第57話 イナズマ400納車

都姫が亡くなって2週間以上が経った土曜日。

彩葉は高校最後の夏休みで、今日は以前に女子高生のお客さんに頼まれていたイナズマ400の納車日だ。


都姫の葬儀は無事に終わって、彩葉達は悲しみを乗り越えていつもの日常に戻っていた。

ちなみに都姫が病院に搬送されて途中で抜けることになってしまった岐阜の修学旅行は、彩葉と愛琉に特別にローマス校長が個人的に下呂温泉に連れて行ってくれて結果として彩葉と愛琉は違った形で修学旅行を楽しむことができた。


時刻は午前11時でそろそろ女子高生がやってくる頃だろうと思っていると、店内に1人の若い女性が入ってきた。


「こんにちは〜、頼んでいたイナズマ400を受け取りにきました!」


アウトドアブランドの薄いパーカーに黒スキニーパンツ、ブーツ、リュックとバイクに乗る服装で以前に来た女子高生がやってきた。


「お待ちしておりました!整備の方は全て終わっていて、今すぐ乗っていただけますよ!それでは簡単な説明をしますのでコチラへどうぞ」


彩葉が女子高生にそう言うと、基本的なウィンカー操作やメインキーのON、OFFなどを説明した。

任意保険の方は彼女の父親を通して入るとのことなので、今回の説明は省いた。


「うわぁ…なんか夢見たいです!ほんとにありがとうございました!家まで乗って帰るのがちょっと不安ですけど…頑張ります!」


女子高生はそう言うとイナズマのシートに手を置いて嬉しくて仕方ない顔をしていた。

この気持ちはよくわかる…納車されたときの喜びは味わったことのある人間にしかわからない。


「オイル交換は3000km毎ですので、3000km走ったらまたお店の方へいらしてください。もし、乗っていてトラブルや不具合があった場合もお店に連絡していただければ点検や修理もやりますので」


彩葉がそう言うと女子高生は「わかりました!」と言ってヘルメットとグローブを身に着けると、イナズマに跨ってエンジンを始動した。

先ほどまで彩葉がエンジンをかけていたので暖機は済んでいる。


「ほんとにありがとうございました!」


女子高生はお礼を言うとクラッチレバーを握ってシフトを1速に入れてゆっくり走り始めて大通りに出ると加速して行った。


「大事にしてくれるといいなぁ」


彩葉はそう呟いて微笑むとお店の中へ戻っていった。


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