第183話 銀の巨人

 護衛艦フワデラは、徐々に妖異との距離を詰めていく。


 巨大な海の妖異は、オコゼのような魚の頭を半ば海上に出して、北西ぬ向って移動を続けていた。


 妖異の行く先がどうも気になる。妖異の位置を探るためにアクティブソナーを何度か打っている。妖異は、こちらの存在を把握できずとも、少なくとも何か異変を感じてはいるはずだ。


 だが妖異はひたすら北西方向へと進み続けている。


「航海長、あの妖異の向う先には何があるんだ?」


 田中航海長が、艦橋のモニタにドローン・イカロスが撮影した大陸の映像を出す。


「このままの進路で妖異が進み続けた場合、この辺りで上陸することになります」


 田中が手元のディスプレイを操作すると、妖異の到着予想地点が拡大表示される。画像は荒いものの、凡その地形を把握するには十分だ。


 映像からは、妖異の進む先に岬があるのが分かる。


 艦橋にある双眼鏡を覗いていたステファン副長が声を上げる。


「艦長! 妖異の進む先は恐らく岬のようです! 間違いありません! だって、あれは! あれは!」


「落ち着けステファン・ノルドリング! 落ち着いてちゃんと報告しろ!」


「失礼しました! 」


 ステファンは、双眼鏡に目を付けたまま、私に向って叫んだ。


「艦長! 妖異の進路上に、別の妖異と……岩トロル?」


 ステファンが唾を呑み込む音が聞こえた。


「別の大型妖異と巨人が戦っています!」


「何だってぇぇぇ!?」


 


~ 三つ巴の戦い ~


 フワーデが飛行型戦闘ドローン・イタカを先行させ、岬で行なわれている戦闘の映像を送ってきた。


 岬にある岩礁には巨大な黒い石碑が立てられており、その前で大型妖異と銀の巨人が戦っている様子が映っている。


 モニタ映像を見ていた桜井船務長が、妖異の姿を見て声を上げる。 


「大型妖異の方は、現在、我々が追っているものと同じタイプのようですね」


 モニタには、大型妖異と銀の巨人がガップリと組み合っていた。


「あの大型妖異だけなら、主砲で二匹とも始末できるんだがな」


 私の意見に頷いた桜井が、


「今の状況だと、あの巨人にまで被害が出る可能性が高いですね。それにしてもあれは何でしょうか。巨大ロボットだと言われれば納得してしまいそうなフォルムです」


 黒い石碑の前で大型妖異と戦っている銀色の巨人は、桜井の言う通り、SFロボットアニメに登場するような外観だった。


 見た目は、フルプレートアーマーのようにも見える。関節が剝き出しでジョイント部分が見えていればロボット認定できそうだが、関節部分は蛇腹で覆われており、鎧の下には巨人が入っている可能性を完全に消し去れない。


「いずれにせよ。巨人は妖異と戦っているんだ。暫定的に共闘関係に入っても良いだろう」


「ではどうしますか? このままだと、あの巨人は二体の妖異を相手にすることになってしまいます」


 突然、フワーデの叫ぶ声が響く。


「追い駆けてた妖異が潜っちゃった! 動きは水中の方が早いよ! あっ……」

  

「どうしたフワーデ!」


「ヤバいかも……間に合わない」

 

 モニタには、ちょうど巨人が大型妖異にタックルを仕掛けたところが映し出されていた。


 その様子を見ていた桜井船務長が、


「あの巨人、何か事情があるのかもしれませんが、どうにも戦い慣れていないようですね」


 船務長の言う通り、大型妖異に対する巨人の攻撃は、先ほどから単調な動作を繰り返しているだけだった。


 その動きの素人性。ますます、この銀の巨人に被害が出てしまうような攻撃を避ける必要が出て来た。


「あぁぁぁ! ヤバイ! 銀ちゃん後ろ! 後ろぉぉ!」


 銀色の巨人の背後の海が盛り上がったかと思うと、我々が追跡していた大型妖異が飛び出してきた。


 ドゴォォォン!


 妖異が背後から銀の巨人に伸し掛かると、巨人の身体が岩礁に叩きつけられる。


 バシャァァァアン!


 大量の水しぶきが上がり、ドローン映像が白い靄に包まれる。


 巨人は立ち上がろうと身体を起こしたところへ、先に巨人と戦っていた大型妖異が体当たりを仕掛ける。その衝撃によってで、銀の巨人は再び岩礁へと叩きつけられた。


「あぁぁぁ、やられちゃう! あの巨人やられちゃうよタカツ!」 


 この二体の大型妖異。先に巨人と戦っていた個体をダゴン、我々が追い駆けていた個体をダゴリーヌと呼称する。


 銀の巨人が立ち上がろうとすると、ダゴンかダゴリーヌのいずれかが背後からタックルを仕掛ける。その度に巨人は岩礁にその身体を叩きつけた。


 巨人は見た目には全く傷ついていなように見えるが、その動きはフラフラとし始めていた。


「タカツ! あの巨人助けなきゃ!」


 フワーデの意見には全く同意だ。だが、果たしてどうすれば。


 CICにいる石井砲雷長から通信が入った。護衛艦ヴィルミカーラに搭乗した山形砲雷長の代わりに、彼女が砲雷長の任に就いていた。


「艦長! 妖異の2キロメートルまで艦を寄せていただければ、ファランクスで妖異だけを仕留めてみせます! やらせてください!」


 ドローンからの映像では、巨人が妖異によって再び岩礁へ叩きつけられている様子が映し出されていた。

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