第156話 帰還できない!?

 報酬のEONポイントが3000億!


 そのあまりにも巨大な額に、護衛艦フワデラのCICはレッツパーリー!状態だった。


 平野副長がボソッとある疑問を口にするまでは。


「あの……それで私たちは帝国へ帰れるのでしょうか?」

「「「!?」」」※平野副長を除く全員


 私を含めたCIC内の全員がフリーズした。


 一瞬の後、全員が思い思いのことを口に出し始める。


「そ、そうだよ! 肝心なことはそこだよ!」

「艦長、俺たち帰還できるんですか?」

「EONポイントって帝国でも使えるのかな」

「そもそも帝国に持ってくことできんの?」

「もしかしたらもう帝国にいるかもしんない!」

「GPSとのリンクは?」

「もうアマコアの新作出てるかなぁ」


 私はフワーデの前に立ち、彼女に帰還について天上界に問い合わせるよう指示を出す。


「とにかく天上界から返事が来るまで、全力でメッセージを送り続けろ!」

「わかったー!」


 そう言ってフワーデが目を閉じた途端、


「返事キタ!」


「早いな! それで私たちは帰還できるのか?」


「んっとね。天上界でも私たちの急な成果にてんてこ舞いしてるって!」


「いつもてんてこ舞いしてんな、天上界!」


「それでね。多分、帰還できるみたいなんだけど、とりあえず正式な回答は三日後になるみたい」


「三日か……」


 それくらいなら待てなくはない……とも思うが、焦燥感は拭えない。


「とりあえず、そのお詫びということで、神ネット業務スーパー全商品50%オフ券をもらったよ!」


「3000億ポイントあるし……。今、そんなの貰ってもなぁ。」


「それとね! フワデラ全乗員のスキルを3~5レベルアップしてくれたよ!」


 そんなことする暇があるなら、さっさと私たちを帝国へ返して欲しいんだが。


 と思ったが、口に出して天上界に伝わるのもマズイと思った私はお口をチャックしてしのいだ。


「まぁ……わかった。三日待つとしよう」




~ 演説 ~


 悪魔勇者を倒した翌日。


 私は護衛艦フワデラ、リーコス村とグレイベア村、各地に散らばっている乗員や白狼族に向けて、悪魔勇者の討伐が成功したことを伝えることにした。


 リーコス村の海岸にある桟橋に会場を設け、護衛艦フワデラの雄姿を後ろに演説が行われた。


「諸君の多くが既に知っていることと思うが、昨日、護衛艦フワデラから発射された30発のミサイルによって悪魔勇者は灰燼に帰した」


 ここで私が言葉を区切ると、会場から一斉に大歓声が沸き上がった。おそらく遠隔から端末を通してみている者たちも、同じように盛り上がっているはずだ。


「本当ならここで盛大な祝杯を挙げたいところではあるが。悪魔勇者の消滅によって、統制を失った妖異軍に対応しなければ、必要のない犠牲が出てしまう。今だ油断できる時ではない。厳に気を引き締め、引き続き任務に励んでもらいたい。我々が本当に祝杯を挙げるのは、帝国に帰還したその時だ」


 勝利に酔って油断したあげく、敗走する妖異軍によって犠牲者が出るなんてのはなんとしても避けたい。私は、遠方からリーコス村へ帰還する者たちに対して、気を引き締めるように再度訴えておいた。


「帝国への帰還について、天上界から正式な通達が降りるのは、まだ数日先のことらしい。ただ報酬については既に受領済みだ!」


 報酬の具体額についてはまだまだ上昇中ということもあり、この場で公開することはしなかった。


 だが報酬が莫大な額となっていることは伝えている。


「大事なことは……」


 私が言葉を切ると、全員が静まり返った。


「これより帝国への帰還が果たされるまで、誰一人として欠けることがないよう全力で務めて欲しい。特に遠方から戻る者たちは、一切の遠慮なく兵装や弾薬を申請してくれ。今なら米帝プレイも許可する」


 最後の「米帝プレイ」の一言は、会場でのウケを狙った発言だった。


 きっと大爆笑と歓声が沸き起こるに違いない! 


 そう信じていた私は、会場から返ってくる反応を待ち構えていた。


「……」※沈黙


「……」※沈黙


「……」※沈黙


 笑いどころか、誰一人として声を上げるものはいなかった。 


「……」※沈黙


「……」※沈黙


「……」※沈黙


 おいおい!

 

 もし私の渾身のネタが滑ったのだとしても、愛想笑いくらいするのが社会人というものだろう!?


 というか、たとえ面白くなくても、上官のギャクには顔を引きつらせてでも笑い返すのが帝国軍人だろぉ!?


「……」※沈黙


「……」※沈黙

 

「……」※沈黙


 あれ?


 皆の視線が私に向けられていない?


「艦長……」

 

 平野副長が私の肩をトントンと叩いた。


「どうした平野……」


 後ろを振り向こうとした私は、途中でその動きを止めた。


 止まってしまった。


 振り向きかけた私の視界には青い空と海、そして護衛艦フワデラの雄姿が入ってくるはずだった。


 それだけが目に映るものだと私の脳が予測していた。


 ので、


 あり得ないそれが目に入った私の脳がフリーズしてしまった。


 それは縦に長い黒い筋だった。


 破れてしまった写真を適当につなぎ合わせてしまったことで、隙間が残ってしまったかのような。

 

 そのような裂け目が青い空に出来ていた。

 

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!


「おわっ!? なんだ!?」


 スマホの振動によって我に返った私は、そこに表示されているメッセージを見て、目が釘付けになってしまった。


 『天上界より緊急メッセージ』


 その表題の下に本分が続く、


 『次元創傷の発生により、すべての異世界転移は当分の間通行止めとなります。迂廻路も利用することができません。詳細については天上界の公式サイトをご覧ください』


 メッセージの内容を理解するまでに30秒くらい掛かってしまった。


 理解した途端、頭がくらくらし始めた。


「か、艦長!? 艦長!?」


 焦って叫んでいる平野副長の声が遠くから聞こえる。


 私は、世界がぐるぐる廻るような激しい眩暈に襲われ、


 生まれて初めて気を失った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る