第114話 幼女化訓練
護衛艦フワデラの後甲板では、シンイチと彼に協力している乗組員たちが今日も厳しい訓練に励んでいた。
「幼女化光輪!」
シンイチが何か奇妙なポーズを決めると、掲げた右手の上に光の輪が現れる。
「デュワッ!」
掛け声と共にシンイチの右手が振り下す。光の輪は、フワデラ最後部でフェイント動作を続けている乗組員たち一人一人を縫うように貫いていき、全員が一瞬で幼女と化した。
「お見事!」
既に幼女になっていた青峰上等兵曹がシンイチに声を掛ける。
「整列!」
青峰幼女が声を上げるとシンイチと20人の幼女が綺麗に整列した。
「本日の訓練は以上! 幼女化は……」
青峰幼女がチラッとシンイチに目を向けると、彼は青峰に幼女化継続時間を告げた。
「幼女化が解除となるヒトロクマルマルまで自由時間とする!」
「「「了!」」」
20名の幼女が両手を高く掲げながら、ワーイッ!と叫びつつ散り散りに去っていった。
私はシンイチに近づいて声を掛ける。
「訓練の調子はどうだ?」
「あっ、艦長! すごくいい感じです。皆さん、色々なメニューを考えてくださって、ほんと勉強になります」
「それはよかった。シンイチに負担を掛けて済まないが、そのスキルでないと乗り越えられない局面は多そうだからな。悪魔勇者を倒すまでは付き合ってくれ」
「もちろんです。そのために俺はここにいるんですよ」
【幼女化】スキルなんて、一見するとギャグなのかと思わざるえないスキルだ。だが、実際はチートスキルであり、このスキルを使ってシンイチは数十万の兵士が群がる戦場を全て幼女化したことがある。
その戦場には悪魔勇者もいた。天上の神々さえ警戒するやっかいな敵を幼女化し、あと一歩で仕留めるところまで迫ったのが、このシンイチという少年だ。
「ライラと一緒に皆さんを帝国にお返しするのが、俺が何としても成し遂げなきゃいけないことなんです」
シンイチはライラを妻として迎えており、彼女のことを誰よりも大事に思っている。そのライラは、悪魔勇者によって一度は命を失いかけたものの、右目の義眼として使っていた賢者の石の力と、シンイチの幼女化によって死を免れている。
今、ライラの幼女化を解いてしまった場合、彼女は死んでしまうかもしれない状態らしい。
そんな彼女の命を救うためには、彼女帝国に転移させて、そこで数年過ごした後、こちらへ戻ってくるという荒業が必要らしかった。
「帝国に戻ったら、ライラの面倒は私の方で見るよ。ライラならうちの嫁も娘もきっと大歓迎してくれるさ」
「よ、よろしくお願いします!」
きっちり90度に腰を曲げて挨拶するシンイチの背後から、平野副長がヌッと現われた。
「艦長のところは、陽介くんがいるからちょっと心配です。ライラさんは、うちで預かりますから」
「陽介なら今年から帝都の大学で一人暮らしだよ! そんな心配しなくていいから!」
「えっ!?」
平野の言葉を聞いてシンイチの顔に不安がよぎる。
「いいえ。陽介くんは艦長の息子さんですよ? 大丈夫なわけないじゃないですか」
「おまっ、何言ってくれてるの!? ひとの息子の誹謗中傷はやめてくれない?」
「姉さ……奥様に協力を依頼されて実施した、掃除と言う名の息子部屋捜索作戦での成果物と、その後の家族会議の記録をご覧になりたいですか?」
「なっ! おまっ! 私のいないところで何してくれてんの!? というか、陽介が私に土下座してまで一人暮らしさせてくれってお願いしてきたのって、それが原因じゃねーか?」
「まぁ、その部屋の鍵も奥様からお預かりしてます。定期的に掃除に行ってくれとの依頼を受けています」
「ちょっ! 一人暮らしの若者の部屋に掃除に行くとか、それエロ同人の定番ルートに入るやつじゃ……」
「そんなルートが存在すると思いますか?」
ゴゴゴっと音を立てて平野の顔が迫ってくる。
「い、いや……お前はアイツのことを甥っ子みたいに思ってるかもしれんが、若きリビドーを舐めるんじゃない! エロを取り上げられて追い詰められたら、たとえ雌ゴリラが相手だって発情……うぎゃぁぁぁぁ」
強烈な梅干しぐりぐりが艦長のこめかみを襲う!
艦長のヒットポイントが1になった!
「あ、あの……ライラは平野さんにお願いしたいかなって……」
ぐりぐりされて涙を飛ばしている私に、何故かシンイチが申し訳なさそうな感じで頭を下げながら言ってきた。
ぐりぐりを継続しながら平野がシンイチに声を掛ける。
「シンイチくん、訓練が終わったら食堂まで来て欲しいってフワーデが言ってたわ。行ってあげて」
「わ、わかりましたー」
その場を離れる言い訳が得られたシンイチは、素早くこの場を立ち去って行った。
「ちょ、待て待て、私もフワーデに呼ばれてるんだ! 行かせてく……痛い痛い痛い!」
私がフワーデの待つ食堂に訪れたのは、シンイチから5分遅れてのことだった。
「タカツ、おっそーい! もう話は終わっちゃったよ!」
「な、何の話だったんだ?」
私が痛むこめかみをマッサージしながら、フワーデとシンイチに目を向ける。
「えっとねぇ! 聞きたい? 聞きたい?」
「あぁ、ハイハイ、聞きたい聞きたい、艦長すごーく聞きたいぃぃ!」
私はヤケになっていた。こめかみが痛くて痛くて冗談に付き合ってられん。
「えっとねぇ。ワタシとシンイチの中にいる精霊さんとの情報連携ができるようになったの! まぁ、全部じゃないけどね!」
「ふーん、つまりどういうことだ?」
そこから始まるフワーデの的を得ない話をまとめると、戦闘時にフワーデがドローン等で収集した索敵情報を、シンイチを支援しているココロチンという精霊?システム?に送ることができるようになったということらしい。
「つまりそれって……」
「そうっ! 全ターゲットロックオン! って感じでシンイチの幼女化ビームが飛んでって、全ターゲット幼女化成功! イエェイ!」
「い、いええい」
フワーデのノリにはついていけなかったが、フワーデの索敵とシンイチの幼女化ビームが連携できることの凄さは理解できた。
私の胃の痛みが少しだけ軽減された気がする。
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