第2章 高校3年生編

第34話 誕生日プレゼント

4月3日の朝の6:00。

耳障りなアラームは健在で彩葉は目を覚ました。

洗面所に向かうと歯磨きすると、顔を洗って化粧水と乳液をつけると日焼け止めクリームを顔と首に塗ると彩葉は洗面所を出て着替え始めた。


今日は普通二輪免許から大型二輪免許、つまり400ccまでのバイクしか乗れない状態から排気量を問わない無制限にする一発試験を受けにいく。

小中一貫校時代の恩師でありバイト先の店長である剛の娘の京香は今日は教師の仕事が休みということで試験場まで送迎してくれるとのこと。

そういえば一昨年に初めて一発試験で普通二輪免許を取りに行った際は京香は仕事だった為、剛が送迎してくれたことを思い出した。

あの時は免許を取ること自体が初めてだったので不安などもあったが、もう免許を取得して2年は経っていると思うと時の流れは早いと感じた。


彩葉は試験場に行く準備を終えると家の戸締まりをして外で京香が来るのを待っていた。

本当なら現在、移動手段として使っているz125proで試験場まで行くつもりだったが「試験なんだから私が送迎するわ」と教え子であり親のいない彩葉にとっては、実質母親代わりのような存在でもある。

しばらくすると京香がやってきた。


「おはよう、彩葉ちゃん!忘れ物はないかしら?早速乗ってちょうだい」


京香が助手席の窓をあけて車越しに言うと、「お願いします」と彩葉は挨拶すると京香のBMWに乗り込んだ。

京香は「緊張してる?」と聞いてきたが、彩葉はそこまで緊張はしていなかった。

朝の交通量が少ない県道や国道を走って茨城町の試験場に着いた。


「それじゃ、終わったら連絡してね」


京香がそう言うと、彩葉は「わかりました」と頭を軽く下げて試験場の中に入っていった。

彩葉は窓口で受験料、試験車使用料、免許交付料を支払うと技能試験をやるコースに向かった。

普通二輪免許の時は学科試験と取得時講習をやったが、今回は既に普通二輪免許を所持しているので免除となる。

普通二輪免許を取得する際に京香と洸平に教わった私有地でバイト先にあったゼファー1100を使って、大型バイクの感覚を掴む練習をしたので気持ちには少し余裕はある。

大型二輪の試験のみにやる波状路が唯一不安要素があるが、動画などを観てイメージしてきたので大丈夫だろう。


「如月さん!こちらへどうぞ」


試験官に呼ばれたので彩葉はそちらに歩いていくと試験官から試験の流れなどを簡単に説明されて、早速試験が開始された。

ここからは普通二輪の時と同じで波状路が追加されてコースが変わるだけだが、使う試験車がxjr1300で彩葉は初めて1300ccに乗る。


正しい手順通りにバイクに跨りミラーを調整するとギアを1速に入れて彩葉は走り出した。

まずは外周を1周だけ慣らし走行をすることになっていて採点されることがない、今のうちにバイクの感触を掴んでおくことにしようと思ったが彩葉既にxjr1300に感動していた。

余裕のあるパワーで足つきもそこまで悪くなく何より乗りやすい!

このバイクならロンツーしてもどこまでも行けてしまうと思いながら運転していると慣らし走行が終わって採点がスタートした。


彩葉は亡き父や兄譲りのバイクの運転センスを発揮して、スラロームに向かっていく。

ジグザグに交互に華麗に通過している際に彩葉は感じたがこのバイクは走らせてしまうとめちゃくちゃコントロールがしやすいし楽しい!

スラロームを5秒台で通過した彩葉はS字クランクを通過して一本橋まできた。

大型二輪の指定タイムは10秒以上だが、彩葉は絶妙なクラッチ操作で車体をコントロールするのがz400fxに乗っている頃から得意だったのでそれが大型の試験にも活かされて彩葉は18秒で一本橋を余裕で通過した。

続いては初めてやる波状路だが、彩葉は個人的に立ち姿勢を取って少し練習してきたので波状路に入った瞬間だけ少しギクシャクしたが転倒やエンストもすることなく通過することができた。

波状路を通過すると急制動だが、既に公道で車の流れに沿って走っている者にとっては40キロキープからの停車は造作もないだろう。

急制動をクリアすると彩葉は発着所まで戻ってきて指定の場所に正しい手順でバイクを停車させて試験は終了した。


彩葉は試験官の指示で待機所で待っていると、しばらくして先ほどの試験官がやってきて合否を言い渡された。


「如月さん、全体的に丁寧に運転されていました。しかし波状路が少しギクシャクしたかな?まぁ大型二輪を受けにくる人はみんなそうなるので…しかしスラロームと一本橋は素晴らしかったですよ!クラッチやブレーキ操作もしっかり4本の指を使って操作出来てましたし、ニーグリップやミラー合図目視もしっかりやられてました。合否ですが…合格です!お疲れさまでした」


試験官から合格と言われると、彩葉は肩の力が抜けたのか一気に疲労感に襲われた。

やはり試験というのは緊張していて、どこか神経をすり減らしているのだろう…出来ればこんなことは何度も味わいたくない…

一発試験で1回目合格をする人は、本当に極稀で彩葉は普通二輪と大型二輪を共に1回目で合格してしまったので相当な幸運に恵まれていたのだろう。


彩葉は窓口まで戻り技能試験に合格したことを伝えると午後からの免許の追加交付をすることになった。

既存の免許証を提示して、視力と聴力検査をした彩葉は2階の教室で普通二輪免許の時と同様に免許交付の準備までの間に写真撮影や交通安全協会の話を聞かされることになる。


しばらくすると新しい免許証を持って担当の者がやってきて、1人ずつ順番に名前を呼ばれて免許証を渡される。

「如月さーん、如月彩葉さーん」と名前を呼ばれて新しい免許証を受け取った彩葉は、とりあえず写真を確認する…よし、悪くない…

免許の所持項目には、普自二の左隣に大型二輪を示す大自二の文字が追加されている。


「約束通り1発で取ったよ、あんちゃん」


彩葉はボソッと独り言を呟くと免許証を財布の中に入れて免許センターの外に出て京香と待ちあわせする予定の免許センターの後ろの駐車場まで来た。

京香には合格したことを伝えて大体の終了時間を伝えたので、もうそろそろ来る頃だ。


しばらくすると遠方からかなりの音量の1台のバイクが近づいてきた、太い音圧で400ccクラスの音ではない。

バイクの正体はなんとキャンディレッドに塗装されたばかりの蓮から譲り受けたz750fxに乗った京香と後ろから1tトラックでついてきた剛がいた。


「合格おめでとう!そしてこれは1日遅れたけど私達や蓮からの誕生日プレゼントよ!もちろん受け取ってくれるわよね?」


京香はそう言うとFXのエンジンを切って降りると、キーを彩葉に手渡した。

綺麗に仕上げられているFXを見渡すとマフラーは馴染みのあるトーキョー鉄管が取り付けられていた。


「皆さん、ありがとうございます!最高の誕生日プレゼントです!」


彩葉は頭を下げて礼を言うと、「早速だけど慣らし運転しましょう!」と京香が言うので彩葉は久々にFXに跨った。

キーを挿してONにすると、セルスタートボタンを押してエンジンを始動した。

さすがにナナハンになると音の重圧がすごい。


ギアを1速に入れてゆっくり走り出した彩葉は駐車場から道路に出ると、1速から2速に上げて回転を上げていく。

4000rpmを超えたあたりから400ccのFXに乗っていた時にはなかったパワーに彩葉は驚いた、これが大型…漢Kawasaki、改めてFXに乗ってみて彩葉は自分にはこれがしっくりくると思った。


後ろからトラックでついてくる剛と京香は、ナナハンのバイクに乗ってる彩葉を見て嬉しいような悲しいような…またひとつ成長した我が子のように見ていた。


「彩葉ちゃんもとうとう大型ライダーかぁ…初めて中免を取ったときが懐かしいわね」


京香がそう言うと剛は涙を流しながら「あぁ…そうだな」と言ってる姿を見て、京香は「何、泣いてんのよ」と笑いながらからかっている。


彩葉は高1の夏に事故をしてバイクが大破し、1年以上FXに乗れない日々を過ごしていたがようやく彩葉のバイクライフが再び始まった。

FXを運転しながら彩葉は亡き父・啓司との約束を思い出していた。


「お父さん、あんちゃんの為に探してきたz750fxに今度は私が引き継いだよ!これからはこのフェックスと共に私は走っていくよ!」


彩葉は誰にも聞かれないと思って運転しながら父に向けて言うと、背中をポンと誰かに叩かれる感触がハッキリとわかった。

彩葉は少し驚いて一瞬だけ後ろを振り向いたが、そこには誰もいない。

だが彩葉には、さっき背中を叩いて押してくれたのは啓司だとすぐにわかった。


「ありがとう、お父さん」


z750fxは彩葉にとって忘れられない最高の誕生日プレゼントとなった。

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