悪魔勇者討伐作戦
第142話 特殊忍者分隊 双月光
悪魔勇者討伐作戦は大きく分けて二つの作戦行動で構成されている。ひとつは、妖異軍が全力で探している賢者の石をチラつかせて、グレイベア村に妖異軍の注意を惹きつけること。
これは賢者の石を持つドラゴンジャーのリーダーが派手な活躍をすることで、うまくすれば悪魔勇者をおびき出すことができるかもしれない。そこまでいかずとも、悪魔勇者の所在を掴むことができれば大成功である。
もう一つは、悪魔勇者率いる妖異軍、主に神話級の存在との決戦に備えることである。リーコス村の要塞化やEONポイントを使った武器弾薬・兵装の量産(複製)はその一端だ。
とりわけフワーデネット通信圏の拡大には最も力を注いでいる。衛星とのリンクが行なえない異世界で、護衛艦フワデラの能力を発揮させるためには、どうしても広域に渡る通信網の確立が必須なのだ。
航空整備科に豊潤なEONポイント予算を割り当ててきた結果、彼らは次々と新型ドローンの開発を行ってくれている。
注目すべきは、太陽電池によって、高高度を半永久的に飛行可能な通信ドローン・イカロスの飛行実験だ。これまで何度も失敗を重ねて機体を喪失していたが、現在の実験機は二カ月間の飛行を続けており、記録を更新中である。
これが量産化できるようになれば、疑似的な通信衛星の役割を担わせることができるようになる。海上通信ブイやヘルメスとの連携が取れるようになれば、ほぼこの惑星をカバーすることができるようになるはずだ。
とはいえ、そこに至るまでにはまだまだ多くの時間とEONポイントが必要である。現在の主力は各地に配置されている通信ドローン・ヘルメスだ。
ここで問題になってくるのがメンテナンスである。
故障等のトラブルが発生した場合、アシハブア王国内に配置されているヘルメスであれば、イタカの編隊で回収することが可能だ。また状況によっては人類軍に回収を要請することもできなくはない。
だが通信環境が整っていない辺境となれば話は別だ。
回収に向ったドローンの通信が途絶え、そのまま喪失なんて笑い話にもならない。
「そこで、君たち精鋭部隊に辺境の地にある通信ドローンのメンテナンス、若しくは回収か破壊を行なってもらいたい」
私は目の前に並ぶ精鋭部隊員たちに声を掛けた。
~ 士官室 ~
私はこれから辺境でドローンの保守に当たる精鋭たちひとり一人に声を掛ける。
「坂上春香大尉! 大尉をこの分隊におけるリーダーとする!」
「ハッ!」
「南義春大尉! 大尉は副官とする。全力で妻を守れ!」
「了!」
「井上貴子少尉! 少尉にはアラクネを任せる」
「了!」
「最近、不誠実な男のクズどもに翻弄されていたようだが、そのうっぷんを妖異軍にぶつけてやれ!」
「鉛の塊を山ほど叩き込んでやります!」
「お、おう……だが
「心得ております!」
井上少尉の目が血走っているのがちょっと不安だったが、彼女なら問題はあるまい。たぶん。きっと。
「ヴィルフォアッシュ! ヴィルミカーラ! ヴィルフォローラン! 白狼族の君たちの卓越した戦闘能力とこの世界における知見に期待する」
「「「了!」」」
「これより諸君を特殊忍者分隊 双月光と呼称する!」
「「「了!」」」
「必ず誰一人欠けることなく生きて戻れ!」
「「「了!」」」
こうして特殊忍者分隊 双月光は、この日から二週間の特殊訓練を経て、アシハブア王国外の通信環境構築に尽力することになる。
どうして特殊忍者分隊なんて呼称にしたのか? それは南春香大尉のお家が忍者の家系だったからである。前に一度、家系図を見せて貰ったことがあるがマジだった。
うちなんてずっとお百姓さんか町民かあたりで、明治のときに爆売れしたという贋の家系図があるだけだから、正直うらやましいわ。
~ アシハブア王国西 国境付近 ~
私は特殊忍者分隊 双月光の訓練期間中に、アシハブア王国最西端にある高地にヘリの発着場を備えた基地を急造した。
これは王国西方に広大な領地を有するドルネア公の協力を得てのことだ。
双月基地と名付けられたこの場所には、SH-60L哨戒ヘリを1機常駐させている。
双月光はこのヘリを使って作戦行動を行うことになる。
他にも73式小型トラックが4台、小型ショベルドーザに各種ドローンが配置されている。
私と共に視察に来ているドルネア公が着々と進む作業の様子を見て感嘆の声を上げた。
「これはまるで、リーコス村の一部がここに現れたかのようだな。我が領土内でリーコス村のような堅牢な要塞を得ることができようとは」
妖異軍との戦争に勝利した暁には、この双月基地はそのままドルネア公に引き渡す約束となっている。今では人類軍の勝利を確信しているドルネア公は、もう既にこの基地を手に入れたかのように感じているのだろう。
ニヤニヤ顔だ。
「この基地をドルネア公に完全な状態で引き渡すためにも、双月光が無事作戦行動を完遂する必要があるのです。ご協力のほどお願いしますよ?」
ドルネア公は一瞬顔をしかめた後、「わかっておる」と答えた。
言葉に込めた『余計な事して邪魔すんじゃねーぞ』というニュアンスが通じたのだろう、さすが外交官だ。
「と、ところでタカツ艦長……」
急にドルネア公がキョドリ始めた。
「なんでしょうか?」
私の問いかけに対し、ドルネア公は胸の前で両手の指をモジモジさせながら、上目遣いでこちらを見てくる。
「最近、リーコス村にマーカス子爵の店が出来たそうじゃないか」
「ええ、出来ましたね」
ピコーン! とこの時点で私は一切を理解した。私はこのおっさんが次に言うことを予想したが、まさにその言葉通りのことを口にした。
「ここにマーカス子爵は店を出したりしないのかね?」
「はぁ……この基地内に食堂はありますし、ひとつで十分だと思いますがね」
「そ、そうであろうなぁ……ハァ……」
ドルネア公の身体が一回りも二回りも小さくなるくらいに落ち込んでしまった。まぁ、年寄にあまり意地悪するのもよくないな。この辺で元気になってもらうか。
「分かりました。マーカス子爵の店は出せませんが、この基地の食堂にはラミアを二名配属させましょう。その代わり、食材の補充については公の方でお願いしますが、よろしいですか?」
老人の顔がパァァァァァッと音が響くぐらいの勢いで輝き出した。
「おぉ! 食材ならいくらでも提供しよう! なんなら食堂の内装も私の方で費用を持つ。豪華な家具や食器も提供するぞ! 王国随一豪華な食堂に仕立てようではないか!」
こうして――
アシハブア王国の辺境にある双月基地は、食堂だけが王宮殿のような豪華な仕立てになった。
そして基地が創設されて以降、ドルネア公は頻繁に双月基地の視察に訪れるようになる。
この視察は妖異軍との戦火が激しい時も続いたことから、人々は常に最前線に立とうとする公の勇気に心を打たれ、ドルネア公のことを勇猛公と呼ぶようになる。
だが艦長は真実を知っている。
ドルネア勇猛公?
ただラミアのメイドたちにチヤホヤされたかっただけじゃねーか!
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