山田

ここからは読みやすくなるように、小説風で書く。

 


 今回栃木に引っ越す前、前話で記した「パパの遺産放棄」の後、事件は起きた。


 もう既に栃木への引っ越しが決まっていたため、恐らくこの人は俺の所に来たのだと思う。


 山田さん。


 その人が突然、コンビニへ向かう俺の前に現れた。



 「三波さん? 海人さんですか?」



 山田さんとの初めての出会いは、この言葉から始まった。


 俺は昔音楽をやっていたので、初めはその関係の方だと思ったが違和感があった。


 音楽関係者は俺の本名を知っている人が少ないから。


 この時点で俺は「コノヒトは知らない人」と察した。



 「どちらさん?」



 俺は攻撃的にそう聞いた。


 よく覚えている、この日は雨が降っていて、俺は利き手が不自由な事もあり傘をささずフード付きの上着だけで雨に打たれコンビニに向かっていた。


 後に「山田」と名乗るこの人物は、スーツ姿で傘もささずにびしょびしょの姿で俺の横に立っている。


 俺がこの状況を再認識した瞬間、背筋が凍り付いた。


 俺の好きなドラマに「ビックマネー」という作品がある。


 この物語りの中で、主人公「白戸則道」の事をかばいナイフで刺されてしまう「マッキー」と言う登場人物がいる。


 そのシーンに、現状がそっくりだったからだ。


 マズイ、このままではマッキーにされてしまう・・・。


 と思ったが、そんな事は全くなかった。


 「あ、海人さんで間違いなければ・・・今日はこんな天気ですし、ご挨拶までと言う事で」


 そして山田さんは深々とお辞儀とした。


 「は?」


 俺があからさまに不満な態度を取った後、山田さんは近くに止めていた車に乗り、消えて行った。


 車で来てるんなら、何であんなびしょびしょになるまで外にいたんだよ・・・


 と考えて、俺はまた背筋が凍った。


 俺がここに辿り着くまで、車から降りて待っていたという事なのだ。


 恐らくは俺の家の近くで張っており、出てきた所を確認し、俺の行動を先読みしてコンビニ近くで待っていた。


 そう言う事なのだと。


 しかもそこまでを察せる行動であり、理解させるためにそうしたのだと直感した。


 ・・・とかえらそうな事を書いているが、それが解ったのはコンビニで買ってきたピザまんをほおばりながらワンカップをすすっている自室でだった。


 山田さんが居なくなった瞬間は、もう只々気持ち悪かった。


 何なんだと。


 そんな怖い出来事があった後なのに、コンビニで中華まんと酒を買って帰る俺の神経もどうかしていると思うが。


 どうでもいい話だが、たしかビールとライフガードも買ってた気がする。


 数日後、俺のケータイに電話がかかってきた。


 全く知らない番号だった。


 出るのが怖かったので、1度スルーし番号をネットで調べてみる。


 0246-xx-xxxx


 福島県・・・。


 と確認した後すぐ、2度目のコールが鳴った。


 取り敢えず出る事にした。



 「三波様でいらっしゃいますでしょうか?」



 俺はハイと答える。



 「先日、雨の日にご挨拶でお声がけさせていただきました山田と申します」



 出た・・・あの男だ・・・。


 コイツ、理由は解らないが俺を逃がすつもりが無いぞ。


 逃げられないのなら向かい打つまでだと、質問を投げる。



 「あのー、先日と言い、要件が全くつかめないんですけど」



 大きくため息をついて、そんな事を言ったと思う。


 すると山田さんは丁寧に返してきた。



 「先日は名乗りもせず申し訳ありませんでした、こちらも少々緊張しておりましたもので思いがけずご無礼を」



 謝罪などどうでもいい、何モンなんだアンタは。


 この時は恐怖心より、正直好奇心の方が上回っていた。


 そして山田さんは接触してきた理由を話し始めた。




 「海人さんは、敬重さんが亡くなられて何年になるかご存知ですか?」




 コイツ・・・


 何 で じ い じ い の 名 を 知 っ て る ?


 何年になるかだと?


 知らない訳ないだろうよ、俺も葬式の準備したんだから。


 いや、そうじゃない。


 この流れは・・・これはもうただ事じゃないと、おバカな俺でも容易に察せた。


 そしてこれからこの山田と名乗る男が話す内容は、想像を絶する要件なんだろうとも想像していた。





 そしてその予感は的中する事になる。

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