び。
「二人とも。頭を上げてちょうだい」
言われて、私とお嬢ちゃんは恐る恐ると
「心配いらないわ、お嬢さん。私は最初から
「私も同様です」
予想外の返答。私は驚きのあまり頭の中が真っ白になって、言葉すら浮かばなかった。
「私だって
「
「私は
「
「そんな顔をなさらないでください。今回のお話しは私にもメリットがありますし、是非とも協力させて頂きます」
にこりと微笑む
「それにしても、
「それに関しては同意見です。けれど、そんな裏表がなく優しさに溢れた
「……そうですね。愚直でおバカで真っ直ぐなだけが取り柄の優柔不断男に、してやられたわ」
褒めるような貶すような複雑な発言と表情で、
傍で、お嬢ちゃんが「クスクス」と愛らしい笑みを浮かべると、彼女もまた同じように左手を重ね合わせた。
「……ありがとう、皆」
そして私もまた、彼女らの手を強く握り返した。
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