二匹のハチの物語 ★勇者の献身★
@88chama
第1話
.それはだれにも知られない、けれど、とても美しいできごとでありました。
そしてとても悲しくて、つらいできごとでもありました。
小さなハチの身におこった事件でしたから、それが庭で見かけたハチのこと
だったとしても、ちどりおばさんがまったく気がつかなくても仕方のなかった
ことでしょう。
毎朝八時近くになると、ちどりおばさんの家の前は学校へ通う小学生でとてもにぎやかになります。朝に弱いおばさんはいつもまだ半分眠ったような顔をして、元気な子供達の声を聞きながら花に水をやります。
きれいに咲いた花を見ては「今日もきれいだよ、ありがとう」と心の中で言いながら、しおれた花をつまんで取るのが日課でした。
毎日その作業をしながら子供達の様子を見ては、「あの子は元気がないけど、どうしたのかな」とか「忘れ物はないかな」などと思ったりもしています。
ある日、いつものようにおばさんが水やりをしていると、
[あっ、ハチだ!しっ、しっ」
と言って手を振りながら、男の子が蜂を追い払おうとしています。
「ダメよ!そっとしてなきゃ。蜂は何もしない人は刺さないんだから」
大きな声で叫ぶおばさんの声に、子供達は立ち止まりました。一番背の小さい子が
「ぼくの弟も刺されてね、手がこーんなにぶっとくなっちゃったんだよ」
と言って、指をお日様に向けて突き出しました。みんなは両手を羽のように広げると、
「わーい、ハチだハチだー」と言いながら、蜂になって学校めがけて飛んで行きました。
おばさんが笑いながら見送っていると、その蜂がぶーんと飛んで来て、水をやったばかりの花に止まりました。花びらの上にたまった水が朝日に輝いてとてもきれいです。蜂は一つの花に止まっては次の花に移り、ちょっと止まっては次の花へと飛んでいるうちに、動かなくなってしまいました。
ひと休みしているのでしょうか。しかし止まっているはずなのに羽音が聞こえます。おかしいな、そう思っておばさんはそっと花に目を近づけてようく見てみました。すると葉っぱの下の方で何か動いているのが見えます。そこにはもう一匹、蜂がいたのです。
こちらの蜂は大きくて元気がよさそうです。羽音もずっと力強く聞こえます。ブーンブーンとまるで歌っているように聞こえます。しばらくすると、もう一匹の蜂も加わって、二匹で合唱しているように聞こえました。おばさんは何だかとても楽しくなって、二匹に名前を付けてやろうと思いました。
「えーっと、蜂だからはっちゃん。はっちゃんなんて、タコのはっちゃん、植木鉢のはっちゃんっていうみたいかなぁ・・」
「そうねぇ、蜂だから・・・Bee、そうだ、君の名前はBee。それからこちらの大きい方はラージB。でもちょっと違うな。BeeとくればBoo、それ決まりっ・・・」
そう心の中でつぶやくと、おばさんは二匹の蜂を眺めながら、心の中で名前を呼んでみました。するとまるで二匹の蜂がペットのように思えてきました。
水やりを終えておばさんが家に入ると、蜂達は蜜を吸うのを止めてひそひそブンブン話しました。大きい方の蜂が怒ったように、羽音を強く響かせてもう一匹に言いました。
「今の聞いたか。お前の名前はBeeだって。ハハハ、英語だからおしゃれだとでも思ってんだな。ありきたりの名前だよな。でもさ、お前はまだいいよ、Beeだからな。だけど俺はBooだってさ。へっ、ブタじゃあるまいし。本当にセンス悪いよ」
二匹の蜂達にはおばさんの心の中の言葉を読み取る不思議な力があったので、Booと名付けられた蜂は不満でたまりませんでした。
「お前知ってるかい。ここのおばさんって落語が大好きなんだってさ。いつもだじゃれで遊んでいるけど、BeeにはBooだなんて、全くしゃれになってないじゃないか。」
Booは苦々しそうな顔で言いました。
そんな事を言いながらも、二匹は仕事に戻りました。本当によく働く蜂達でした。玄関の周りのたくさんの植木鉢やプランターの花の蜜集めが済むと、今度は裏の庭にまわって、色とりどりに咲き乱れる花の中でせっせと働くのでした. 夢中で働いていた二匹は、そよ風に身をまかせながらひと休みしました。疲れた体を風がやさしく揺らしてくれました。ふわふわと飛ばされて、洗濯物を干しているおばさんの所に着くと、おばさんは二匹の蜂を見つけて近づいて来ました。
「おや、さっきの蜂だわ。こんな所まで飛んで来たの。ここで何をしているの」
おばさんはいつも家の前を散歩で通りかかる、犬の飼い主のような眼差しで、嬉しそうに二匹のペットを眺めて話しかけました。
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