第41話 町田のスーパーカブ乗り
不可解な1本の電話から始まった彩葉と愛琉の突発町田ツーリングは霊的なイタズラだろうということで解決したが、彩葉は霊に体を支配されてしまった影響で体力が消耗してしまってとても茨城までバイクを運転するのはツラい状態なので、先程偶然出会った原2のスーパーカブに乗る同い年くらいの少女の家で休ませてもらうことにした。
「着いたよ、バイクは適当にそこら辺に停めて」
少女がそう言うので、彩葉と愛琉はバイクを停めさせてもらった。
少女の家は、一昔前の木造平屋ですぐ近くには緑色というよりカエル色?のISO規格のコンテナがあった、少女はここでカブの保管及び修理をしているようだった。
「私はこれからカブのオイル交換をするから、適当に寛いでくれて構わない。あなた達は高校生?」
少女がそう聞いてきたので「高3です」と彩葉が言うと、少女は「私は大学1年」とだけ言ってカブのオイル交換を始めた。
ただ、寛いでいるのも暇なので彩葉は何か手伝うことはないか聞いてみた。
「あのぉ…オイル交換の作業でお手伝いすることはありますか?」
彩葉が聞くと「特にない」とあっさり断られてしまった。
愛琉はカブの少女の冷めたような態度を見て「なんだか冷たい人だなぁ…」と小声で彩葉に言うと「馬鹿、失礼!」と小声で言いつつ愛琉の口を手で塞ぐ。
しばらく間が空いた後に少女が彩葉と愛琉に言った。
「それじゃ最後のチェックをあなた達にお願いしようと思うんだけど、できる?」
少女が彩葉と愛琉にそう言うと、「任せてください」と彩葉は返事した。
少女は手慣れた感じでテキパキと作業を進めるとオイル交換をあっさり終わらせた。
彩葉と愛琉は、作業の抜けがないか細かくチェックを始めた、ボルトの締め具合や取り付け忘れなどを徹底的に確認するとバイク屋のバイトで何度もカブのオイル交換をしている彩葉はDIYでここまで整備に抜かりのない人は初めて見たと感心していた。
「お姉さんはカブの整備のほぼ全般をご自身でやられてるんですか?私はバイク屋でバイトしてるんですがDIY整備をしてる方でここまで丁寧にやられている方は初めてです」
彩葉が少女の作業について褒めると、「基本的にはカブの整備は自分でやる」と少女は答えた。
少女は家の中に入ると、冷蔵庫から炭酸水を3本持ってきて彩葉と愛琉にくれた。
「これは私が特別な日に御馳走を食べる際に飲んでいる富士ミネラルウォーターのスパークリング、今回は特別にあなた達にあげよう。」
少女からスパークリングを受け取った彩葉と愛琉は「ありがとうございます」と頭を下げると炭酸水を飲み始めた。
これは炭酸が強くて、確かに食事と合わせて飲んだら最高だと彩葉は思った、少女は彩葉達のバイクを炭酸水を飲みながら見ている。
彩葉のz750fxと書かれたエンブレムを見て少女は彩葉に話しかける。
「霊園で会った時は既に薄暗かったから気づかなかったけど、小柄なあなたの方のバイクってナナハンだったんだ。高校生で大型二輪免許を持っている女子は珍しい、まだ4月末だけど既に18歳になってるってことか」
少女がそう言うと、彩葉はFXを手に入れた経緯を簡単に話した。
「私の亡くなった父が生前、8つ離れてる兄の為に南大沢に住んでる人からそのフェックスを買ったと兄から聞きました。私自身も16歳で父が残してくれたz400fxに乗ってたんですが事故で大破させてしまって…高2の春休みの時に転勤で山梨にいる兄から新たにバイクを買ったからそのFXを譲ってくれると話があったんです。4月2日生まれなので18歳になったと同時に一発試験で大型二輪免許を取って今に至るってわけです」
彩葉がそう言うと少女は「FXは盗難がすごいから気をつけた方がいい、大事な物なら尚更」と少女は相変わらず冷めたような感じではあるが、心配してくれてるようにも思えた。
愛琉がスマホの時計で時刻を確認すると、既に20時を過ぎていた。
「やっば!もうこんな時間!?彩葉そろそろ帰らないと日付跨いじゃいそうだわ…あの、お姉さん?この時間にバイクのエンジンかけても大丈夫ですか?」
愛琉が少女に聞くと、エンジンをかけても大丈夫と頷いてくれた。
彩葉と愛琉はバイクのエンジンを始動して暖機を始めた。
東京だけに彩葉のトーキョー鉄管の音が南多摩エリアに響き渡る。
「私の知人にもチタンマフラーの爆音のハンターカブ乗りがいるけど、流石にナナハンの排気音は実際に聞いてみると太くて圧が凄いものだね」
少女はそう言いながらFXの排気音に圧倒されていると、愛琉が帰り道の最適ルートを少女に聞いてみた。
「ここから茨城に帰るとしたらどんなルートが最適ですか?」
愛琉が少女に聞くと、南多摩尾根幹線道路をひたすら調布の方へ向かって国道20号線の甲州街道を新宿方面に走って永福から首都高に上がるのが道もわかりやすいらしい。
「ここを走って調布ICから高速に乗るのもいいけど、そうなると僅かに中央道の料金が発生して永福でさらに首都高料金を支払うことになる。それならば下道で永福まで行ってそこから首都高に上がった方がコスト的にはいいと思う」
少女が説明すると、なるべくコストを抑えたい彩葉と愛琉は少女が奨めるルートで帰ることにした。
彩葉と愛琉は少女に挨拶をすると、バイクに跨ってゆっくり走り出した。
少女は彩葉達の姿が見えなくなるまでその場に立って何か考え事をしてるようだった。
「あの小柄な子…以前に韮崎で見かけたことがあるような……まぁどうでもいいか」
少女はそう呟くとISO規格のコンテナの扉を閉めて、家の中へ入っていった。
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