第123話 幼女ライダー1号見参!

 護衛艦フワデラの格納庫では、ひとりの幼女と顔を覆面で覆った三人の乗組員クルーが顔を突き合わせていた。


 まぁ、私なんだけど。


 三人の覆面たちの前には、黒い布が掛けられた私の腰ほどの高さのモノが置かれていた。


「これが例のブツか?」


 私の問いかけに、三人はコクコクと頷く。


 バッ!


 覆面男のひとりが黒い布を取り去ると、そこにはピッカピカに黒光りするお子様用オフロード電動バイクが置かれていた。

 

「おおぉ! 超カッケー! 前より断然カッコ良くなってるじゃないか!」


 早速、私は黒光りの電動バイクに跨ってスイッチをオンにする。


 ウィーーンとモーター音して、ボディにただカッコよくするためだけにつけられたLEDテープライトが赤紫の光を放つ。


「ご要望いただいた仕様は全て盛り込んでいます!」


 覆面女子がドヤ声で言い放った。


「そのようだな! 約束通り、お前たちには三泊四日グレイベア温泉旅行とレストラン・アーシェのGotoお食事チケット三万Eonポイントをプレゼントする」


「「「やった!」」」


 大はしゃぎで喜ぶ覆面たちを後にして、私は電動バイクを後甲板に向って走らせた。


 ウィィィン!


 なかなか良い走り心地だ。というかめっちゃ楽しい!


 ウィィィン!


 元々、このようなお子様用電動バイクが本艦に積まれていたわけではない。


 神ネット業務スーパー・ビッグマートでも取り扱っていない。


 シンイチに頼んでAmazonoから購入したものでもない。


 このバイクは、ドローン等の各種兵装からパーツを取って、航空機整備の連中が組み上げたものなのだ。


 最初、幼女の身体では大人連中の移動に合わせるのがとても大変だと言う理由で、電動キックボードを作ってもらった。


 だが、乗り始めて1日も経たないうちに、頭からすっころんで血の噴水を散布する事態に陥ってしまったため、このキックボードは平野副長によって固く封印されてしまった。


 この失敗を踏まえて弐号機は電動バイクにしてもらった。これは古大陸に行った際の移動にとても役に立っている。


 大人の足に合わせて山道を何キロも進むなんて、電動バイクがなければ不可能だったろう。まぁ、電動バイクがなかったらなかったで、おんぶしてもらうだけなんだけど。


 そして弐号機を乗り回しているうちに、私の中にメラメラと湧き上がって来た要求をすべてクリアしたのが、この参号機なのだ!


 この参号機が誕生するまでに、かなりのドローンや車両がパーツ取りのために解体されており、その開発費は軽く目が飛び出るほどの額になっている。


 が、そこはFuwaTubeの投げ銭で何とかカバーすることができそうだ。


 私は、私が出演する番組において、私に対する投げ銭分については、私のお小遣いとする契約を結んでいた。


 幼女戦隊ドラゴンジャーや美少女戦隊フワーデ・フォーの出撃時、ロリショタ疑惑濃厚なヴィルミカーラが私に向けるカメラに対して、


『今日もかんちょう、いっぱい頑張ったよー! みんな応援よろぴこー! 画面右上の投げ銭ボタンを今すぐ押してね!』


 ピッ! 決め顔横ピース!


 とかするだけで、天上界や艦内や村の紳士たちがガンガン投げ銭してくれた。


 ガッポガッポ儲かる投げ銭のEONポイントは、一週間で私の年収を軽く超えるときもあった。


 世の中チョロいな! なめプなめたプレイ上等!


「それだけ稼いでおいて、汗水流してバイクを開発した者たちの報酬がたった三万ポイントですか……」


「うひっ!?」


 インカムから平野副長の極寒ボイスが響く。


「い、いや……温泉旅行もプレゼントした……よ?」


「ルカ村長に確認しましたが、その費用って一人当たり四万ポイントですよね」


「んっ、んーっ? そうだったかな? そうだったかも」


 私は電動バイクを止めて艦橋の方向を見る。後甲板からは見えないが、私は平野副長の絶対零度の視線が確実に向けられているのを感じとっていた。


「うちの艦長が、まさか自分のためだけに貴重な資材や人員を使うようなことはないと信じていますが……」


「えっ? ま、まぁ……電動バイクは自分用だけど、ほら、艦長、幼女だし? 移動に必要だし、必要経費っていうか、福利厚生っていうか……」


「ほぅ」

 

 平野副長の目が細くなったのが、ここからでも見えるようだ。もしかして彼女のスキル【見下し好感度UP!】は遠隔でも発動可能なのだろうか。


「うちには幼女のライラさんと竜子、あと年長組ですがフワーデがいますが、彼女たちに電動バイクは必要ないと」


「えっ?」


 平野の顔が眼前に迫るような圧迫感に襲われ、私の足がガクガクと震え始めた。


「必要ないと?」


「……必要……です」


 平野の強烈な圧に押され、結局、私は電動バイク3台を追加することになった。ちなみに費用は全て私持ちだ。


 追加のバッテリーや予備パーツ、カッコイイお子様ヘルメットやケガ防止のプロテクター諸々揃えると、艦長のお小遣いがほとんどすっ飛んでしまった。

 


――――――

―――



 リーコス村の遥か北方にある草原。


 多数の妖異兵を引き連れた山羊頭の怪人が、アシハブア王国領内に侵入しようとしているところを、偵察ドローンが発見。


 直ちにフワーデ・フォーがヘリで現地に急行した。


 ウィィィィン!

 ウィィィィン!

 ウィィィィン!


 ヘリから三台の電動バイクが次々と飛び出して、妖異たちの前で八の字走行を繰り返す。


 その様子を見た山羊頭が悪役っぽい所作をしながら、悪役っぽいセリフを口にする。

 

「ギギギッ! 貴様らがセイジュウ神聖帝国に歯向かう賊軍共か!」

「「「キキーッ!」」」


 ウィィィィン!

 ウィィィィン!

 ウィィィィン!


 私たちは八の字走行を繰り返しながら、それぞれ名乗りを上げた。 


「我ら正義のフワーデ・フォー! 幼女ライダー1号見参!」(と艦長)

「幼女ライダー2号参上!」(と竜子)

「そしてワタシが美少女ライダー、フワーデよ!」


 グルグル暴走する幼女ライダーたちによる土煙によって、妖異軍たちの視界が塞がれる。


「このクソガキ共が! うっとおしい! 全員やってしまえ!」


 山羊頭の怪人が突撃命令を出すと、全身タイツ姿の妖異兵たちが私たちに向って突進してきた。いや、もしかしたらタイツ姿なのではなくて、あれが皮膚なのかもしれない。


「キキッー!」


 ドンッ!


 突進してきた妖異兵に向って、土煙の中からひとつの影が飛び出してきた。


 次の瞬間、妖異兵の首が地面へ転がる。


「不破寺真九郎……推して参りますん!」


 太刀の血振るいをしながら鬼の少女が、山羊頭の怪人に視線を向ける。


「なっ!? 鬼人だと!? もしやこいつが例の魔王か?」

「「「ギギギィ!?」」」


 一人で岩トロルをも倒すと云われている鬼人の恐ろしさは、妖異軍にも知れ渡っているようで、不破寺さんを見たほとんどの妖異はこの山羊頭と同じような反応になる。


 じりじりと山羊頭ににじり寄る不破寺さんに妖異軍たちに動揺が走る。


 パシュ! パシュ! ドシュ!


 私と竜子とフワーデは、既に電動バイクから降りてタイツの妖異兵たちに鉛の弾を撃ちこんでいく。


 ストックを付けた改造9mm自動拳銃の私と竜子、そしてフワーデの62式7.62mm機関銃が妖異を確実に仕留めて行った。


「なっ……」


 なんだこれは? とでも言うつもりだった山羊頭は、最後まで言い終わることなく、不破寺さんの居合抜刀鬼人斬りによってその首を落とされていた。


 そして妖異軍はあっという間に壊滅した。


 こうして、


 幼女ライダーたちの活躍により、今日もリーコス村とアシハブア王国の平和は保たれたのである。


――――――

―――


 この様子がフワーデ・チャンネルで配信されると、バイクで八の字走行を繰り返すのは暴走族っぽいからやめて派と、幼女暴走族カワイイからいいだろ派による大論争がコメント欄で繰り広げられたという。


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