AFTER STORY (高校2年生)

冬の富士山と本栖湖

11月の土曜日 晴れ AM7:30。

彩葉は国道413号線の道の駅どうしにいた。

今年の夏に事故を起こしてFXが不動車となってしまった為、現在はz125proに乗っている。


冬の富士山を見てみたくなった彩葉は、本格的に道路の凍結が始まる前にGW以来となる山梨にやってきた。

彩葉が現在いる道の駅どうしは、道志みちと呼ばれるライダーの定番ツーリングスポットの道の駅として有名で、11月の現在ではバイクシーズンが過ぎているのでそこまでライダーの姿は見当たらない。

まぁ生粋のライダーは雪が降ろうが乗るのだが…


そろそろ今回の旅の目的である本栖湖に向かおうと思った彩葉はz125proのエンジンを始動すると、道志みちを山中湖方面に走っていく。

ひたすら道志みちを走り続け山中湖まで来た彩葉は、信号を右折するとマリモ通りと呼ばれる県道729号線を山中湖を眺めながら走る。

少しバイクを停めようと思ったが道路が空いているうちに本栖湖まで向かおうと思った彩葉は、山中湖の周りをぐるっと回るように走り国道138号線と交差する信号を富士吉田方面へと右折する。


流石に11月の富士五湖周辺は気温が低く寒い…

今から登山でもするのか?というくらいアウターを重ね着してきたがそれでも寒い…

これが冬のバイクか…と思いつつ彩葉は国道138号線から国道139号線に切り替わり横町バイパスの河口湖ICを過ぎて順調に鳴沢のあたりまできた。

バイクのスマホホルダーに固定しているスマホの時計を確認するとまだ8:40でまだ渋滞している様子はなく順調のペース。

本栖の信号を国道300号線の本栖みちに右折した彩葉は少し進むと本栖湖展望公園の隣にあるみのぶ観光案内所の駐車スペースにz125proを停めると綺麗に雪化粧をした富士山を拝むことができる場所に移動した、今日は雲ひとつない快晴で富士山もよく見えるし最高だ。

観光客もそこまでいないのがさらにいい。

スマホを取り出した彩葉は富士山の写真を撮り始めた、これでもかってくらい様々な角度から写真を何枚も撮っているとトイレに行きたくなったので本栖湖の公衆トイレに行くと衝撃的なものを見ることになる。


「え!?何あの子!?ね、寝てるの?」


彩葉は思わず1人で喋ってるみたいで誰かに見られてないか不安になったが誰にも見られてない様子。

公衆トイレのベンチで本栖湖に来るにはちょっと薄着といった感じのピンクのダウンを着た女の子が寝ている…しかも完全に爆睡…

隣には女の子の自転車らしきものがあるが、まさかここまで自転車で来たのか!?本栖湖なんてかなり標高の高いところにあって自転車だと普通にキツい。

彩葉は風邪をひいてしまうので起こしてあげた方がいいと思い女の子の元へ行こうとした瞬間に、急に背筋が凍ったような危険を察知したような感覚に陥った。

このまま自分が話しかけてしまうとこの子の人生を変えてしまうような気がした…

それにこんなに気持ちよく寝てるのに邪魔をするのも気が引けたのでそっとしておこう…

さっさとトイレを済ませて本栖湖のセントラルロッジにでも行ってみるかと思った彩葉は、トイレに入って今度はいろんな意味で驚いた。


「え?このトイレ有料なの!?」


トイレの管理費の為に50円以上を入口のコインボックスに入れるように張り紙されていた。

「おい、まじか」とつい口にしてしまったが、彩葉はとりあえず50円玉があったのでコインボックスに入れた。

こういうのは人それぞれ性格が出るだろうなと思ったが、これでトイレを綺麗に管理されるのであればアリかなぁと思ったがトイレでお金を取られたのは初めてだ…

トイレを済ませて外に出るとベンチでは相変わらず女の子がイビキをかいて爆睡している。

こんなくそ寒いところで寝れるなんて逞しいってレベルじゃないぞ、しかもシュラフに入ってるならまだしも何もかけてすらいない…

そういや…この子に以前どこかで会ったことがある気がするなぁ…

まぁいいやと思った彩葉はセントラルロッジの方に歩いて行った。

少し場所が変わるだけで富士山の見えるアングルが変わるなと思った彩葉は、またスマホのカメラで写真を撮っていると後ろから突然話しかけられた。


「あなたは確か…GWの時に身延に来ていたバイク乗りの人だよね?」


彩葉が声のした方へ顔を向けると、そこにはGWの時に身延に訪れた際に会った腰までありそうなロングヘアをお団子で纏めた女子高生の女の子がいた。


「あー!あの時の子!GWの時はあなたに助けられたね、その節はありがとうね!」


彩葉はGWの時に身延町に来た際に軽い熱中症になってしまい偶然会ったお団子ヘアの女子高生に助けられていた。

彩葉は改めてあの時の礼を言ったが、そういえば彼女の名前を聞いていなかった。


「そういえばさ?あなたの名前を聞いてなかったね、私は如月って言います」


彩葉が先に名乗るとお団子ヘアの子も「シマです」と名乗る。

シマさんはトイレに行くつもりだったらしく「ちょっとトイレに行ってくるね」と言うので、アレを見たらどんな反応するだろうと思うとちょっと面白かった。

トイレから戻ってきたシマさんは、トイレのベンチの上で寝てた女の子の話を始めた。


「あそこのトイレのベンチで爆睡している女の子がいたよ…よくあんなとこで寝れるよなぁ…私なら寒くて死ねるね」


まぁ普通の人ならその考えになるのがごく普通だ…

彩葉も先程トイレに行ったときに寝ている女の子を見つけて驚いたと話した。


「まぁそのうち目を覚ますでしょ?」


彩葉がそう言うとシマさんも「起きるまでそっとしてあげよう」と言った。

そういや朝から何も食べてないことを思い出したのかお腹の虫がなった。


「私、今日はここでキャンプしてるんだけどテントに戻ればカレーメンがあるけど欲しい?」


シマさんが聞いてくるので「欲しいかも」と彩葉が言うと「1500円」と手を出してくるので、彩葉は「うん、わかった!」とこんなノリよく言われると思わなかったのかシマさんは「いや、冗談だから…」と苦笑いしている。

シマさんがカレーメンを取りに行こうとすると、彩葉はまた変な現象に陥った…

なんかカレーメンを貰ってはいけない感じがする…

それに一瞬だけど誰かと2人でカレーメンを食べてる姿が頭をよぎった感じがした…

彩葉は夏に事故を起こしてから、危険を察知する不思議な力が宿ったのか度々こういう現象が起きるようになったようだ。


「やっぱりカレーメンを貰うのはやめとくよ、なんか悪いしさ…それにそろそろ私も身延駅の方に行ってみようと思ってるし、お気持ちだけ貰っておくね」


彩葉がそう言うとシマさんは「わかったよ」と寂しそうな表情をしていなくもない顔をしていた。


「それじゃ、そろそろ私は行ってみるね!また会いましょう」


彩葉がそう言うと「うん、気をつけて」とシマさんは、バイクの方に歩いていく彩葉を見ていた。

彩葉は歩きながら心の中で先程起きた不思議な現象の原因ついて考えていた。


(思い出した!あのベンチで寝てる子は、GWの時にサービスエリアで会った浜松から来た姉妹の妹だ!確か南部町に引っ越すとか言ってたし冬あたりに引っ越すと言っていた、さっきカレーメンを食べていた2人はおそらくシマさんとベンチで寝てる子だろう…私が見たのはたぶんだけど数時間後の2人の未来なのかもしれない、シマさんはソロキャン派と以前言ってたけどベンチで寝てる子がキッカケで人生が変わろうとしてるのかもしれない、現にカレーメンを食べてる2人は楽しそうだった…だが私がここにいたのではそれを壊して歴史を変えてしまう…先程の不思議な現象はそれを防ぐためのものだったのだろう)


彩葉はz125proのエンジンを始動すると、本栖みちを身延町方面に向かっていった。

あの2人がこの後どうなっていくのかなんとなくでしかわからないが、良い関係になってくれることを彩葉は祈っていた。


「人って何気ない出来事で考え方が変わったりする、私がお父さんが残してくれたフェックスでバイクが好きになったように、きっと彼女達も今後の生活が変わっていくはずだ」


彩葉はバイクに乗りながら1人で呟きながら、まるで自分のことのように嬉しい気持ちになった。



【SPECIAL EPISODE 完】





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