第191話 港町ミナスの激闘

 パブ「ディープワン」の魚面たちを制圧した後、桜井船務長は、パブの二階に上がっていった。


 バババッ! ババッ! ババッ!


 散発的な銃声が起こった後、二階から桜井の声が聞こえてきた。


「拘束中の民間人を保護! 今から降りる!」


 その後、ベッドのシーツを身に巻いた女性三人と共に桜井が階下へ降りて来た。


 1階のフロアに着いた三人は、床にしゃがみ込み、身を寄せ合って泣いている。


「境、サーヤと一緒に二階に行って三人の服を探してきてくれないか」

「了!」


 桜井船務長は、二人が二階に向うのを確認した後、シンイチに声を掛ける。


「シンイチ、三人を落ち着かせてやって欲しい」


「えっ!? 俺が?」


 シンイチの目が丸く開かれる。


「泣き喚く子供を一瞬で眠りにつかせる頭撫でスキルを、彼女たちに試してくれないか」


「わ、わかりました」


 そう言って、シンイチは三人の前に座り込んだ。


「皆さん、怖かったですね。でも、もう大丈夫ですよ。このとっても強い人たちが、皆さんを必ずお守りしますから」


 シンイチが、ひとりの女性にスッと手を伸ばすと、女性の表情に怯えが走る。


 だが――


 ナデ、ナデ、ナデ。


 スーッ。


 シンイチの頭三撫で目で、穏やかな表情で眠り込んでしまった。


 残り二人の女性の視線がシンイチに向けられる。


「皆さんの服を探している間、少し休んでてください」


 ナデ、ナデ、ナデ。


 スーッ。


 ナデ、ナデ、ナデ。


 スーッ。


 同じく三撫でだけで二人の女性も眠りに入っていった。


「幼女じゃないので、正直、自信はありませんでしたけど。なんとかなりました」


「さすがだな、シンイチ!」


 桜井に褒められて、シンイチがニッコリと笑った。


「では、ドット、シンイチ、ライラとトルネラは、ここに残って女性たちの保護を。境たちが戻ったら彼女たちに服を着せて、カウンターの後ろに隠れてくれ。シンイチ、着替えを覗くんじゃないぞ」


「覗きませんよ!」

 

「まぁ、ライラがいるから心配ないか。俺とフワーデは周囲の様子を見てくる」


 そう言って桜井は、フワーデ・ボディに、自分の後に付いてくるよう身振りで示した。


 外に出たフワーデが見たものが、そのまま私のVRフワーデゴーグルに映し出される。


 深い霧の中、パブ「ディープワン」の周囲には、魚面の魔物たちが数十体集まっていた。


 彼らは、桜井とフワーデの姿を認めると、一斉に耳障りな声で叫び始めた。


「ギョギョギョ! 贄が逃げるぞ!」

「贄が逃げる!」

「ギョギョギョ! 掴まえろ! 誰一人町から出すな!」

「ダゴン様の贄を逃すな!」

「いあ! いあ! ダゴン!」

「ギョギョ! ギョギョ! ダゴン!」


 彼らの声は徐々に大きくなり、


「いあ! いあ! ダゴン!」

「ギョギョ! ギョギョ! ダゴン!」


 いつしかこの二つの言葉の大合唱となった。


 カーン! カーン! カーン!


 どこかしらか鐘の音が響き始めてくる。


 カーン! カーン! カーン!


「いあ! いあ! ダゴン!」

「ギョギョ! ギョギョ! ダゴン!」


 カーン! カーン! カーン!


 街の先、霧の向こうに、突然、数多くの灯りが点った。


 霧のせいでハッキリとは確認できないが、多くの灯りの位置から、大きな建物がそこにあることが推測できた。


「いあ! いあ! ダゴン! こいつらを教会へ連れていけ!」

「全員縛り上げて、ダゴン教会へ連れていけ!」

 

 全員が同じ言葉を繰り返しながら、ゆっくりとパブ「ディープワン」の包囲を縮めていく。


「撃ち方始め!」


 バババッ! ババッ! ババッ!  


 桜井が掛け声と共に、正面にいる魚面に発砲する。


 バシュッ! バシュッ! バシュッ!


 いつの間にか二階に移動していたドットが、窓から魚面に狙いを付けて正確に頭部を吹き飛ばしていく。


 桜井の通信がインカムに入ってくる。


「艦長、我々はこのまま教会に向います。途中に船着き場があるので、そこで民間人の保護をお願いします!」


 桜井が指差す先に、うっすらと船着き場があるのが、ゴーグルを通して見えた。


「分かった! 小型艇を向わせる。10分で到着する」

 

 


~ ダゴン教会 ~


「フワーデェェ! パーーンチ!」


 教会への道すがら、どこからともなく次々と現れる魚面の魔物たちを、フワーデ・ボディがどこかのんびりしたスローパンチで吹き飛ばしていく。


 桜井船務長は、救出した女性を取り囲むような陣形を維持しつつ、ゆっくりと船着き場へと向って行く。


 四機のドローン・イタカが、桜井船務長たちの直ぐ頭上付近を飛んで、精密射撃で一体一体の魚面たちを撃ち抜いて行く。


 もう四機のドローンは先に船着き場に行って、海面近くを飛び、海から上がって来る魚面たちを警戒していた。


 バババッ! ババッ! ババッ!  


 バババッ! ババッ! ババッ!  

 

 だがいくら排除しても、魚面は次から次へと現れる。


 小型艇の方は、既に船着き場の場所を目視できるところまで近づいていた。


 私はインカムでそのことを桜井に伝える。


「桜井! もう直ぐ小型艇が到着する! 状況判断でお前たちも撤退しろ」


「了!」


 フワーデの視界を通じてみる現場の状況では、こちらに強力な火力を上回る、圧倒的な数の魚面が集ま理始めていた。


 船着き場に到着する頃になると、教会の異様な全容が見えて来た。


 それは教会というにはあまりにも……


 悍ましく、悪魔的で、そして……間抜けな外見だった。

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