最終章

第56話 私は疫病神なのか?

もう何時間バイクを運転してるだろうか…

彩葉と愛琉はひたすら茨城に向かってバイクを走らせていた。

突然かかってきた友紀子からの電話に完全に気持ちを取り乱していた。


彩葉は修学旅行のバスに乗り遅れてローマス校長と愛琉と共にバイクでバスを追いかけていたのだが、追いついた高速のPAで休憩してる時に友紀子から着信が入って、都姫が刺されて意識不明の重体であると聞かされた。


そんなことを聞かされては、とても修学旅行をのんきに満喫してる余裕もなく担任の新庄先生やローマス校長に事情を話して、修学旅行から急遽抜けてすぐに茨城に戻ることにした。

気持ちを取り乱してる彩葉を1人にするのは危ないことをわかっていた愛琉も彩葉に同行した。


彩葉と愛琉は上信越自動車道から北関東自動車道を経由して茨城に向かっていた。


「彩葉!アンタ飛ばしすぎよ!気持ちはわかるけど危険すぎる!」


冷静さを少し失っている彩葉は、かなりのスピードが出ていた。

愛琉がそれを指摘するが全然聞くような感じではない。

仕方がないので愛琉は黙って今の速度域のままついていくことにした。


岩舟JCT、栃木都賀JCTと経由して彩葉と愛琉は行きの時とは比べ物にならないペースで走っている。

都姫が搬送された病院は笠間市にある茨城でも大きい病院で彩葉と愛琉はそこに直接向かっていた。


長野から高速を乗り直して3〜4時間は休憩を入れずに飛ばしてきただろうか?

彩葉と愛琉は北関東自動車道の友部ICで高速を降りるとすぐに都姫がいる病院に向かった。

高速を降りて10分程で病院に到着すると、彩葉と愛琉は急いで都姫の病室に行くとそこには友紀子の他に兄の蓮やバイト先の店長の剛や中学時代の恩師でもある京香がいた。


「はぁ…はぁ…み、都姫は?」


彩葉が汗だくで息を切らしながら言うと、友紀子が椅子に座ったまま小声で言った。


「15分くらい前に…息を引き取ったよ…刺された箇所が多すぎて心臓の他に肺や他の臓器もくらってたらしくてよ……今のヤンキーはよ?平気で道具(刃物)を使って人をぶっ殺すんだな…喧嘩で勝てる気がしねーからテメー(自分)の学校やチームが有利になるように敵の主力を殺っちまうんだから腐ったもんだな」


友紀子は悲しさと怒りで震えながら言うと、友紀子の隣に座ってたロングスカートのセーラー服をスケバン風に着こなしたボブくらいの見知らぬ不良少女が立ち上がって彩葉を見て言った。


「アンタが如月彩葉か。話はよく都姫から聞いてたよ、アタシは横浜で頭張ってる斎藤凪沙ってもんだ。都姫とは一度タイマン張って負けててよ、茨城以外の関東をシメたからもう一度都姫にタイマンを申し込もうとしたら都姫が殺られちまった…おそらく襲ったやつは都姫の存在を鬱陶しく思ってた東京の多摩の不良達だ」


斎藤は俯きながら言うと、彩葉も空いてる椅子を見つけてため息をつきながら座り込んだ。


「私の周りってなんでみんな死ぬんだろ…私って疫病神なのかな?両親も既に他界してるし友人すら高校生のうちに亡くしてる…」


彩葉は俯いたまま棒読みな感じで落ち込みながら言うと、愛琉が真っ先に口を開いた。


「何言ってんの!違う!彩葉の両親や都姫だって彩葉のせいじゃない!人生って…人が生きるってのは紙一重のラインなんだよ…私達だって数時間後にもしかしたら不慮の事故で死ぬかもしれないし、時の運もあるのは確かだよ」


愛琉の言葉に少し救われたのか、ずっと俯いていた彩葉が涙を流しながら上を向いた。


「斎藤?って言ったよね?あなた…都姫とタイマン張りたかったんでしょ?……代わりに私が相手になってあげるよ」


彩葉の意外すぎる言葉に周りにいる一同は、一斉に彩葉の方を向いて驚いていた。


「如月…都姫はアンタと個人的にタイマンして勝てなかったとアタシに言っていた。まさか、アンタからそう言ってくれるなんて思わなかったよ。……こっちとしても都姫にこのまま勝ち逃げされたままじゃ気分悪いし、都姫が勝てなかった如月が相手になってくれるならアタシも張り合いがあるってもんだ!」


斎藤は既に今からでもタイマンをしてもいいと言った感じだったので彩葉が言った。


「それじゃ、今からやろうか!場所はどうする?」


彩葉がそう言うと話を聞いていた友紀子が提案した。


「アタシの知り合いがこの病院で働いててよ、特別に屋上を使わせてもらうってのはどうよ?誰にも邪魔されずに思う存分タイマン張れるぜ?」


友紀子の提案に彩葉と斎藤は賛成して、特別に許可を取って黙認で屋上を使わせてもらうことになった。

まぁ…普通なら絶対ありえないのだが…


屋上にきた2人は早速、お互い一定の距離を取って睨み合った。


「準備はいいか?……行くぞ!オラァ!!」


斎藤はそう叫びながら彩葉に殴りかかった、しかし彩葉は立ったまま構えもせずに斎藤のパンチをもろ右頬でくらった。

そのまま一気に攻撃の手を緩めずに斎藤は殴る蹴るなどを繰り返した。


「はぁ…はぁ…どうした如月!!なんで殴り返さねぇ!!」


全く反撃してこない彩葉に対して、斎藤は苛立ちながら怒鳴りつけると彩葉は一方的に殴られたのにも関わらず余裕の表情で斎藤に近づいた。


「…殴るのは満足した?」


彩葉がそう言うと「は!?」と斎藤が言った瞬間に強烈で素早い彩葉の蹴りが斎藤の顎に炸裂して、そのまま斎藤を蹴り飛ばした。

数メートルくらい吹き飛んだ斎藤は地面に背中から落ちると少し転がりながら仰向けで倒れ込んで気を失った。


「勝負あったな…まさか一撃とは」


タイマンを蓮と一緒に見ていた友紀子がそう言うと「俺の妹だからな」と蓮はなぜか嬉しそうにしていた。


15分くらい経った後に斎藤は目を覚ました。


「…どれくらい意識飛んでた?アタシの負けみてぇだな…まだ蹴られた顎がいてーよ…如月、アンタまじでつえーな!完敗だよ…まさか一撃でKOされちまうなんてな」


彩葉は斎藤に手を差し伸べると斎藤は彩葉の手を掴んで、彩葉の力を借りて体を起こした。


「都姫のところに戻ろう」


これから都姫の遺体を運ぶのに葬儀屋がやってくる頃だ、彩葉達は都姫の病室へと戻っていった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る