第15話 個別面談
【フワーデの図鑑】を使えば、
だが各スキルについて直接本人から聞いてみようと、私は
面談に出席するのは私の他、平野副長、草壁医官、そしてフワーデ。だいたい一日当たり3~5名ずつのペースで面談を進めていく。
そして今まさに個別面談を進めているところである。
「それでは相模。君のスキルを報告してもらえるかな?」
私以外は圧の強い面々の前で緊張しているのか相模二等水兵はガチガチに固まっていた。
「じ、自分のスキルは【好感度が高い名付け】であります!」
「えっ? なんだって!?」
「じ、自分もよくわかりませんが、スキル欄の説明には『人々から高い好感度を得ることができる名前を付ける能力』とあります」
こんな微妙なスキルを付与したのはお前か?というジト目をフワーデに向けると、彼女はあたふたと銀髪を振り乱しながら自分の関与を否定した。
「スキルを付与したのはワタシじゃないよ! もちろんスキルを作ってもない! だからタカツもヒラノもそんな目でワタシを見ないで! ワタシ悪くない!」
私達のやりとりに居心地を悪くして縮こまっている相模二等水兵に、草壁医官が質問して助け舟を出す。
「相模くん。そのスキルを実際に使ったことはありますか?」
「あの……料理長からここの現地食材を使った創作料理に名前を付けてみろと言われたので……」
「なるほど。あれは相模二等兵が名付けたのですか」
食べ物の話になったので平野が注意を相模に戻した。平野は航空母艦なんて陰で揶揄われるくらいの大食漢だ。
そのことについては本人も自覚しており『将来の夢はプロのフードファイターです』というネタを定番にしている。
「ホーンラビットのふわふわカレー」
「パラライズフィッシュのピリピリ煮込み」
「コブラーナのイチコロ素揚げ……」
平野の口から新作料理の名前が次々と挙げられていくのを、私は途中で止めさせた。
「相模が料理に名前を付けていたのか……なかなか良いネーミングセンスだな」
「は、はい。ありがとうございます」
「そうなんです。それぞれの料理の内容が適切に表現されているだけでなく、逆に料理自体の味を引き立てるような……」
何故か平野が喰いつき気味で相模二等水兵の名付けを褒め称え始めた。
「いや、お前には聞いてないから。ちょっと黙っててくれないか」
「むぅ……」
平野はまだ言い足りなさそうだったが、とりあえず大人しく引き下がってくれた。
「平野は大袈裟だけど、他の人も似たような感じだよ。みんなが相模のネーミングセンスを褒めてる」
フワーデが平野へのフォローを入れる。
「そうなのか。いま平野が言った料理を私はまだ食べたことがないからな。確かに良い感じの名前だと思うが、どうも平野ほどには熱くはなれん」
「お言葉ですが艦長! 他の料理名も聞いていただければ……」
平野が椅子から腰を浮かせて熱く語ろうとし始めたので、私は手で制止した。
「面談は以上だ。これほど熱心なファンまで出来るとは、相模のスキルはかなり優秀なものみたいだな。これからもよろしく頼むぞ」
「はい! 今日も3つほど料理長から名付けを依頼されてます」
「おっ、おう……頼んだ」
相模二等水兵は元気よく退出。この日はあと二人の面談を行った。
ちなみに二人のスキルは、
【USBを常に正しい方向で挿す】スキル
【小指の先を任意の辛さのカレー味にする】スキル
というものである。他の大部分の
~ 個別面談(坂上大尉)~
坂上大尉のスキルは「当たり」だった。
「わたしのスキルは【フワデラコンパス】です。スキルを発動すると、この世界のどこにいてもアホ毛がフワデラの方向に向くというものです」
そう言って坂上大尉は自分の頭の上を指さした。彼女のアホ毛がくるくると回っている。どうやらスキルを発動しているらしい。
「凄いぞ坂上大尉! このスキルがあればもし遭難してもフワデラに戻ることができるじゃないか!」
「これは内陸部の調査チームには彼女を組み込むのが必須となりましたね!」
どうやら私だけでなく平野まで、坂上大尉の優秀なスキルに少々熱くなっているようだ。
正直、ここずっとしょーもない……もとい、ニッチ過ぎて有効活用の方法がほぼなさげなスキルばかり見てきたので仕方のないことである。
そう、仕方ないのだ。
「ただ自分自身のアホ毛を見ることはできないので、鏡を使うか他の誰かに確認してもらう必要があります。それに髪が濡れている状態ではアホ毛は機能しません」
私と平野がこの凄いスキルに熱くなっているのに、坂上大尉はどこ吹く風で淡々とした様子。私はじれったい思いに駆られて声を大きくする。
「この異世界のどこにいても必ず本艦へ辿り着くことができるんだ!そんな仔細な問題なんて吹き飛ぶくらい大尉のスキルは素晴らしいと思うぞ!」
「有用なスキルであるとは認識しています」
坂上大尉は相変わらずクールビューティーだった。が、耳がほんのり紅く染まったのを私は見逃さなかった。
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