第154話 悪魔勇者の最後……の後
ヘルメスのカメラに悪魔勇者が映った瞬間から、タクティカルトマホークの発射シーケンスが開始していた。
これは悪魔勇者討伐作戦において決められていた単なる手順だ。
とはいえ、まさか今のタイミングで実施されることになるとは、誰一人考えてはいなかっただろう。
もちろん私もだ。
悪魔勇者との会話が始まった直後、山形砲雷長は両手を広げて10発のタクティカルトマホーク発射を提案してきたが、私はそれを退けた。二度目の提案も首を横に振った。
山形が手の開閉を三度行ったとき私が首肯したことで、発射するタクティカルトマホークの数が確定した。
それ以降の悪魔勇者との会話はずっと緊張の連続だった。
最初の難所は、ミサイルを誘導するためにヘルメスが光と音を発し始めたときだ。これを不快に感じた悪魔勇者に対し私は、
「このドローンで音声を出すのは、戦闘時の警報や警告といった場合に限られる。点滅と音は注意を集めるためなので仕方がない」
と咄嗟の言い訳をした。
これをすんなりと悪魔勇者が聞き入れてくれたのは、ただただ運が良かったとしか言いようがない。
ミサイルが弾着する最後の瞬間まで、私たちは悪魔勇者の注意を対話に向けせる必要があった。
悪魔勇者がどのような力やスキルを持っているのかについては分かっていない。悪魔勇者が私との会話に飽きたり、あるいは危険を感じたりして、瞬間転移されてしまうなんてこともあり得ない話ではない。
一応はシンイチの幼女化スキルによって悪魔勇者の力は封じられ、今はただの幼女となってはいるはずだが、それでも油断することはできなかった。
ウドゥンキラーナからは、悪魔勇者は大型の妖異や魔物、さらにはドラゴンまでも伴っていたとの報告があった。
ドラゴンといえば、私はグレイベア村のルカの火竜としての本来の姿を見たことがある。
ルカと同種のドラゴンが悪魔勇者の近くにいるのだとすれば、危急の時には悪魔勇者をつかんで遠くに飛び去ることも可能だろう。
タクティカルトマホークは、ルートリア連邦に配置されていた多数のヘルメスによる誘導、フワーデによる制御、そして山形砲雷長の補正によって正確に悪魔勇者の頭上に弾着した。
私自身、悪魔勇者が空を見上げた直後に、ヘルメスから送られてくる映像が暗転するのをこの目で確認している。
だがそれでも、弾着とターゲットキルの報告が上がってきてもなお、私は一抹の不安を持っていた。
空を見上げた悪魔勇者は何かを叫んでいた。
それは転移の呪文だったのではないか?
悪魔勇者はミサイル攻撃を潜り抜けて、今は大陸のどこかに逃げ延びているのではないか。
そんな私の不安がCICに広がったのであろう。
山形砲雷長とフワーデは弾着を告げた後、私の様子をみて黙り込んでしまった。
同じく橋本船務長や他の面々も静まり返っていた。
シンイチとライラの顔は青ざめたままだった。
この不安に満ちた重苦しい空気を打ち破ったのは、ホログラムのフワーデだ。
まず目を瞑って沈黙を守っていたフワーデの体がうっすらと光を放ち始めた。
フワーデは人差し指を頭に当てて、うんうんと頷くことを繰り返す。
その後、フワーデは私の目の前に漂ってきて、
身体をギュッと丸めて縮こまり、
「悪魔勇者の討伐成功! おめでとー!」
という叫び声と同時に身体を大の字に開いた。
「女神クエストや天上界からのメッセージが一杯来てるよ! 全部を読み上げてられないからモニタに流すね!」
CICの全てのモニタに一斉にメッセージが流れるように次々と表示されていく。
音声も流れてはいるが、多過ぎてもはや聞き取ることはできない。
≫ 〇 悪魔勇者を探せ(再)!を達成しました。報酬:EON10憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者を倒せ!を達成しました。報酬:EON1200億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属 星の愚者を探せ!を達成しました。報酬:EON3憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属 星の愚者を倒せ!を達成しました。報酬:EON300億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属 白痴の王を探せ!を達成しました。報酬:EON3憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属 白痴の王を倒せ!を達成しました。報酬:EON300億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属イゴーロナックルを探せ!を達成しました。 報酬:EON1憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属イゴーロナックルを倒せ!を達成しました。 報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属イタカを探せ!を達成しました。報酬:EON1憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属イタカを倒せ!を達成しました。報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属クトゥーニアンを探せ!を達成しました。報酬:EON1憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属クトゥーニアンを倒せ!を達成しました。報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属ガルラを探せ!を達成しました。報酬:EON1憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属ガルラを倒せ!を達成しました。報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属ラルガを探せ!を達成しました。報酬:EON1憶ポイント
≫ 〇 悪魔勇者眷属ラルガを倒せ!を達成しました。報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 妖異合体竜 イルファフニルを探せ!を達成しました。報酬:EON1億ポイント
≫ 〇 妖異合体竜 イルファフニルを倒せ!を達成しました。報酬:EON100億ポイント
≫ 〇 妖異 黒の仔山羊討伐を12体達成しました。報酬:EON12億ポイント
≫ 〇 妖異 ショゴタン討伐を32体達成しました。報酬:EON3億2000万ポイント
≫ 〇 妖異 蛆人討伐を115体達成しました。報酬:EON1億1500万ポイント
メッセージは報酬額が多い順に表示されて行くが、報酬額が少なくなるに従ってメッセージの数はどんどん増える。
五分も過ぎる頃になると勢いは衰えたものの、それでもメッセージが止まることなく次々と表示されていく。
「えっとね。悪魔勇者と一緒にゴイスこわい眷属も死んじゃったから、あちこちで妖異軍がてんてこ舞いしてるよ!」
フワーデがCICのモニタ表示を、現在各地の戦場にいるドローン映像に切り替える。
モニタに映された妖異軍は混乱の極みにあった。魔族は戦場を逃げ出し、妖異が敵味方問わず生きている者たちを襲い始めていた。
カメラの向こうで妖異軍が次々と撃ち破られていく様子を見ても、悪魔勇者を倒して我々が勝利したことを実感することはできなかった。
それが確信できたのは――
「艦長ぉぉぉ!」
突然、CICに前川主計科長が飛び込んできて絶叫する。
「EONポイントが3000億も入ってきました! しかもまだどんどん増えてます! これって天上界の振り込みミスですよね? どどどど、どうしましょう!」
全員の視線が前川主計科長に集まる。
「「「「3000億?」」」」
私を含め全員がポカンと口を開けて前川主計科長を見つめていた。
その3秒後……
「「「「3000億ポイントぉぉぉ!?」」」」
全員が驚きの声を上げた。
私たちは巨額のEONポイントによって、初めて悪魔勇者を倒したこと実感したのであった。
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