第82話 08月18日【2】
水族館の土産を持ってきてくれた
背中が妙に汗ばみ、手指が小刻みに震える。
「事務長、こちらの方は…?」
「あ、うん。
「はじめまして。K大附属病院で小児科医をしています、
「……はじめまして。事務の
二人は丁寧に会釈を交わした。
「お綺麗な方ですね、
とても端正な笑顔。なのに私は言い様の無い寒気を覚えた。
「え、ええ。
「お名前で呼ばれているのですか?」
振り返って見れば、その表情は
「ええ。そうです」
――私に代わり、
まるで氷河と太陽。強烈な寒暖差は
「事務長は、こちらの先生を何とお呼びで?」
「え、僕? 僕は、その…」
「『
またも太陽の微笑みが私を代弁した。吹き
「……そうですか」
「いやいや! 呼び捨てなんて! ちゃんと『
「そこは問題ではありません。ところで、お二人の御関係は?」
「えっ、と……と、友達かな?」
「そうですね。今はまだそういう関係です」
どこか言い含めあるものの、太陽の肯定に私はほっと胸を撫で下ろした。
「お二人は、上司と部下の御関係ですよね?」
しかし
「僕たちは…」
私はチラと
瞬間、私の胸中に薄黒い
そうだ、何を迷っているのだ。
確かに
私は拳を握り、大きな息を一つ吐いてから
「いえ、単なる上下関係じゃありません。僕は
「事務長っ!」
決意虚しく、またも私の言葉は遮られた。だが二人の声ではない。振り返ると、奥の診察室に私服姿のお嬢ちゃんの姿が居た。
「あれっ⁉ 帰ったんじゃなかったの?」
「実は北海道のお土産を持って来たんですけど、渡すタイミング無くて……あ、皆さんにはちゃんと別に用意して――」
手に提げた紙袋を持ち上げ、お嬢ちゃんは
「す、すみませんっ! お客さんでしたか?」
「ああ……いや大丈夫だよ。ありがとう、お嬢ちゃん」
「すみませんっ。ここに置いていきますから、よかったら召し上がってください。こっちは
そう言って彼女は受付カウンターに、高級感ある箱入りのポテトチップスを二つ並べた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ! お二人にはいつも色々教えて頂いているので、皆さんのとは別に買ってきましたっ。それじゃあ、お先に失礼しますっ」
愛らしい微笑みと共に丁寧なお辞儀して、お嬢ちゃんはテケテケと裏口に向かった。散歩を楽しむ子犬のような後姿が、傷む私の心を癒してくれる。
「ちょ、ちょっと
「い、今の女性は
「ああ、ウチの事務員の
「な……なんなですか彼女!? ちょっと可愛すぎませんか!? 芸能人ですか!?」
「モデルさんなんですよ。『元』ですけど」
「……ちょっと
ジトリと粘り付くような
「もしかして
「別にそういう訳では…」
「でも可愛いですよね、彼女」
「……まあ、はい」
答えた途端、
かと思えば院内に踏み入り、
「今は一時休戦ということで」
「ええ。賛成です」
「どうやら、上手くやって行けそうですね」
「ええ。今暫くは」
一体何と戦っているのか分からないが、仲が良いならそれに越したことは無い。
そして唐突に――
「
――オクターブ高い声で、昔のアイドルを思わせるブリッ子ポーズをしてみせた。
「……なにしてるんですか?」
「……ああいう感じがお好みかと思いまして」
唐突と
赤らんだ頬のまま「それでは」と挨拶して、
「事務長」
疲弊した私を
「
顔の赤さは
「なんなんだ、一体…」
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