第84話 結婚相談

 護衛艦フワデラに戻った私たちは、行方不明となった海賊フェルミとカトルーシャ王女の乗った船の捜索を開始。


 王女たちは王都の港からリーコス村に向って進んでいたことは確かなので、艦を逆ルートで進めながら捜索することにした。


 私は手が空いている乗組員を後甲板に集めて、フワデラがこれから王女捜索に取り掛かることを説明。その後、グレイベア村やってきた協力者たちを紹介する。


「こちらの四人が今回の王女捜索に協力していただく皆さんだ。左からステファン・スプリングさん、トルネラ・ラミア―ノさん」


 ステファンとトルネラが乗組員に向って軽く頭を下げる。乗組員たちが拍手で歓迎の意を表す中、あちこちから私語が聞こえてきた。


「おぉ、あれって義手かな? かっこよくね?」


「あの美人、ラミアじゃないですか! 俺、初めて異世界に来たって実感したわ!」


「スプリングさんって独身かしら? 後で艦長に聞いてみよっと」


「ハミ乳! ハミ乳!」


 うん。風通しの良い艦を目指して、多少の私語には目を瞑ってきた私だが、そろそろ考え直した方が良さそうだな。


「皆、静かに!まだ全員の紹介が終わっていない。こちらがシンイチ・タヌァカさん、ライラ・タヌァカさんだ。直接顔を合わせるのは初めての者も多いだろうから、ここで改めて二人を紹介しておく」


「「「うぉぉぉぉお!」」」


 乗組員たちから盛大な拍手が沸き起こると、タヌァカ氏が顔を真っ赤に染めて何度もへこへこと頭を下げる。ライラもタヌァカ氏を見習って同じように頭を下げていた。


「悪魔勇者討伐作戦中、タヌァカ夫妻には艦内にて我々と行動を共にしてもらうことになる。不慣れな海上生活を強いることになるので、皆も二人をサポートしてやってくれ」


「「「了!」」」


 解散後、グレイベア村の四人を乗組員たちが取り囲んでワイワイガヤガヤと騒ぎ始めた。中にはツーショット撮影を希望する者がいたが、その気持ちはわからなくはない。私もトルネラとのツーショット写真を撮りたいのを、平野の目を気にして我慢しているくらいだから。


 だがサインを求める連中の考えだけはさっぱり理解できない。サインなんか貰ってどうするつもりなんだ?


「艦長……」

  

 私がトルネラのハミ乳をチラ見している横で、平野が氷点下の冷たさで声を掛けてきた。


「一応、警告させていただきますが、今後、おふざけでも女子の入浴に混ざったり、更衣室に突撃するのはお控えください。幼女の外見を悪用した一切のセクハラもそうです」


「なっ!? そ、そそそそんなことしないよ?」


「別に追求する気はありませんが、少しだけ考えてみて頂きたいのです。いつものように艦長が紛れ込んだ女風呂の中に、もしライラさんが入っていたら? そして、そのことをタヌァカ氏が知ったとしたら?」


「ハッ!?」


「くれぐれもタヌァカ氏を敵に回さないようご注意ください」


 そう言って、平野は私を残して後甲板から立ち去って行った。


 ヤバイ……。


 私の額からツツーっと大粒の汗が流れ落ちた。


 ヤバイ……。


 女風呂でライラさんと遭遇してしまう可能性については、平野のおかげで回避することができそうだ。だが、お着換えについてはもう手遅れだ。幼女戦隊ドラゴンジャーの活動時に、何度かライラさんやルカと一緒にお着換えしてしまっている!


 幸いなことに? ライラさん自身はまだ気にしていないというか、気が付いていないようだし……


「こ、これからは気を付けよう」




~ トルネラ ~


 トルネラは上半身が美女で下半身が蛇体のラミア族だ。非常に大きな胸を申し訳程度のビキニで吊っている。


 独身の若い乗組員も多い艦内で過ごしてもらうには、あまりにも刺激が強い格好なので、彼女にはフワデラTシャツを着てもらうことにした。これは帝国で定期的に開催されていた艦内公開見学のときに販売していたものだ。


「タカツ様、服をいただきありがとうございます。とても着心地が良いです」


 フワデラTシャツを着たトルネラが私にお礼を述べに来た。


「おっふ!」


 私は思わず前屈みになってしまった。股間に添えた手の下に問題行動を起こすような器官は付属していないのだが、そうせざる得ないくらいトルネラの姿は青少年の目の猛毒である。


 彼女にプレゼントしたXLサイズのTシャツがその豊満なバストによって引き上げられていた。胸の下辺りで、余ったシャツ部分を結んでヘソ出しルックになっている。


 結びのせいで、トルネラの胸の肌色部分を覆い隠しているTシャツは、却って彼女の巨乳を強調していた。超強調していた。



 

~ 結婚相談 ~


「艦長、艦長!」


 トルネラを残して後甲板から離れた私の手を突然引っ張ったのは田中未希航海長(32歳独身)だった。


「どうした田中? 何かトラブルでもあったのか?」


「そういう訳ではないのですが、ぜひ艦長にお尋ねしたいことがありまして」


「何だ?」


「スプリングスさんって独身ですか?」


「えっ? 何? よく聞こえなかった。スプリングスさんって、さっき紹介したスプリングス氏のことか?」


「そのスプリングスさんですよ! 他にスプリングスさんがいらっしゃるのですか?」


「いないな。確か彼は独身だっと思うが、それがどうした」


「わたしも独身です」


「そうだな」


「わたしも独身で、スプリングスさんも独身です!」


「お、おう。知ってるが?」


 田中未希航海長(32歳独身)の笑顔が、とてつもない圧を伴って私の眼前に迫ってきた。彼女は任務において優秀であり、美人でスタイルも良い非の打ちどころのない女性だ。


 ただ彼女は圧倒的に男運が無かった。運というより縁がなかったと言った方が良いか。


 大学時代に彼氏と別れて以降、勉学と仕事に打ち込んできた彼女だったが、念願であった航海長となってからは色々と考えることもあったのだろう。


 彼女から何度か結婚についての相談を持ち掛けられたことがある。


「艦長、前に結婚相談したとき『私に任せておけ!』とおっしゃってましたよね?」


「言ったな」


「今がその時じゃないでしょうか? いえ、その時です! 違いますか?」


「お、おう……」


 ただでさえ王女捜索で大変なのに、これ以上厄介ごとを増やしてたまるか!


 私の表情を読み取った田中未希航海長(32歳独身)が鋭い眼光を私に向けて放つ。


「帝国に戻ったとき、平野副長と奥様によって開かれる艦長断罪裁判で、女性の弁護人が欲しくないですか?」


「はっ!?」


「この田中、赤い糸を結んでくださった方の恩に報いるために、女性弁護団を編成してあの二人に対峙することを厭うことはありません!」


「よし! 私に任せろ!」


 こうして、王女捜索と同時に田中のお見合い大作戦が始動した。


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