第27話 04月16日
「事務長、これ…」
「ん?」
土曜日の診療(午前診のみ)が終わり、待合室の片づけをしていたお嬢ちゃんが、困った顔で私に声をかけた。
手には壊れた玩具が握られている。
プラスチック製のパトカーはタイヤとドアが
「あちゃー。これはヒドイ」
「たぶん、最後にいらっしゃった患者さんが。御兄弟で来られてて…」
「あー、ヤンチャ坊主みたいだねー。お母さんもスマホ見てるだけで注意してなかったねー」
「うーん……また新しいの買ってくるかな」
「いつも事務長が買ってくるんですか?」
「そうそう、近所の家電量販店とかシオンモール(ショッピングモール)とかで」
「シオンモールですか? 私、最近全然行ってないんです。久しぶりに行きたいです」
「そうなんだ。じゃあ、買い物とかはいつもどこに行くの? 服買ったりとか」
「百貨店ですよ?」
「……え?」
「……え?」
「あ、いや。なんでもない」
私はお嬢ちゃんから壊れたオモチャを受け取ると、そそくさと2階の事務所にそれらを持って上がり、納戸の奥へ仕舞いこんだ。人形やオモチャを無闇に捨てるのは気が引けるからだ。
神棚に手を合わせるみたく納戸に向かって二礼二拍手すると、私はすぐに1階の院へと戻った。
「――あ、
ちょうど事務所のエントランスを出た所で、閉局の片付けをする白衣姿の彼女に出くわした。
「あら、
「お疲れ。なんかテンション低いね」
「そういうアナタも暗い顔じゃない」
「待合室の玩具が壊れちゃってさ」
「あら、アナタの所も?」
「あ、
店舗に看板を仕舞った
「最後に来た患者さんよ。男の子だから仕方ないけれど、ちょっとヤンチャが過ぎるわね」
「元気なのはイイコトだよ」
「限度があるわよ。また新しいのを買いに行ってもらわないと…」
「あ、
「当然よ。そんな雑務にかまけている時間が、私にあるわけがないじゃない。未来の社長よ、この私は!」
さも得意げといった様子で、
「そうかー、残念」
「あら、なにが?」
「ウチは僕がオモチャ買いに行くんだけど、一人で買うのって結構恥ずかしくてさ。毎回レジで店員さんに『プレゼントですか?』とか聞かれるんだよ」
「だからどうしたのよ」
「
「……え?」
「でもしょうがないか。まさか
「ち、ちょっと、お待ちなさい!」
突然放たれた
「ど、どうしたのさ」
「あ……その……そ、そうよ! 今思い出したわ! 事務員さんは皆さん用事があるらしいから、今回は私が買いに行くことになっていたのよ! そうだわ、忘れる所だったわ!」
言いながら
「そっか。いつ買いに行くの?」
「え? えーっと……あ、アナタこそ、いつ買いに行くつもりなのかしら?!」
「僕は明日にでも行こうかと。日曜でウチの病院も休みだし」
「あ、あらそう? 奇遇ね! 私も明日買いに行くつもりだったのよ!」
「そうなんだ。じゃあ一緒に行かない?」
瞬間、
喜ぶ姿を私に見られたくないのか、彼女は後ろを向いて「んんっ」とひとつ咳をした。
「し、仕方ないわね! そこまで言うのなら付き合ってあげなくもないわ! 感謝しなさい! この私が貴重な休日を割いてあげるのだから!」
背中越しにでも分かる程の威風堂々たる振る舞い。けれど華奢な体とはギャップがある。
「うん、ありがとう。御礼に何か奢ってよ」
「と、当然ね! この私の貴重な時間をあげるのだから……って私が奢るの!?」
振り返った
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