第76話 ルカ★チャンネル

 私が護衛艦フワデラに戻ると、幼女戦隊ドラゴンジャーはルカとグレイちゃんとライラさんの三人で活動を続けることとなった。


 グレイベア村には防衛支援と護衛艦フワデラとの連絡のため15名からなる青峰分隊を常駐させた。妖異討伐の際は、幼女三人は分隊の73式小型トラックに搭乗している。


 ドラゴンが幼女に変身したルカや巨大なグレイベアが変身したグレイちゃんと違って、ライラさんだけはタヌァカ氏のスキルによって変化したであることから、出動中の彼女には常に3名以上の水陸機動隊員が護衛に付くことになった。


 さらに彼女の傍らには飛行ドローンのイタカと四脚歩行型のティンダロスが付いている。これは万が一にも幼女ライラに何かあってはならないとのルカからの要望だ。


 そして、彼女の傍らには常にタヌァカ氏の姿があった。


「平野、笑うんじゃない!」


「ぷぷ。艦長、大変お可愛いと思います。ぷぷ」


 護衛艦フワデラの士官室では、幼女戦隊ドラゴンジャー・ブルーの衣装を来た私を見て平野や各科長が笑っていた。


「た、大変、お似合いです……ぷっ!」


「草壁ぇ……」


 イケメンメガネの草壁医務官が眼鏡を押さえつつ笑いをこらえていた。さらにワイバーン幼女の竜子が私の背中をツンツンしてきた。


「ほらほら! タカツっちゃん、ルカ様からドラゴンジャーの宣伝して来いって言われてるっしょ!? ほらほら宣伝宣伝!」


 竜子は不破寺さんの胸に抱かれながら、偉そうな態度で私に指示を出してくる。


 こいつときたら今や上位種のルカに完全隷従の下僕。今もルカの命令に従って、私がちゃんとブルーの衣装を着てドラゴンジャーの宣伝活動を行っているのか監視しているのだ。


 イライラする私の目の前に突然フワーデが姿を現した。不機嫌な顔で私を睨みつけている。


「ムムム! タカツ! やっぱりタカツがワタシの真のライバルだったのね!」


 そう言って柳眉を逆立てるフワーデは、私の衣装と似たようなアイドルフリフリ衣装を身に着けていた。


 フワーデは、幼女戦隊ドラゴンジャーがSNSで人気急上昇中であることを苦々しく思っているらしい。かなりご機嫌斜めのようだった。


「昨日、ルカ★チャンネルの登録者数がフワーデチャンネルを超えちゃったんだよ! タカツの裏切り者!」


 そんなこと言われてもな……。


 士官室の大きなモニタにルカ★チャンネルのおすすめ動画が流れる。動画内では身体を元気一杯に動かしてポーズを決めるドラゴンジャーたちの姿が映っていた。


 動画内に流れるコメントが酷い。


『これって艦長!? マジ受けるぅ!』

『帝国時代より生き生きしてますね』

『もうずっとこのままでいいのでは?』

『えっ!? この娘が艦長??? この間、女湯に入ってきてたけど?』

『なんで自分たちの艦長の顔を知らないんだよwww』

『いつも頭を洗ってあげてますよん』

『お風呂のとき、いつもシンクローのおっぱい触るのチョー止めて欲しいんですけど! シンクローは私のですけど!』


 山形砲雷科長が私の方に目線を向ける。


「艦長……何やってんすか……」


「ちゃうねん……」


 フワーデダンサーのお前には言われたくないぞ山形……とは思ったが、それを口に出して言えない私だった。


 と、ともかく! 全員から向けられる冷たい視線にめげず、私は幼女戦隊などすぐに辞めるつもりであることを宣言する。


「いいえ、艦長。ドラゴンジャーの活動は今後もしっかりと続けてください」


「へっ? 平野、お前は何を言ってるんだ!?」


「艦には週一でお戻りいただければ十分です。今は悪魔勇者をおびき出す作戦に全力を注いでください」


 平野の言葉に続けて前川陽介主計長が発言する。


「通信環境も日々拡充されているので今ならテレワークも十分可能です。なので艦長にはずっとグレイベア村で妖異を倒し続けていただきたい」


「なんだと!?」


「艦長、よく考えてみてください。ドラゴンジャーが妖異を倒す度に、女神クエストの報酬としてEONポイントが振り込まれるわけですが……」


 確かに。私が恥を凌いで魔法少女の恰好で妖異と戦っているのは、ルカが女神報酬の全額をフワデラに回してくれると言ったからだ。


「リーコス及びグレイベア村の防衛強化を始めとした兵站整備、兵装増強、特にヘリの追加と例の計画を実施するためにも、艦長には可能な限り多くのEONポイントを稼いでいただきたい」


 例の計画。それはタヌァカ氏からの要望で、私が承諾した――


「コボルト村復興計画か……」


「はい。そのためにも艦長には恥を凌いでいただいて、幼女戦隊でご活躍いただきたい」


 私は前川陽介主計長の目を真剣に見ながら首肯した。


「ぷっ」


 前川が顔をぷいっと背けて笑った。


 こいつも面白がっているだけなのでは……。


 笑ってるし! 笑って震えてるし!


 私はプルプル震えながら、腹の底から湧き上がる怒りを抑えた。

 

「ねぇねぇ……」


 プルプル震える私の周りをフワーデと竜子が両手をフリフリして踊り出す。


「ねぇねぇ、タカツ! 今どんな気持ち? みんなに恥ずかしい恰好を見られてどんな気持ち?」


「お、お前ら……くそっ!」


 く、悔しい。私の両の頬にツツーっと涙が流れる。幼女の身体ではどうにも堪えきれなかった。


「こらぁっ! 竜子ちゃん! フワーデちゃん! イジメは絶対に駄目ですん! たとえ冗談でも駄目ですよん! 弱いものイジメするようなヤツは大嫌いですん!」


 不破寺さんが顔を真っ赤にして二人を叱る。普段はまず見ることのない不破寺さんのお叱りモードに、二人の顔が一瞬で青く染まる。


「わたしは大好きな二人を嫌いになりたくないですん……」


 フワーデと竜子の顔をしっかり見ながら、不破寺さんが声のトーンを落として言うと、


「「うぇぇぇん! シンクローごめんなさぃぃぃ! 嫌いにならないでぇぇ!」」


「大丈夫ですよん。二人のことを嫌いになったりしないですん。ちゃんとごめんなさいできますよねん?」


 と何だか良い感じで収まりつつあった。その一方で、さっきから平野や各科長たちの冷たい視線が突き刺さってきて痛い。


「「子どもに泣かされるとか……」」


 くっ! 不破寺さん、あいつらも叱ってやってください!


 ……と言いたいのをぐっと堪える私だった。


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