最終話 人の繋がりとそれぞれの目標に向かって
夏休みが残り1週間となった8月末。
彩葉はバイト先の店長の剛、小中学生の頃の恩師である京香、バイトの後輩である葵と大事な話をするべく剛の自宅の部屋で集まっていた。
「急なんですが…夏休みいっぱいでバイトを辞めようと思います。これから大学受験に向けて本格的に勉強もしないといけないですしバイトと勉強を両立するのは、私にはちょっと厳しいので…」
彩葉が真剣な顔でそう話すと、剛は既にこうなるのがわかっていたのか深刻な顔をせずに言った。
「もうそんな時期かー!いやぁ、はえーもんだな!よし、わかったよ!学生は学業が優先だからな!彩葉ちゃんは仕事もできるし辞められるとちょっとツラいけど、まぁこればかりはしゃーねぇ!勉強頑張れよ!バイクのことで何かあったらいつでも来てくれていいからな!」
剛はそう言って彩葉のことを応援してくれた。
葵も「彩葉さんの分まで頑張りますよ」と頼もしい存在に成長している。
彩葉の退職の件の話が終わると、京香から個人的に呼ばれて彩葉と2人で京香の部屋で話をすることになった。
「ほんとに早いわねぇ…ついこの間まで中学生だった彩葉ちゃんがバイクに乗るようになって、もう大学受験かぁ」
京香がそう言うと彩葉はバイクの免許を取ったばかりの16歳の時を思い出していた。
生活の為に乗るようになったバイクは、もう彩葉の中ではただの生活の為の乗り物ではなくなっていた。
小中一貫校時代にずっと「高校生になったら友達が欲しい!」と言っていた彩葉はバイクを通して沢山の人に出会い、そして親友と呼べるバイク仲間もできた。
小中一貫校でずっと1人だった彩葉を知っている恩師である京香は、立派にここまで成長した彩葉を見て思わず涙が流れた。
「ほんとに…立派になったわね……大学はどこを受験するか決めたの?」
京香は溢れそうな涙を拭って堪えるように聞いた。
「んー、今のところは未定ですけど…東京の大学を受けてみようかなと思ってます」
彩葉は腕を組みながらそう言うと「まだ余裕あるからじっくり考えて」と教師というより母親のような口調で京香が言った。
進路のことについて話を終えると、2人は今までの思い出について1時間くらい話していた。
小中一貫校時代のこと、バイクの免許を一発試験で取得するのに猛練習したこと、愛琉やルナと遊ぶようになってバイク女子として他の高校生とは違った生活を送ったことなどを楽しげに話した。
京香と話していると彩葉のスマホに愛琉から着信が入った。
『もしもし!今、ルナと一緒にアンタの家の前にいるんだけど…3人でちょっと進路について話さない?』
愛琉が珍しいことを言うので「わかった、すぐ帰るよ」と言って電話を切った。
彩葉は京香に愛琉達が家に来ているから帰ると伝えると、FXを停めてある京香の家の玄関の外に向かった。
彩葉はFXのエンジンを始動すると、自宅の方へ帰っていった。
自宅の方に戻ると既に愛琉とルナがスタンドをかけた状態のバイクに跨って待っていた。
「ごめん、待った?」
彩葉が聞くと「いや全然大丈夫」と愛琉が笑って言ってきた。
「それじゃ、さっきのことについて話そうよ!彩葉はこれからの進路はどうするの?
ルナがそう聞いてきたので、彩葉は腕を組んで考えるように言った。
「とりあえず東京の大学に進もうかな…とは思ってるけど…ルナは?」
彩葉もルナに聞いてみると、ルナは就職するらしい。
そういえばルナはタクシードライバーになりたいと以前に言っていたのを思い出した。
タクシードライバーになるには普通二種免許が必要で普通一種免許を取得してから3年以上経過していないと取得ができない、つまり18歳で普通一種免許を取得すれば21歳の時に普通二種免許を取得できるようになる。
ルナの就職は二種免許を取得するまでの繋ぎと言ったところだろう。
「愛琉はどうするの?」
ルナがバイクに跨ったままの愛琉に聞いてみた。
「うーん…詳しくは話せないけど家の家業を継ぐことになってるよ」
愛琉が珍しく真面目な顔をして言うので、友人の彩葉達にすら言えない家業なのだろう。
彩葉とルナはこれ以上深く聞いてはいけないと察したのか、あえて聞かなかった。
愛琉は跨っていたバイクから降りて2人に近づくと拳を前に突き出しながら言った。
「アタシ達さ?卒業してそれぞれの道に進んでも…ずっと親友だよな!」
愛琉がニカッと歯を見せて笑いながら言うと、彩葉とルナも三角を描くように愛琉の拳に合わせて「当然でしょ!!」と彩葉とルナは2人同時に言った。
「私は小中一貫校だった…他に生徒もいなくて9年間ずっと1人だった…高校に入ったら友達ができるのが楽しみだったんだ!FXが…フェックスが2人に会わせてくれた!私の最高の親友で宝物だよ!」
彩葉は大粒の涙を流しながら今まで見せたことない笑顔で言うと、愛琉とルナもつられてもらい泣きしている。
「ねぇ?夏休みはまだ残り1週間あるしさ!アテもなくツーリングしない?」
これを提案したのは愛琉ではなく、珍しくルナからだった。
「おっ!ルナ珍しいー!アタシもずっと辛気臭い雰囲気はなんか嫌だし、どこか走りに行こうって言おうとしてたんだよ!彩葉もさ?もちろん行くでしょ?」
愛琉は、もう返ってくる返事がわかりきってるのにも関わらず聞いてきた。
「この雰囲気で断る友はいないでしょ!突発ツーリングだからこそ盛り上がるってもんだしね!」
彩葉はそう言うと早速Z750FXの…フェックスのエンジンを始動すると、愛琉とルナもCB750FOURとZEPHYR Χのエンジンを始動した。
「やっぱヤンキーが好みそうなバイクが勢揃いしてるわけだしさ?出発のかけ声はヤンキー風にやっちゃう?……よし!今回は先頭をゼファーにしてかけ声はルナで!」
愛琉が相変わらずの調子で言うとルナはちょっと焦った感じで言った。
「えぇ!?私が!?……普通さ?こういうのはナナハン乗ってる2人のどちらかがやった方がキマるんじゃないの?………はぁ…しょうがないなぁ!」
ルナは嫌そうにしてはいるが、どうやら満更でもないようだ。
ルナは2人の先頭に移動すると後ろの2人の方を振り向いて大声で言った。
「それでは!これが実質高校最後のツーリングとなるでしょう!…2人ともいい??安全運転で行くんで夜露死苦ーーー!!!!!」
彩葉と愛琉は「押忍ッ!!!!!」と叫ぶと3人は拳を空に突き出して叫んだ。
「突発ツーリング!デッパツすっぞーーー!!!!!」
【フェックス 完】
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