第165話 トゥカラーク大陸

 護衛艦フワデラと護衛艦ヴィルミアーシェは、毎日のように訓練を行っている。


 その成果には目覚ましいものがあり、現在では、完璧な戦術運動をフワーデのサポートなしに行うことができるようになっていた。


 また護衛艦ヴィルミアーシェ単艦による演習では、北方へは港湾都市ローエン、南方へはアシハブア王国の王都までの往復航海を行なっている。


 今でも妖異を対象とした女神クエストは発生しているが、その中でも海洋の妖異を狩猟するものについては、護衛艦ヴィルミアーシェが対応。もちろんクエストには必ず護衛艦フワデラも同行するが、基本的にはバックアップに徹している。


 本日、ヒトサンマルマル。


 護衛艦ヴィルミアーシェは、女神クエスト『深みに潜む者共を討伐せよ』を受注。彼らの巣食う岩礁に艦砲射撃を叩き込んで完全に破壊した。


 度重なる爆音によって気絶した半魚人が、プカプカと海上に浮き上がってきたところへ、上空で待ち構えていた飛行型戦闘ドローン・イタカが機銃掃射で仕留めて、半時もしないうちにクエストが完了。


 その間、指揮を執り続ける平野の様子を、私は護衛艦フワデラの戦闘指揮所から見守っていた。


「すっかり艦長が板についてきたな平野」


 モニタに映った平野が、少し上気した顔で敬礼を返してくる。


「ありがとうございます。ですが、まだまだ皆に助けられてばかりです」


 謙遜する平野の後ろから、山形砲雷長がひょこっと顔を出した。


「平野艦長は、よくやってますよ! いつでも沈着冷静で、的確な指示を出してくれますからね!」


 山形の言葉に、平野は恥ずかしそうに頬を染める。こんなわかりやすく照れている平野は超レアだ。


 私がニヤニヤしていることに気が付いた平野は、コホンッと咳払いをしてから、いつものクールな顔を整える。


「そ、それで艦長……高津艦長は、ヴィルミカーラを副官にされたのでしょうか?」


 これまで艦内で私を抱っこしていた平野の代わりに、今ではヴィルミカーラに抱っこしてもらっている


 何故ヴィルミカーラになったかについては、なんとなくとしか言いようがない。


 もしも、キチンと希望を聞かれたならば、不破寺さんとか、ヴィルミアーシェさんとか、ラミア族の誰かとか、おっぱいサイズで選ぶと思う。


 ヴィルミカーラは、何だかんだで一緒に過ごす時間が長かったからかもしれない。


 ロリショタという彼女の性癖も、今では軽く回避できるし、お互い適度な距離感を掴めているので、気を遣うこともない。


「わ、わたしはふ、副官じゃなくてひ、秘書、秘書なの。び、美人秘書」


 ヴィルミカーラが、勝手に自分の肩書きを決めて名乗る。


 それにしても、自分のことを美人秘書と抜かすとは……確かにその通りではあるが。


 おそらくツッコミを期待しているのであろう、ヴィルミカーラのボケをスルーした。


 大事な話があるのでな。


「護衛艦ヴィルミアーシェの操艦も安定してきた。そろそろ別大陸への航海に向けての準備を始めようと思う」


 平野が、私の発言に驚いて目を見開く。


「古大陸へ向われるのですか?」

 

「先にトゥカラーク大陸に向うつもりだ。古大陸の位置は既に判明しているからな」


「そのトゥカラーク大陸の場所は分かっているのでしょうか」


 もちろんわかっていない。


 天上界には、悪魔勇者討伐報酬のひとつとして、海図を寄越せと要求してみたのだが、無理だった。


 その理由について長々とした電文で届いたのだが、その説明をフワーデがするので、ほとんど要領を得なかった。


 それでも頑張って推測すると、どうやら今のこの時代に存在しないものは提供できないということのようだ。


 一応、天上界の方でも地図を探してくれたらしい。


 四億年前に、宇宙から飛来したウミユリ状の生命体が作成した世界地図が、南極の地下深くに保管されているという情報については教えてくれた。


 その世界地図についてフワーデの図鑑で確認してみると、


『現在の大陸とは、大きさも形も数さえも違いますが、この地図でよろしかったでしょうか?』


 と書かれていた。


 よろしいわけねぇぇぇ!


 このあまりにも適当な天上界の情報に、私は頭を抱えざる得なかった。そんな幼女のほっぺたを、ヴィルミカーラがチョンチョンと突いてくる。


「か、艦長はせ、世界のち、地図が欲しいの?」


「そうだが、ヴィルミカーラは世界地図に心当たりがあるのか?」


「か、かつてわ、私がぼ、冒険者だったこ、頃……、わ、わたしはけ、剣士とし、してそ、それなりにか、大活躍し、してたそ、そうあ、あれは大陸のほ、北限……」


「とりあえず要点だけ話してくれ」


 私が途中で話を折ったことで、ヴィルミカーラが不満そうな顔を見せる。だが私が超プリティな幼女スマイルを向けると、きちんと要点を絞って語ってくれた。


 それは彼女が冒険者だった頃に耳にした、あるアーティファクトについての噂話。


 古代王国の予言者マヤドゥが、銀の女神に導かれて月の世界に運ばれた際、月から見た世界の形を石に刻んだという伝説だ。


「そんなものがあるのか……」


 ヴィルミカーラの話を聞いて、一瞬は期待を抱いたものの、すぐに冷静になる。


「しかし、そんな貴重なものを手に入れることなんてできるのか?」


 そもそもどこにあるのだろうか? 大陸中を探し回るなんてことになるのなら、諦めるしかない。


「げ、現地のお、お土産店でう、売ってる」


  そうキタかー!

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