第54話 三合作戦

 私たちは今後3つの目的に沿って作戦行動をとる。


 一つ目はタヌァカ氏の捜索。

 二つ目はマーカス・ロイド氏及びヴィルフォランドール氏との接触。

 三つ目がリーコス村の防衛力強化だ。


 私はリーコス村の広場に関係者を集めて、それぞれの行動内容について話すことにした。


「タヌァカ氏の捜索だが、ロコ氏とトルネラ女氏、およびタクス氏を護衛しつつグレイベア村に向う。村の首長であるルカ氏に、我々が幼女化の解除にタヌァカ氏の力を必要としていることを伝え、同氏の捜索に協力する。このタヌァカ氏捜索隊には、南大尉、坂上大尉、ヴィルミカーラが参加する。それと不破寺さんと竜子にも加わってもらいたい」


「「「了!」」」

「わかりましたん!」

「いいけど!」


「次にマーカス・ロイド氏及びヴィルフォランドール氏との接触のため、護衛艦フワデラはゴンドワルナと呼ばれる別大陸に向う。出発は一週間後、期間は一カ月。作戦が順調に進めば二人を伴ってリーコス村に戻る。もし二人と接触ができなかった場合でも一カ月後には戻ってくる」


 私は集まっている面々の顔を一通り確認する。この二つ目の作戦行動については、それを実行する理由がよく分からないという顔が浮かんでいるのが見える。


「ロイド氏とヴィルフォランドール氏は、幼女化解除のキーマンであるタヌァカ氏が非常に大切に思っている人物であることが分かっている。彼らを保護してタヌァカ氏の元に送り届けることが出来れば、確実にタヌァカ氏から協力を得ることができるはずだ」


 昨夜の会議で、私たちがマーカス・ロイド氏との接触を検討していることを知ったロコたちは、もし二人をタヌァカ氏に引き合わせることができれば、彼が私たちに多大な恩義を感じることは間違いないと太鼓判を押した。


 また二人が古大陸に渡ったのは、ヴィルフォランドール氏の姉を探すためだとロコたちから聞いている。必要であれば捜索に協力し、そのご家族も連れて一緒に戻ってくるつもりだ。


 今のところ、私たちの幼女化を解除することができるのはタヌァカ氏しかいない。賭けの勝率が僅かでも上げられるのであれば、やらない手はないだろう。


 私の説明を聞いた乗組員クルーの顔からは疑問の表情が消えた。全員ではなかったが、後は理解した者たちがフォローしてくれるだろう。


「最後にリーコス村の防衛強化だが、前回の居残り組に加え、各科からさらにメンバーを選出して任に当たってもらう。今回の戦闘で村の存在が魔族軍に知られたことは間違いない。再び彼らが襲ってきたときに備えたい。村人たちからも協力の申し出があったので、彼らに銃器の扱いなど戦闘訓練の指導も行う」


 そう言いながら、私は村人たちに顔を向けて頷く。


「弾薬はもちろん、戦闘ドローンも含めてなるべく多くの兵装を置いて行く。護衛艦フワデラは出航してから30日後に必ずこの村に戻ってくる。万が一、魔族軍との戦闘が発生した場合でも、我々が戻るまで何としても耐えてくれ」


 その場にいる全員の視線が集まる中、私は一人ひとりに目を合わせていく。視線が交差するごとに、私は乗組員クルーたちに非理法権天の海軍魂が燃え上がるのを見た。


 私は大きく息を吸ってから号令を上げる。


「タヌァカ氏捜索、古大陸遠征、リーコス村防衛強化、これらをまとめて三合作戦と呼称! 只今より、三合作戦を開始する!」


「「「「了!」」」」

 

 この日から一週間、護衛艦フワデラとリーコス村の人々は昼夜を問わず働き続けた。




~ 一週間後 ~


 三合作戦に当たっては大量の物資や兵装が必要となったが、これ自体は大きな問題にならなかった。敗走した魔族軍が多くの魔鉱石を残して行ったからだ。


 また破壊した岩トロルから魔鉱石が得られたことも僥倖だった。今後は、岩トロルを発見したら積極的に攻撃することにしよう。


 さらに掃討戦で撃退した妖異に対して女神クエスト報酬が発生していた。結果、フワーデの元に大量のEONポイントが振り込まれていたのだ。


 護衛艦フワデラの兵装と物資・燃料をフル充填したにも関わらず、魔鉱石やEONポイントにはまだまだ余裕があった。


 私たちはそれら全てを、タヌァカ氏捜索隊とリーコス村居残り組のための物資や兵装につぎ込んだ。


 ビックマートの兵装注文で73式小型トラック10台を購入。魚雷に比べれば安いものだ。


 1時間ごとに格納庫内に出現するトラックを、ヘリが順次リーコス村へと運んで行く。この73式小型トラックはタヌァカ捜索隊が3台、残りはリーコス村で運用する。


「不破寺さんとヴィルミカーラ、それとタクスには運転を覚えてもらいます」


 坂上大尉の指導を受けることになった二人は、出発の日まで一日の大半を73式小型トラックの運転と銃器の取り扱い訓練に費やすことになる。


 ドドーン!


 村のはずれでは軽MAT(01式軽対戦車誘導弾)の訓練が行われていた。別の場所でも村人たちに対して各種の軍事教練が行われている。


 元々、人間より体力のある白狼族ということもあって乗組員クルーたちの厳しい指導に十分付いていくことができている。


 村人たちの訓練が進む一方、村の要塞化も着々と進められていた。


 リーコス村を見渡せる場所に、60式106mm無反動砲を置いたトーチカを3カ所構築。これで街道や森からだけでなく、海から魔族軍が襲撃してきても十分に対応できる。


 また燃料発電機と簡易フワーデサーバを村長宅の地下室に設置。


 このサーバと通信設備によって村周辺の通信ネットワークを管理する他、搭載されているAIが乗組員クルーの指示に従ってドローンの操作を行う。


 とにかく護衛艦フワデラが不在となる一か月間、リーコス村の安全を確保するために出来ることは全てやったつもりだ。


 その中でも魔族軍の捕虜に対する取扱いはやっかいな難問だった。


「洗脳しちゃえばいいじゃん? アタシらの信者にしちゃえば良くね?」


「だねー!」


 ネットに嵌ってから益々奇妙な言葉遣いを始めた竜子と、それに乗っかるフワーデの提案によって、捕虜に対して洗脳教育が行なわれることとなった。


 帝国なら大問題に発展するところだが、ここは異世界なので問題ないと私は考えることにした。


 竜子の提案から数日後、捕虜を収容している簡易テントの見張りはたった一人になった。


 鉄条網が張られているだけで、逃走しようと思えば簡単なのに、誰一人逃げるものはいなかった。


 ただ昼間は喧騒で気が付かないものの、夜が更けて静かになるとこのテントから不気味な声や振動が響いてくるようになる。


 夜の見張りに付いていた者から、担当を変えて欲しいという要望が幾度か上がってきたので、気になった私は夜の巡回時にテントを訪れてみた。


「女王様ぁ~、この醜い豚めを見下して踏んでくださいぃぃ」


「フッ! フッ! フワーデえ、フ・ワーデちゅわーん! そい!そい!そい!そい!」


「竜子ちゃん、ぺろぺろ。ぺろぺろ」


 テント内では、VRゴーグルを付けて地面に這いつくばる者や、奇妙な踊りを踊るもの、ノートPCに映った竜子をぺろぺろ舐める魔族たちの姿が……。


 この気味悪い風景を見た数日後、魔族軍の捕虜全員がリーコス村に寝返った。


 正確に言うと彼らは魔族軍に見切りをつけ、平野女王様とフワーデそして竜子の足をぺろぺろと舐めようとし始めたのだ。 


 竜子とフワーデによる洗脳は予想以上の成果をもたらした。


 二人は自分たちの信者が出来て喜んでいるようだったが、平野だけは自分の足元に這いつくばろうとする捕虜たちに、ひたすら嫌そうな顔を向けていた。


 そして――

 

 三合作戦の開始から四六時中頭を抱える日々を送ること一週間。


 ついに――


 護衛艦フワデラは古大陸へと出航する。


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