第74話 妖異獣ブラックゴート

「えっ!? あれと戦うのか? 私たちだけで?」


「そう、 我ら幼女戦隊ドラゴンジャーの初陣じゃ!」


「がんばります!」


「うーっ! やっつける!」


 グレイベア村から北へ広がる森の中、へそ出しフリフリ衣装に身を包んだ私と三人の幼女が巨大な化け物の前に立ち塞がっていた。

 

 化け物は一見すると樹齢数千年くらいありそうな巨大な古木のように見える。だが古木は自分から移動することはないし、枝を自由自在に振り回して暴れるようなこともしない。


 だがこの黒い巨木は動いていた。森に生きる者たちの生命を、その無数の触手で絡めとりながら進んで来た。


「チョー怖いんですけど!?」


「なーに! あの程度の妖異ならワンパンじゃ! ワンパン!」


「がんばります!」


「うー! ワンパン! うー!」


 どうしてこんなことに……。


 迫りくる巨大な妖異を前にして怯える様子なく、自信満々な三人の幼女を見て私は不安で一杯だった。不安で仕方がなかったので、私は事前にフワーデに妖異の解析を指示していた。


 インカムからフワーデの結果報告が届く。


『こいつは妖異獣ブラックゴートだね! 見た目の特徴が完全にイッチしてる! えっと過去の記録だとジュブジュブとか言う邪神のお尻からボトッって落ちたヤツみたい!』


 それって邪神のンコってことか!? というかジュブジュブとか適当過ぎるだろう!


『この世界の悪い人たちは、黒い仔山羊とか千匹の仔をはらみし森の黒山羊とか呼んで崇拝してるみたい。結構、女神クエストの討伐記録も多いから、雑魚だよ雑魚!』


『お前は目の前で見てないからそんなこと言えるんだよ! この送電塔くらいある巨大なローパーを見て雑魚とか、お前は外星宇宙人かよ!』


『護衛艦だよ?』


『ですよねー!』


 全長170mの護衛艦フワデラからすれば、確かにこいつは雑魚なのかもしれない。


『通常の物理攻撃が通るみたいだから、アタシたちの火器でも倒せるよ! あと火に弱いみたいだから、ドラゴンのルカちゃんならワンパンじゃないかな?』


『そ、そうなの?』


「その通りなのじゃ! だから何も心配することはないぞブルー! わらわたちの勝利は約束されておるのじゃ!」


 ブルーと言われて私は思わず自分の姿を確認する。青系の衣装ってことは私か!?


「まずは戦闘員共の始末じゃ!」


 レッドことルカちゃんが、口から炎のブレスを吐いて妖異獣ブラックゴートの周囲に群がる小型ブラックゴートを焼き払う。


 イエローことグレイちゃんが、よいっしょと声を上げて 長いチェーンの先にトゲが付いた鉄球を投げつける。


 ピンクことライラは、我々が支給した64式7.62mm小銃を普通にぶっ放していた。幼女の小さな体に抱えられた小銃は、通常の兵士がミニガンを抱えているような感じに見える。


 ライラは元々が優秀な拳闘士だったためか、銃の反動をキレイに地面に流しているように見える。非常に安定した射撃を繰り出していた。


 そしてブルーこと私は――


「フワーデェー! ってー!」


 そう叫びつつ右腕を天高く掲げる。


『わかったー!』


 その瞬間、私の背後から戦闘ドローンのイタカが舞い降りて来た。


 バババババババッ!


 激しい音と共に、小型ブラックゴートが木端微塵に吹き飛ばされていく。


 そして幼女戦隊ドラゴンジャーは、あっと言う間に小型ブラックゴートを全て掃討してしまった。


 ぐうぉぉぉぉおお!


 妖異獣のボスが全ての触手を激しく振り回し、周囲の木々を次々となぎ倒していった。その激しい怒りがビリビリと私たちに伝わってくる。


 妖異の激しい瘴気に当てられ、私は意識を刈り取られそうになる。しかし、レッドの一声が瘴気を打ち払った。


「今じゃ! 今こそ! わらわたちの力をひとつに合わせて必殺の一撃を繰り出すときじゃ!」


 えっ、あれ、やるの!?


 戸惑う私を無視してイエローとピンクが叫ぶ、


「太陽の力を正義に変えて! うーっ!」


「愛の力がひとつになって!」


「青き正常なる世界を……守る?」


 えっと、私のセリフって大丈夫なの? と戸惑っている間にレッドが叫ぶ!


「赤き誠の炎をその身で受けよ!」


 レッドの首のペンダントから激しい光が発したかと思うと、ルカの姿が巨大な赤竜に変身する。変身というか元の姿だが。


「ドラゴンファイアー!」


 赤竜の口元に光が凝縮した、その次の瞬間、


 ゴオォォォォォ!


 吹きつけられた強烈な炎が妖異獣ブラックゴートを焼き尽くした。




~ 反省会 ~


「もう少しセリフは練った方が良いかの? なんというか、もっと格好いいのと可愛さが共存するような感じのじゃ」


「わたしは楽しかったです!」


「うーっ! もっとポーズをいい感じにしたい。うーっ」


 妖異獣ブラックゴートを倒した私たちは、グレイベア村に戻るとすぐに反省会を開くことになった。


 正直、私としては恥ずかしい恰好をさせられるのは辛い。それに幼女戦隊とかふざけ過ぎているような気がする。だいたい私は護衛艦フワデラの艦長で……


『タカツ―! 女神クエストの報酬が入ったよ! 1億5千万ポイントだって!』


 私がフワーデと通信する様子を見ていたルカがニヤリと笑う。


「女神クエストの報酬の話かの? 全部、タカツたちの丸取りで構わんぞ!」


「マジか!?」


「マジじゃ!」


 私はゆっくりと椅子に座り直した。


「それじゃ、反省会を続けましょう」


 それ以降、私は超積極的に挙手して発言するようになった。



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