第72話 08月07日【2】
「――と、いうわけです」
「なるほど。つまり貴女は店舗誘致の権利を獲得するために、
「そ、それは…」
「ちょっと待って下さい
身を乗り出した瞬間、ギロリと鋭い
私は「ふう」と一呼吸だけ間を置いてから、再び
「……この
彼女は大きな会社の経営者です。自分のためだけじゃなく、会社や店舗、そこで働く従業員や家族のために自分に出来る事を精一杯やっているだけなんです。だから、そんな風に彼女を悪く言うのは
「
気後れしながらも、腹の奥に滾る思いを振り撒けば、空気の抜けた風船のみたく私は縮こまった。
怖かった。
正面から
彼女達に嫌悪されるのではないかと。
だがもはや後の祭り。訪れた後悔に苛まれ、流れる汗と血流が加速する。
「本当にお優しいですね、
しかし私の不安とは裏腹に、
「
言葉通り、
「お詫びと言っては何ですが、誘致の件は私からも院長にを推しておきます。話の分かる方なので、きっと
「えっ!?」
「良かったな、
「ええ! ありがとうございます
「そうですか。なら御言葉に甘えて、ひとつお願いを聞いて頂けませんか?」
「もちろん! 私に出来ることであれば!」
「では今後、病院や薬局以外で
私は、耳を疑った。
私だけではない。
かと思えば直後、眉尻を吊り上げ顔を赤く染め上げた。
「そ、そんなことを貴女に指図される
「いえ。まだ交際には至っていません。ですが私はそうなりたいと望んでいます」
今にも食って掛かりそうな
「私は
心根を明瞭に述べる彼女に押し込まれるよう、
「もし
その代わりと言ってはなんですが、誘致の件は私から院長に進言させて頂きます。きっと貴女の御希望に沿う結果になります」
淀みない
流石にこれ以上、黙って見てはいられない。
私は身を乗り出して立ち上がった、刹那。
「なら私は、門前の権利なんて要らないわ」
そこには晴れ晴れと、穏やかな様相の彼女が。
「私は日本一の調剤薬局を目指しています。それに
重く圧しかかるようや
「だけど、それでも……例え今の立場を失っても、私は
普段の意気高な調子を取り戻したように
すると今度は
「……
「はい」
「試すような真似をして申し訳ありませんでした。お約束通り、ドクターには私の方から誘致の話を通しておきますので」
言い置くように言うと、
「ちょ、ちょっとお待ちなさい! 私は――」
「安心してください。もう『会うな』なんて言いません。今まで通りの関係を続けて頂いて結構です。そもそも貴女の言う通り、私がお二人の間柄をとやかく言う権限などありませんから」
「え…?」
「ただ一つ言わせて頂くなら――」
そう言うと
「――私、負けません」
優雅かつ颯爽と店を後にした。
チリン、チリン、とノスタルジックなベルの音が残滓を響かせて…。
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