フェックス
天王寺 楓乃
序章 中学生編
第1話 ド田舎暮らしの少女
茨城県石岡市瓦谷。
ぽつんと一軒家に兄と二人暮らしの少女がいた。
少女の名前は如月彩葉。
身長は149cmと小柄で可憐な雰囲気。
中学3年の彼女は、3月中頃には卒業して4月から水戸市にある県立高校に進学が決まっている。
金曜日の朝の6:30
いつも通りに起床した彩葉は、兄・蓮のいるリビングに向かう。
「おはよう、お兄ちゃん。」
蓮は彩葉の朝食を作っていた。
「おう、彩葉!朝メシできてるぞ」
彩葉は、いつも通りの食パン2枚とコップ1杯の牛乳じゃないかと思いつつも「いただきます」と両手を合わせて食べ始めた。
蓮と彩葉は、歳が8つ離れていて蓮が18歳の時に母が病気で亡くなり、20歳の時に仕事中の労災で父も亡くなってそれ以来彩葉の親代わりとなっている。
高校時代の蓮は他校の生徒と喧嘩ばかりしていて腕っぷしも強かった為、暴走族の総長に上り詰めるほどだった。
それでも卑怯なことや盗みなどは嫌いで、蓮が総長をやってた時は「好きなバイクを盗まれて落ち込んでる奴の姿なんて見たくねぇ」と言う理由でバイクの盗みは禁止にしていた。
朝食を食べ終え学校に行く準備ができた彩葉は、玄関にいた。
「じゃあ、いってきます。」
蓮はいつも通りに彩葉を玄関で見送った。
「おう、気をつけろよ!それと京香に今日お前ん家に夜に行くって伝えておいてくれ」
彩葉は「わかったよ」と言って自転車に跨がり学校に向かった。
彩葉の通う学校は小中一貫校で生徒は彩葉1人しかおらず9年間ずっと1人で学校に通っていた。
彩葉が卒業すると同時に廃校になる予定だ。
学校に着いた彩葉は、担任の先生が1人待つ教室へと向かう。
「おはようございます。京香先生」
教室に入ると眠そうな顔をした担任の桜井京香が彩葉を見て慌てた様子で言う。
「あっ!おはよう!彩葉ちゃん!明日でとうとう卒業ねぇ…9年間あっという間だったなぁ…」
「そうですね…9年間ずっと京香先生と一緒だったから明日で卒業と思うとちょっと寂しいですね。」
彩葉の通う瓦谷小中一貫校は、校長と京香の二人だけで9年間彩葉の担任を京香が担当した。
ちなみに京香自身もこの一貫校の出身で、大学を卒業後にこの一貫校に勤務している。
まぁ田舎ならよくありがちな流れだが…
彩葉は、蓮からの伝言を思い出したので京香に慌てて伝えたら「アイツ今度は、何を買うつもりなのかしら」と京香が腕を組んで考えるように言う。
京香と蓮は一貫校時代からの幼馴染みの同級生で、京香の実家がバイク屋を営んでることもあり蓮が高校時代にはよく京香の家のバイク屋に行っていた。
実家がバイク屋なだけに京香自身もバイク好きで通勤の時も愛車のSR500に乗っている。
学校が終わり彩葉が帰宅すると、蓮が愛車のZ750FXのエンジンを暖機していた。
「よぉ、帰ったか彩葉!これから買い物に行ったらそのまま京香の家に大事な用事があるからよ、テキトーに1人で夕飯食っててくれ」
そう言うとワンオフのショート管を奏でながら颯爽と出かけて行った。
彩葉の住む瓦谷地区は、近くにスーパーがなく一応コンビニはあるが北海道がメインで展開している地方コンビニが1店舗あるくらいで閉店時間も早い。
スーパーなどで買い物をする場合は車やバイクで10〜15分くらいの柿岡地区まで行くしかない。
現在は石岡市となっているが、合併する前は八郷町でその名残で未だに八郷の名称を使う者もいるが鉄道路線が通っておらず、バスも走ってはいるがココ最近は本数も少なく乗っている客層も地元の高齢者がちらほら…
子供は親に石岡市街まで送迎してもらうか自転車で気合いで走るかのどちらかで、最低でも原付免許がないとそれなりの移動手段を確保するのが困難な地域である。
買い物を済ませた蓮は京香の家に到着した頃だった。
ワンオフマフラーの音がうるさかったのか既に家の外で京香が耳を塞いで待機していた。
「何よ、大事な話って、彩葉ちゃんのこと?」
蓮は珍しく真面目な顔をして言った。
「まだ彩葉には言ってねぇけど、4月から転勤になっちまってよ…山梨に行くからしばらくコッチに戻ってこれねぇ…だから京香に彩葉のことを気にかけてやって欲しい」
京香は少し驚いた様子だったが、少し間をあけた後に「うん、いいよ」と言った。
しかし蓮がもっと重要な話がある感じなのは、京香にはわかっていた。
すると蓮がこれが本題だと言わんばかりに言う。
「京香…お前の兄貴…洸平さんに頼んで欲しいことがある」
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