それが何なのか解らない


 再度こちらから山田さんに電話をかけ、後日形見とやらを見に行く事となった。


 地元の駅前で待ち合わせ、そこから目的地へ送っていただく手筈だ。


 そして当日、山田さんと初めて会ったコンビニ近くで、再度山田さんと落ち合う。



 「お時間をいただき、感謝いたします」



 相変わらず腰だけは低い。


 しかし、絶対に立ち入れぬ領域を作っている。


 スパイなんてものが近くにいたとするならば、例えば山田さんのような人なんだろうと思える。



 「これからお連れする場所がどこなのかは申し上げられませんので、ご質問はお控えいただきたくお願い申し上げます」



 何だよ・・・俺が今から拉致されるみたいじゃねえか。


 でもまあ、もういいよ。


 そう言った訳解らない事なのは十分に解ったし、好きにしてくれ。


 俺 も 好 き に す る か ら 。





 スーツ姿の山田さんとは対照的に、私服姿の運転手で走り出したこの車はよこよこ道路から関東の中心を突き抜け、北上している。


 車の窓はカーテンもスモークもされておらず、景色はまる見えだ。


 通る道のほとんどが、俺の記憶にある道である。



 「山田さん、さっき目的地を教えられないと言いましたよね?」



 もうじき東京から出てしまいそうな場所で、隣に座っている山田さんへ声をかけてみる。



 「はい、おっしゃりたい事は何となく察しております」



 だろうね、俺はずっと景色だけ見て今に至っている。


 北へ向かって進んでいる事は分かっているし、周りを見るなとも言われていない。


 では、別の質問をすることにする。



 「何で母に話が通っていないんですか? 敬重の実子ですよ母は」



 山田さんは大きく息を吸ってから、その質問に答えてくれた。



 「内情を伝えて良いという許可は得ていないので多くは語れませんが、私の知り得ている範囲で良ければ問題のなさそうな域までお答えします」



 問題のなさそうな域・・・。


 俺に知られると問題があるのか?


 俺、どこだか解らない所に連れていかれるのに、お優しい事で。



 「差別的なお話ではないのですが、お母上様は女性であられますのでお伝えしておりません」



 十二分に差別的な内容だが。



 「この行事と申しますか、敬重様の遺物は継承されるお子が男性である決まりで成っております」



 山田さんは俺の方へ1㎜も顔を向けない。



 「敬重様に男の実子がおられれば、この遺物はその方に継承される予定であったのですが」



 実子、という所に引っかかりを持ったので、言葉をさえぎって別の質問をした。



 「豊美おばさんが男の子を産んでても、そっちには継承されなかったって事ですか?」



 ここでようやく山田さんは横目で俺を見た。



 「するどい、左様でございます」



 豊美おばさんはじいじいの幼女である為、継承の対象外であるという事。



 「しかし、例外がございます」



 山田さんは人差し指を立てた。



 「継承者が、継承権を譲る相手として男性の養子をとる場合です」



 じいじいが養子に行った件はまさか・・・。



 「敬重様が、その例です」



 その通りだった。


 だが察するに、この内容は継承権が発生した時でなく、継承する直前に伝えられるものであり、つまりじいじいはこの風習を知らないで養子になったことになる。


 よって、じいじいは別の理由で養子に行った事になっている筈なのだ。


 だがおそらく、母の言う「石川のおばちゃん」はこの事を知らないはずだし、母も知らない「石川のおじちゃん」がそのつもりでじいじいたちを養子にしたのだ。


 その人が俺らの知る限りでは「初めの後継者」であったのだろうと察する。


 

 「駄菓子屋を営んでおられた石川さんと言う方が、このメダルのような物を敬重に渡したんですか?」



 ポケットから例の「家紋のような物」を出して見せた。



 「・・・えー、何でしょうそれは?」



 は、しらばっくれるだと?


 ここまで話して急に答えられない域になったとでも??



 「送ってくださったメールに、同じものの写真が添付されていたじゃないですか」



 すると山田さんは、頬を撫でながら



 「ああ、それが例のですか」



 例の、って?


 まさか・・・知らない?



 「メールは私が送ったものでは無く、私はそれを今始めて見ました」



 どう言う事?


 一体今、この「形見問題」に何人がかかわってる??


 時すでに遅いが、ここまで来て想像以上の恐怖に襲われる事となった。


 

 「あの、山田さん達はどう言った組織の方々なんですか?」



 組織と思わず言ってしまった。


 だって、かなり大きな思惑を感じたから。


 手に持っている「家紋のような物」をこのまま出しておいてはいけないような気がしたので、ポケットにそっとしまった。



 「私は依頼されてそれに従っているだけでして、今向かっている先の方も同様だと思いますよ」



 と言い終わった後山田さんは、口と開けたまま少しだけ固まった。



 「・・・少々話過ぎたかもしれません、他言は無用にお願い致します」



 少ししてやったりな気持ちになったが、こんなもんじゃ何の安心にもならん。


 俺はもっと情報を仕入れたい。



 「この家紋のような物は、一体何なんですかね?」



 少し考えた様子の後、山田さんは回答してくれた。



 「その物自体が何なのかは私には解りませんし、その家紋が何家の物なのかも知り得る情報の外です」



 そして先程と同じ姿勢でまた頬を撫でながらじいじいの名を出した。



 「お電話で形見をお見せする為に必要な物とお伝えしましたね? その物自体は敬重様ご本人が定められたと伺っております」



 という事は、俺も決める事になるのか?


 何か、後継者に、その証を渡しておく必要があるのかもしれない。


 2つ、必要なんだろう。


 メールの写真に写っていたものは、俺が今持っているコレの予備か何かなのだ。


 山田さんの口調からすると、山田さんはその予備の在処を知らないのだろう。


 さっき聞いた「向かってる先の方」が持っているのかもしれない。



 「加え、この後お見せする形見が何であるかは知っておりますが、どういったものなのかは知らされておりません事をご承知おきください」



 結局、見ても何なのか解らないという事だな・・・。






 俺は一体、何の為にその形見を見に行くのか??






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る