第184話 ピンチの巨人と緑の血

 護衛艦フワデラが、CIWSファランクスの射程範囲に妖異を捉えた頃には、巨人はオコゼ顔の巨大な妖異ダゴリーヌに伸し掛かれて、完全にその動きを封じられていた。


 見た目がほぼ同じダゴンは、岩礁の上に身を乗り上げ、巨大な上半身を持ち上げて、巨大な腕で何度も巨人の頭を攻撃している。


 鋭い爪で攻撃を受けているにも関わらず、巨人の身体には傷一つついていないように見える。かなり頑丈な素材でできているようだ。

 

 だが身動き一つとれない状態では、いずれは妖異に倒されてしまうかもしれない。


「待ってて銀ちゃん! もうすぐ助けるから!」


 ホログラム・フワーデが、空中でじたばたと手足を動かして走っていた。


 護衛艦フワデラは、岬に向って全速力で進み続ける。


「石井! 射程内に入ったぞ!」


「レーダーで2体とも捕捉! いつでも撃てます!」

 

 ぐったりとして動かなくなった巨人から、ダゴンが急に興味を失ったように背を向けた。


 ダゴンが振り返った先には、黒く巨大な石碑が立っている。


 その石碑をダゴンはしばらくジッと見つめた後、急にスピードを上げて、石碑に向って突進していった。


 ドゴーンッ!


 勢いを付けたダゴンの頭が石碑に激突する。


 石碑は倒れこそしなかったものの、アレを何度も繰り返されたら、そのうち破壊されてしまうだろう。


 ダゴンの行動に気が付いた巨人が動こうとするが、相変わらずダゴリーヌに伸し掛かれたまま身動きが取れないようだった。


 だが――


 ダゴンが巨人から離れた!


「ダゴンを撃て!」

「目標ダゴン! ってぇぇぇ!」

「了!」


 桜井船務長の号令に、石井砲雷長が返事をする。艦橋にいる私からは見えないが、CICにいる石井の口元は今ニヤリと笑っているはずだ。から揚げ定食を賭けてもいい。


 ウィィィィン!


 護衛艦フワデラの艦橋下にある白い円筒が音を立てて、その照準をダゴンに合わせた。


 ブッー-----!


 次の瞬間、唸るような音がして、高性能20mm機関砲ファランクスが火を噴いた。


 火線が一直線にダゴンに向って伸びていき、ダゴンの身体を貫いた。


「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」


 ダゴンが巨大な身体をのけぞらせる。


 ダメージは大きいように見えるが、まだ致命傷には到っていないようで、ダゴンは海の中に逃れようとして、石碑から離れた。


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 だがダゴンがどこに移動しようとも、CIWSは正確にその動きに追随し、毎分1500発の発射速度で弾丸を叩き込んで行く。


「ぐおぉぉぉおおぉおおん!」

 

 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ダゴンの前腕が吹き飛んだとき、ダゴリーヌがようやく事態の深刻さに気が付いたらしく、ダゴンに向って咆哮を上げた。


 だが、巨人が拘束を逃れようと動きを再開したため、ダゴリーヌの注意は巨人に向う。


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ダゴンの身体が徐々に削れ始める。


 そして、そこに――


「フワーデ! ってぇぇぇえぇ!」


 私の声に、フワーデが満面の笑みで応える。


「わかったー! 銀ちゃん! お待たせ! フワーデちゃん、行きまーす!」


 十二機の飛行型戦闘ドローン・イタカが、ダゴリーヌの背後に迫っていた。


 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!

 ヴゥゥゥゥゥゥン! ヴゥゥゥゥゥゥン!  ヴゥゥゥゥゥゥン!


 ドローン・イタカが、射線に巨人が入らないようにダゴリーヌの側面に回り込む。


 そして、ドローンに搭載されている機銃が一斉に火を噴いた。


 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!

 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!


 巨大なオコゼの顔を歪め、ダゴリーヌは身体を巨人から放して岩礁の上に転がった。


 ババババババババ! ババババババババ! ババババババババ!


 露わになったダゴリーヌの白い腹部に、イタカの機銃が弾丸を叩き込んでいく。


一方で、CIWSも未だ大量の弾丸をダゴンに叩き込み続けている。


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 ブッー-----!


 巨人に目を移すと、ダゴリーヌの巨体からようやく解放されて、立ち上がろうとしていた。


「巨人に当たってはまずい。CIWSを止めろ」

「射撃止めぇぇ!」

「了!」


 ヴイイィィン……。


 CIWSが停止すると、全身各所と頭の半分が消し飛んだダゴンは、そのまま岩礁の上に倒れて、そのまま動かなくなった。


 緑色の血が海に流れ出ている。


 立ち上がった巨人が、ダゴンに向って走り出した。


 それに気が付いたダゴリーヌが、巨人に向って咆哮を上げる。


 だがイタカの激しい掃射を受け続けているため、ダゴリーヌは巨人を追うことができなかった。


 巨人がダゴンの遺骸に近づき、そして、通り過ぎた。


 どうやら巨人の目的は、ダゴンではなく黒い石碑だったようだ。


 何をするつもりなのかは分からないだが、ダゴリーヌからは百メートル以上の距離が開いた。


「巨人がダゴリーヌから離れた! 主砲で止めを」

「目標ダゴリーヌ! 主砲ってぇぇえ!」

「了!」

 

 ドォン!


 護衛艦フワデラの前方にある主砲から、重い響きと共に砲弾が発射された。


 ゴロン!


 巨大な薬莢が甲板の上に落ちる。


 ドォン!


 ドォン!


 ドォン!


 主砲が立て続けに火を吹く。


 その度に、目標位置に巨大な水柱が上がった。


 ドォン!


 ドォン!


 ドォン!


 水柱が落ちる前に、すぐに次の着弾が続き、また新しい水柱が上がる。


「ターゲットキル! 目標、完全に破壊しました」


 砲撃が終わったときには、ダゴリーヌの姿は見えず――


 海面には、肉片らしきものと緑色の血が広がっていた。


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