第208話 冒険者ガラムとの接触
ロイド子爵との会談で、悪魔勇者の危機についての共通認識を得ることができた平野は、次に王国との接触を図ることにした。
大陸にある国々のなかで、このボルヤーグ連合王国との関係を築くことを最優先としたのは、2つ理由があった。
ひとつは、護衛艦フワデラが以前に訪れたことがあること。さらに南・坂上の両大尉は新婚旅行でも訪れたことがある。
そしてもうひとつが、勇者の存在である。この大陸の伝承で、魔王を倒すために現れるという勇者が、このボルヤーグ連合王国にいるとされていた。平野は、この勇者を実際に会ってみて、その真偽を確認したいと考えている。
護衛艦ヴィルミアーシェには、シンイチのような悪魔勇者にも確実に通用するスキルを持つ者はいない。
もし護衛艦フワデラが不在のまま、悪魔勇者と接敵するようなことになれば、それは非常に危険な状態と言えるだろう。
勇者と呼ばれる存在が、悪魔勇者に対抗する力を持っているのかを知ることは、平野にとって喫緊の課題のひとつであった。
そんなことを考えていた平野に、
吉添は平野の同期であり、平野の熱烈なファンでもある。裏であらゆる策謀をめぐらした結果、今の副長の任に就いている。
「連合王国旗とロイド家の旗を掲げ終わりました」
「そう。では、このまま北上して王都へ向かいましょう」
「了!」
二人のやりとりを聞いていた鬼娘の真九郎が、平野に声をかけた。
「王都についたら、私はミライちゃんと一緒に上陸ですねん」
「そうよ。ガラム・キングスレイという人物を連れて戻って欲しいの。真九郎なら大丈夫だと思うけど、気をつけてね」
ガラム・キングスレイは、プラチナ冒険者としてボルヤーグ連合王国でも有名な人物であり、ミライの師匠でもある。ミライ本人曰く、将来の旦那様だということらしいが、高津艦長よりも年上だと平野は聞いていた。
平野自身は、ガラムに直接会ったことはないものの、高津艦長のインカムを通じて、その顔や声は知っている。その人となりについては、ロイド子爵や南・坂上だけでなく、マーカスやヴィルフォランドールからも、信頼できる人物だと聞いている。
平野はガラムを通じて、勇者や王国との接触を図ろうとしていた。
~ 接触 ~
ガラム・キングスレイは、王都にある高級レストラン「シーク&ノーラ」で、ひとり食事を楽しんでいた。
ひとりと言っても、彼が食事をするときには、彼の弟子でありレストランのオーナーであるシークとその妻であるノーラが、必ず挨拶にくるのでボッチ飯というわけではない。
ただ、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃダメな感じなときに、このレストランでゆったりとした時間を過ごすのである。
「それにしても、このニホンシュというのは本当に味わい深い。飲むほどに心が落ち着くような……」
「ガラム様!」
「ブフォッ!」
完全に気を緩めていたところに、いきなり後ろから声を掛けられたガラムは、思わずニホンシュを吹き出してしまった。
涙目になりつつ振り返ってみると、そこにはロイド家にいるはずのミライの姿があった。
「ミライか……お前、どうしてこんなところに? とうとうロイド家を追い出されたのか?」
「とうとうって何ですか! ロイド様お云いつけでガラム様にお手紙を持ってきたんですぅ! プンプン!」
そう言ってミライは、握りこぶしを可愛く振り回してガラムの肩を叩いた。
「ミ、ミライちゃんって、そんなキャラでしたっけん?」
ミライの隣に立っている真九郎が苦笑いを浮かべる。そんな真九郎にガラムが視線を向けながら、ミライに訊ねた。
「そちらのお嬢さんは?」
「あっ、こちら不破寺さんです。私の護衛でついて来ていただきました」
「お前に護衛? 何の冗談だ」
苦笑いを浮かべるガラムは、真九郎に手を差し伸べる。
「ガラムだ。フワデラさんは、もしかしてタカツと知り合いだったりするのか?」
「はい、護衛艦フワデラのタカツ艦長とは知り合いですよん。ちなみに、護衛艦フワデラも私の姓も、不破寺山っていう山の名前が由来ですん」
「そうなのか! それで、どのような用件で俺のところへ? フワデラは近くに来てるのか? ええっと、つまり護衛艦フワデラのことだが」
ガラムの目にキラキラと星がまたたき始めました。
「同じフワデラだとややこしいので、私のことは『真九郎』と呼んでくださいですん。フワデラは来ていませんが、姉妹艦のヴィルミアーシェが来ていますん」
「姉妹艦だと! あれと同じような船が他にもあるのか!?」
ガラムの激しい喰いつきに、思わず引いてしまう真九郎。
「ええ。その護衛艦ヴィミアーシェの平野艦長さんが、ガラムさんに会ってみたいと……。それでですねん。できればガラムさんを艦に招待させて……」
「行く! 行くぞ! 今すぐ行くぞ! 二人ともすぐに出発だ!」
真九郎に最後まで言わせることなく、ガラムは急に立ち上がると、ミライと真九郎を引き連れてレストランを飛び出していくのでした。
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