“カタコイ”の行方
江藤渚
第1話 嘘つき
私達は、嘘つきだ。すぐ「大丈夫」と答えてしまう。それは本心なのか見えを張っているのか、長い付き合いの人でもきっと家族にも違いはわからないのだから。そして、私達はまた、互いを守るために嘘をつく。
私は、
私達は、ひょんな事から周りに流され好きな人にそれぞれ告白して、それぞれ彼氏、彼女となる人が小学校の六年生で出来た。この結果が私達にそれぞれの道を歩むこととなった。
私は、中学一年生の頃は、初対面の人に話す事が怖かったりで、たまたま同じクラスになれた颯大と一緒に話す事が多かった。けれど周りの人から見れば、彼女のいる颯大と話すという事が、嫉妬だからと勝手に認識され、やがて私はイジメられ、クラスから省かれる事となった。その時、数回颯大が「大丈夫か?」と聞いてくれたが、周りの目が怖かった私は、「大丈夫だよ。」と言い捨て教室から出て行った。
私を守るために、本心を隠した。この日、颯大に初めて嘘をついた。
やがて、私の彼氏にもその話がなぜか届き、中学一年生の夏、振られてしまった。
それからしばらくが経ち、中学二年生の冬。来年には、高校受験を懸念した親に言われ塾に通うことが決まり、塾に行くとそこには、颯大がいた。
中学二年生のクラスでは、私はイジメられることは無くなったが、颯大と颯大の彼女は、同じクラスになっていたのが少し不思議に思えた。クラスが離れた事で、颯大とはほとんど話さなくなっていたが塾で再会した事で私達は、よく話すようになった。
話すようになって初めて知ったのは、颯大もまた私と同時期に別れていたことだった。
理由を聞くと、一部の人は怒ってしまうだろう。何せ、「付き合ってる意味がないんだもん。」と答えたからだ。そして、この答えが、本心でもあるけど、同時に颯大が望んだ結果じゃないという事をあとから知ったのは、まだもう少し先の事だった。
塾がある日は、なぜか塾長の計らいで、いつも颯大と隣の席で同じ先生だった。塾がある日の流れがそのうちできるようになった。塾が終わると、十分ぐらい雑談して、私達は、同時に帰る。そう一緒に帰るというこれだけの流れ。こんな風になるなんて中学一年生の時には、考えられなかった。でも、私達は決して、幼なじみなだけで、恋人同士ではない。
受験期間中にクラスの友達に颯大にまた新しい彼女たちがいた。という話を聞いた。けれど、上手くいかなかったらしく、もう既に話を聞いた時には別れていた。他にも、颯大が初めて付き合った子には、颯大が実は裏で彼女に対してベタ惚れしてたらしく、やがて、彼女がそんな颯大に愛想尽かして他の男子と喋るようになり、この事を颯大は女子に相談するようになり、互いに話し合った結果『付き合っている意味が無くなった』という事。
この話は、颯大から聞いてないことだったから颯大に確認するのは良くないと思った。その日に塾があって、会うとしてしも、一緒に帰るとしても、颯大が話してくれるまで待とうと思った。
でも、颯大が話してくれる事はなかった。そして、高校受験に合格した私達は、別々の高校に入学して、高校二年生になる前に互いに忙しい日々を送っていたため、私達は塾を辞めた。それからというもの、話をする事も会うこともなくなり、疎遠になってしまった。
私は高校に登校している間、颯大と一緒に帰っていた日々を思い返したりすると、どこか悲しい気持ちになった。颯大は、私のあの時の『大丈夫。』が嘘だった事を見抜いていたのだ。塾最後の日、私達はまた一緒に帰っていた。その時に、
「千彩都、高校であんま無理すんなよ。」
「無理してないよ。無理してたのは中学一年のあの時だけだよ。」
「千彩都があの時俺に大丈夫って言った時だろ。」
「え…なんで、わかるのよ。」
「まぁ、幼なじみの感みたいな。嘘、本当はすぐわかるよ。千彩都すぐ顔に感情書いてあるから。今もな。」
「えー。颯大は、全然感情が顔に書いてないからわからないよ。」
「当たり前じゃん。そうすぐ顔に出すと、めんどくさいもん。」
「でも、驚いたよ。高校の友達にも、私が大丈夫って言うのは決まって全部大丈夫じゃないでしょって。私よりわかっててびっくりしたな。」
「…その子大事にしろよな。」
「当たり前じゃん。」
「俺もその子みたいな彼女が欲しいわ。」
「…何それ。」
と、自転車を漕ぎながら、笑って話して帰った。やはり、気になるのは、颯大がどこまで、私の本心に気付いていたのだろうか。今もただそればかりは、謎だった。でも、やっぱり、心に大きな穴が空くように、桜が散っていくように、私はただ悲しいく、切なかった。そして、気付いたのは本当は、颯大の事が好きだった事だ。決して恋人同士にはなれないとわかってはいたけど、いざ、離れてみてわかる。颯大がいない事がこんなにも色褪せるとは、思わなかった。こんなことなら、もっと颯大と話しておけば良かった。ただずっと後悔していた。
嘘つきは、やはり報われないのだろうか。でも、この嘘は、どっちの道が良かったのだろうか。嘘で自分自身を守るか、嘘をついてまでも見えを張ることか。私達は、きっとこの答えを見つけることに、一歩近づいたのだろう。
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